タイカンと伝説の剣
【深淵】の剣が、伝説の剣だという。
詳しく知るベンテンの家でその話しを聞く。
外では、不具合はないかと、提灯に灯りを付けて試す人々がいる。城下町は、迎え火の準備で慌ただしくしていた。
陽の光の中に、ぼんやりと見える提灯の灯りも、なかなかに美しい。
『ほな、本題に入ろか?ベンテンええかな?』
『ああ、【深淵】の事やな。しかし、ほんまに何かの宿命があるんやないかと思うわ。』
『私ですか?そんなに凄い剣なんですか?』
『ええ。四種の至宝って言われてましてね。詳細な場所までは、分からんものの各地で祀られ、大切に保管されてると聞いてます。』
『その一つが【シガ】の島にあった、この剣か、、、』
『みたいですね。【深淵の剣】、【最果の鎧】、【忘却の盾】、【創造の兜】、これで四種の至宝です。』
ヴリトラも知っていたようだ。
『そうだね。【忘却の盾】は、この大陸にあるのでは無かったかな?』
『ヴリトラも知ってるんやな。そうや。そう聞くけどな。当然、見つかってないねん。伝説は伝説なのかもしれへんと思ってたけど、タイカン殿が剣を持ってる。』
『ベンテン、そやったら、他の三種もあるんやな?』
『そうやろうなぁ。』
ミカノは、わくわくが止まらないようだ。
『ねぇ!探そう!見つけようよ!!』
『まあ待ち、ミカノくん。そうそう簡単に見つかるもんやないねん。何百年、いやもしかしたら何千年も前からの伝説なんや。そこら掘って出てくるんやったら、もう全部揃ってるわなぁ。』
『そっかぁ〜、、、』
『ミカノくんは、落ち込むんも早いなぁ。まあ聞きいや。』
ベンテンは伝説について話してくれた。
大昔、この世界は未曾有の危機に晒されていた。各地で山は噴火し溶岩が溢れ、海は荒れ津波を引き起こす。空は黒く覆われ大地に陽が差す事は無かった。
人々は、神の怒りか悪魔の仕業かと、祈り恐怖していた。
そんな時に、黒い空から【光る君】が地上に現れた。
神か悪魔かと恐れる人々に、【光る君】は告げる。
『我はこの世界に光を齎す者。
我の盾で弾くものは、忘却の彼方へと散り
我の鎧で受けたものは、最果てへと消える
我の剣で屠るものは、深淵の闇へと誘われる
そして、
我の兜は、我に大いなる知恵を授け、万物を創造する
我は、この四種の至宝でこの世界に光を齎す者である。』
【光る君】は溶岩を消し去り、津波を止め、荒波を抑えた。天空を切り裂くと、陽の光が照らす。
そして、緑豊かな大地を創造した。
『とまあ、こんな話しが伝わってんねん。せやけど、いつからこの話しが始まったのかも分からんねん。何百年前かもしれへんし、何千年前かもしれへん。お伽話や爺婆の昔話やと思うて、皆聞いてたんや。』
ベンテンの話は、とても興味深いものであったが言う通り、お伽話の類に聞こえた。
『そうですか。確かに夢物語のような話ですね。』
『タイカン殿、それでも【深淵】の剣は、そこにあるんですよ。』
ベンテンがそういうと、私の剣を皆が見つめる。
ヴリトラもこの話に興味津々である。魔族にしか知り得ない事もあるかもしれない。
『喋ってもいいかな?』
『勿論だ。ヴリトラの知っている事も知りたい。話してくれ。』
『ごめんよ、何か期待させてしまっているかもしれないが、私が知っているのもその話だけだよ。』
『そうか、、いや、いいんだ。話してくれ。』
『私は、マスターに賛成ですよ。探せばいいじゃないか?この世界には、まだまだ夢があるって事だろう?私は、この世界を楽しみたいんだよ。』
『だよねっ!ヴリトラもそう思うよねっ!そうだよっ探そうよ!』
ヴリトラとミカノの瞳は、既に世界に飛び出している。同じようにらんらんに煌めいている。
エビスが、らんらんの二人に手を広げ、落ち着かせようとする。
『ミカノくん、ヴリトラ、旅に出ようとしている所、悪いんやけど。』
『はぁ、、。キミは、人の話も聞かずないし、邪魔しかしないね。何が言いたいのかな?』
『えらい言われようやなぁ。邪魔はせぇへんで、どこに行くんや?って事やん。』
『、、、、』『、、、、』
二人は煌めいた瞳のまま、黙ってエビスを見ていた。
『はあ~、、、ベンテン、何かあらへんのか?』
煌めいた瞳は、エビスからベンテンへと移動する。
『えっ!エビスお前、、、え~、、、。いや昨日までお伽話やと思ってた事やでぇ。』
腕組みして、唸るベンテンだった。
ベンテンが悩んでいる姿を見ながらエビスも呟いた。
『そやなぁ。そんなお伽話みたいな事、真剣に調べる奴なんておらんかぁ。おったら変人やで。』
『せやで、おらんでそんな変人、、、変人?ん?変人!』
『おいっ変人や。変人!』
エビスとベンテンは、「変人」に思い当たる人物が同時に頭に浮かんだ。
『ガワラや!』二人は、声を揃えて叫んだ。
私の横で寝ているブーンも二人の声に驚いている。
『ブッフン!』
『ブーン大丈夫だよ。エビス、そのガワラというのは?』
『すまんすまん。俺等の同期でな、もう部隊は辞めてしもてて、完全に忘れてた。変人ガワラ言うて、めちゃくちゃ変わり者やねん。)
『同期、、、。その変わり者のガワラが何か知っているのか?』
『それは、聞いてみいへんと分からんけど、変人なら調べててもおかしない。どうでもええ事も、ひたすらに調べまくってたし。あいつ以上に情報持ってる奴なんか、絶対おらんで。なぁ、ベンテン。』
『せやな。あいつに聞いて知らんかったら、諦めなしゃあないかもしれんわ。』
『会えるのか?』
『う~ん、、、何処に行ったんやったか、、、』
『ベンテン、ナガラさんやったら知ってんちゃうか?』
『かもしれんな。聞いてくるわ。』
ベンテンは、ナガラへ会いに城へ向かっていった。
『マスター、行けるかもしれないですね。』
『うん!世界に夢はあるんだもんね!』
『ええ。仰る通りです。』
煌めく二人は、私達を置いて既に夢の世界にいる。