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タイカンとミカノとサクヤ

【シガ】の街も冬を越え春の陽気が包んでいた。復興の空気は衰える事なく、春の息吹を追い風にしていた。懸命な街の人々に島が祝福をしているようだった。


『ターイ。まち。なに?』

『いっぱいの人がいるところだよ。おいしいご飯もあるし、たのしいところだよ。』

『サクもたのし?』

『うん。サクもたのしいよ。いっしょにいこうね』

『いく。ターイとサクといっしょいくぅ!』


ミカノが話しの中心になる事は日常となっていた。


(街へ行こうとは言ったものの、長はどう言うだろうか。

ミカノを連れて行くだけではなく、サクヤもいるし。)


『ターイ。ねぇのせて。うえのせて。』

『おっ。よしいくぞ。それっ』

ミカノのお気に入りは、私の肩車だ。見える景色が変わるのだろう。

(まぁ。考えても仕方ないな。)

『ミーくんよかったねぇ。高いねぇ』

『えへへっうんっ!』


崩れた城壁を越えると、賑やかな声が響いていた。

私達を見つけた街の者達は、驚いた様子だった。


(それはそうだな。オニを倒して、山に籠もって、春が来たら子供と女を連れて戻ってきたのだから。私がそっち側でも、そうなる。)


『タイカン?!えぇ。なに??結婚してたのか??』

始めに声を掛けてきたのは、布団等を買った商店の主だった。

『いや。結婚した訳では。。』

『いやぁめでたいなぁ。まさか、タイカンが嫁と子供を連れて来るなんて。めでたいっ』

私の返事など聞く耳を持たず、勝手な祝福が続いていた。

サクヤもさぞ気まずい顔をしているのではと、隣に目をやった。

(えっ。。なんですか、その満更でもない顔は。。いいの?大丈夫なの?)

商店の主の話は続いていた。

『おチビちゃん、可愛いなぁ。こんな強いお父さんと、べっぴんさんのお母さんがいるなんて、羨ましいねぇ』

『うふふ。ミカノっていいます。』

サクヤは、ミカノを可愛いと言われた事に微笑んでいるのか、自分がべっぴんと言われた事に微笑んでいるのか分からないが、上機嫌だった。

『そうか、ミカノちゃんかぁ。お山の名前とおんなじなんだなぁ。縁起のいい名前だっ。』

『うふふ。ありがとうございますぅ。』


『そうかそうか。めでたい事だなぁ。もう長とは会ってきたのか?』

『いや、今来たところでまだ長の屋敷には寄ってないんだよ。』

『それなら、驚くだろうなぁ。早く見せに行ってやれよ。それじゃ、俺は店に戻るから。何か欲しいもんあれば言ってくれ。店の物で良ければ結婚祝いっていうことでプレゼントするから』

『ハハハ。まぁ。。その。。何かあれば行くよ。ありがとう』


商店の主と別れ、長の屋敷へ向かった。

『ねぇタイカン。長は何処まで知ってるの?』

『あぁ。最初に戻った時に、ミカノの事は伝えてあるよ。』

『そう。じゃあどういう子供かって事は知ってるんだね。』

少し不安気な顔をするサクヤ。


『うん。長だけには伝えてあるよ。受け入れようとしてくれてるから、安心してよ。』

私の言葉だけで、不安を払拭できない事はサクヤの表情で分かった。しかし、あの時の長の言葉を私は信じている。


長の屋敷に到着した。まだ不安気なサクヤは、私の肩に乗っているミカノをおろして、抱きかかえた。

私は一人で扉の前に行き、長を呼んだ。

トントン

『タイカンです。戻りました。』

屋敷の中から、長の声がした。

『おぉ。タイカンか。今開けるよ。待ってておくれ。』


私とて、ミカノと長を対面させる事に一抹の不安はあった。オニの血が流れる子を、すんなり受け入れてくれるのか。それにはまだ時期尚早なのかもしれないと。

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