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タイカンと長い会談

『ワシは今日、皆の思いを受け止める為に、ここに座っている。全て受け止め切り、そしてワシの願いを伝える為に、ここに座っている。皆、肝に命じよ。』


親方様の号令により招集され始まった会談。

ヴリトラを友と呼び、引き続き【ケーハン】で共に過ごすという親方様の決断に対し、様々な思いが交錯した。


親方様を支持する者、困惑する者、反対する者。

喧々諤々になりながらも、争う訳ではなく、互いの意見に耳を傾けていた。それは側近達だけではなく、サクヤも同じように、耳を傾け思いを話していた。

冷静になれたのは、親方様が話をする者達をしっかり見据え、全てを自身への進言と受け止めていたからだ。


普段のヴリトラであれば、退屈だと口を挟み、会談を滅茶苦茶にしてもおかしく無かったが、この会談では終始真剣な表情を浮かべ聞いていた。


長く続いた会談は、気付けば日も沈み月が出ていた。

皆、それぞれの思いを出し尽くした。


そんな、皆を見てミカノが話した。

『みんな、ぼくのせいでこんな大騒ぎになっちゃって、本当にごめんなさい。

でもヴリトラは、、、馬鹿なとこもあるけど、サクが帰ってくるまでずっとぼくらの事を見てたんだ。

皮肉を言ったり、文句も言ったりするけど、ぼくらの事を面白くて、興味があって、好きだと言ってくれたんだ。、、、ぼくは、ヴリトラを信じたい。

魔族の事はよくわからないし、フクジュさんを殺した魔族は嫌いだよ、、、。でも、ぼくはヴリトラの事は好きだ。だって、、、ぼくらを好きと言ってくれたから、、、これがぼくの思いです。』


ミカノが自分の思いを真っ直ぐに話した。

皆は子供の話だと邪険にせず、真剣に耳を傾けた。


親方様が口を開いた。

『タイカン、お前は何も無いのか?』


私は皆の思いを聞くばかりだった。私の思い、、、


『私は、【シガ】の街で育ちました。物心ついた頃には、オニがいて、、。街の人達を殺し、、、街を燃やし、、、。私の目には復讐だけが光っていました。

その光だけを頼りに、島のオニを殺す日々を過ごしました、、、。

オニを根絶やしにした私に、達成感が無かったと言えば嘘になります。島に希望が訪れましたから。

しかし、今になって思うのです。彼等には彼等の正義があったのではと、、、。森を切り、石を取り、海を汚す、、、。命を奪っているのは、私達も同じだったのではと、、、。

【矢衝隊】のハンプが亡くなった時、私は死を軽んじていた事に気づきました。死は隣り合わせで、珍しいものではない。だから、死は必然なんだと。そう思う事で、私は私の正義を振りかざしていたんだと気づきました。

その間違いを親方様に教えて貰い、、他者の生を考えるようになりました。それは、、、あの時のオニも同じではと。

私は、、、彼を受け入れたい。憎しみではなく、共に生きるという道で。ミカノが話すように、受け入れてみたいと思っています。』


親方様は、私の話しも静かに見守っていた。


『皆の思い、しかと受け取った。』


親方様は大きく頷き、そして前を向いた。


『ワシの願いを聞いてくれ。支持する者、困惑する者、反対する者、皆に叶えて貰いたい。

これから先、今日の話しが正しくも誤りにもなろう。それ程に先は不透明で見えぬ。故にワシは、今見えるものを信じる。ただし、盲目にワシを信じろなどとは言わん。

疑い、反目し、進言を繰り返して欲しい。

そして、、ワシを諦めずに、この先もついて来てはくれぬだろうか。それがワシの願いだ。』


親方様の願いは、私達に届く。


強引に従えと言うならば、城を離れた者がいたかもしれない。しかし、そうはならなかった。親方様は、自身を疑え、反対しろ、意見を言えと、そしてそれら全てを受け止めると決意を新たにした。

その上で、付いて来てほしいと願った。


親方様は、命を大切にしてきた。

他国との争いで、何度も何度も兵士達が血を流してきた。

何度も停戦や和平の方法を模索し、実行してきたが隣国の驚異は収まる気配が無かった。

魔族ヴリトラを友とするナガラの話しは、隣国との関係を改善させる一歩になるかもしれない。

隣国とて、これ以上の血を流す事を望まずに、もしかすると和平協定を結ぶ事の後押しになるかもしれない。そう思い承認し、祭りまで開催したのだ


親方様は、関わる命を大切にしてきた。

この国の民だけではなく、他国の民であっても。戦となれば、その規模に関わらずに誰かがこの世を去る。その誰かにも家族や大切な者がいる。血が流れない事に、勝るものはない。


長い会談が終わり三々五々となる。

広間に残るのは、親方様と私達だけになった。

『精霊様、ご不在の中勝手な事をしてしまいました。申し訳ございません。』

親方様は、改めてサクヤに謝意を伝えた。


『ホテイの気持ちもわかったわ。それに、私も言いたい事は全て言えたし。共に生きる為に、できる事を考えてみましょう。』

『はい。その為に、ワシは全力を尽くします。』


ヴリトラが、長い会談から開放されて、始めて話した。

『う〜ん、、、終わったようだねぇ。』

ミカノは、笑顔でヴリトラを見ている。

『うん。終わったよ。ヴリトラ、よく我慢できたね?』

『マスターの願いを聞くのが私の使命ですよ。』


サクヤがヴリトラの側にいく。

『私、精霊のサクヤ。ミカノの母親よっ!』

『あ〜キミが、、、ふあ〜。はいはい。宜しくね。』

気の抜けた返事と欠伸をするヴリトラに、サクヤは苛々し始める。

『ちょっと、、、何か、、、態度悪くない?』

『ふあ〜、、、まだ何か用があるのかな?私はマスターと、これから紅茶を飲みに戻りたいんだよね。』

『そのマスターの母親に、その態度はないよね?』

『キミ、もしかして嫉妬かい?眉間のシワは残るらしいから、気をつけた方がいいよ。』

『誰が、嫉妬なんてしてるのよ!私への態度が悪いって言ってるの!シワなんて気にしてないわよ!!』

『二人とも〜、やめなよ〜。恥ずかしいよ〜。』

『マスター、申し訳ございません。何か難癖を付けられてしまったようで。』

『ちょっと!難癖って何よ!』

『サク、怒らないで。ヴリトラも悪気はないんだよ。』

『ミカノまで、、、それに、さっきの我慢って何よ!』

『それは、、えっと、、』

『私は、マスターの言いつけ通りに、静かに夢の中で待っていただけだよ。すぐに怒るのはやめといた方が、いい。シワが増えてしまうよ。』

『なっ!それって、寝てただけでしょ!皆、真剣にあんたの話をしてたって言うのに!』

『サク、ヴリトラが話し始めると、みんな怒っちゃうから。ぼくがお願いしちゃったんだ。ヴリトラを怒らないであげて。』

『マスター。なんて寛大な御心、、。反面教師とは、このような事を指し示すのですね。』

サクヤの怒りは頂点に達したようだ。

『ぐっ、、、、大馬鹿野郎ーーー!』

『あらあら。語彙力の無い。さっ。マスター、紅茶を飲みに戻りましょう。ヒミコが部屋で待っています。ささっ、早く行きましょう。』

怒るサクヤを置き、ミカノの背を軽く押しながら広間を出たヴリトラ。眠っていたと言ってはいたが、ミカノが話していた時にはミカノの方を向き、親方様の話しの時には、そちらを向いていた。

ヴリトラなりの照れ隠しなのだろうか。それとも反対する者の意見を聞いていないとものして、禍根を残さない配慮なのだろうか。どこまでの飄々とした男である。


城は月明かりに照らされている。ともかく、長い会談は、無事に終わった。

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