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タイカンとナガラの筋書き

城門に落ちたバエルの死骸は、サモンの指示で布に包まれ城の地下へと運ばれた。放置する訳にもいかず、とはいえ埋葬するのは躊躇いがあった。悩んだ末に、地下牢があった場所へ移動した。

負の感情を強く抱いている筈の兵士達は、バエルの死骸を冒涜するような事はなかった。フクジュの仇であり、幾人もの兵士を犠牲にした憎むべき存在である筈なのに。

流石に手を合わせるような者はいないものの、丁寧に布に包んで、そっと地下牢へ運び入れていた。

この国の民度の高さなのか、それとも死は全てを赦すような教えがあるのか、私には分からなかった。


親方様の部屋の前。私は、ミカノとヴリトラ、ナガラの四人で立っている。


ヴリトラの愚痴は止まらない。

『何故、私達が赴くのでしょう。勘違いしていたのは、親方様とやらでしょうに。はぁ。紅茶が飲みたい。』


ミカノが、ヴリトラを嗜める光景には見慣れてきた。

『ヴリトラ、親方様はえらい人なの!ぼくの大切な人なの!文句言わないでよね。』

『かしこまりました。しかし、マスターに大切な人と言われるなんて、羨ましくも憎たらしい人ですね。』

『それも文句だからねっ!』


扉を叩き入室の許可を得る。

『構わぬ。入れ。』

扉を開けると、項垂れている親方様が座っていた。その後ろには、精霊使いのダイコクが立っていた。昨晩フクジュの訃報を聞き、泣き明かしたのであろう。目は腫れ、赤く充血していた。


ナガラが親方様に同席をお願いすると、すんなりと受け入れられた。ナガラは、それ程に信頼されている。


親方様が私達を見回すと、話し始めた。

『ヴリトラ、貴様は魔族で間違いないのか?』

『魔族ねぇ。まあそうだね。私達は【神徒】と呼んでるんだけどね。』

『貴様が倒した奴も、魔族だな。』

『そうだね。バエルも魔族だね。私と違って野蛮で煩いけれどね。』


『何故、同じ種族を殺したのだ?』

『う〜ん。キミは不思議な事を言うね。』

『どうして不思議か。』


『キミ達も人族同士で、殺し合っているじゃないか。』

『それは、敵対しているからで、、、』

『そうだよ。私も、マスターを愚弄する者は敵対した者だよ。昨日も言ったじゃないか。マスターに手を出すなら、キミ達も殲滅するよって。』

『、、、、』


『無言は承諾だね?』

『バエルとやらを殺した理由は、納得した。』

『それは良かった。こうして、少しずつでも分かり合っていこうではないか。あはは。』


ヴリトラの演説じみた話しを聞き終え、ナガラが話した。

『親方様、恐れながら宜しいでしょうか。』

『ナガラか。構わぬ話せ。』

『親方様は、このヴリトラやタイカン殿達をどうするおつもりですか?』

『、、、、』

『まさか、国外追放などと考えておられませんか?』


私もミカノも「国外追放」という言葉に驚いた。

しかし、親方様は平然とナガラを見つめていた。

『だとすれば何だ、、、』

『恐れながら、それは愚策としか言いようがありません。』


私もミカノも再び驚いた。親方様に対し、言葉を包む事なく毅然と考えを話すナガラが衝撃だった。


『、、、愚策とな。』

『はい。』

『では、ナガラよ。皆の想いはどうする。』

『それは、フクジュ様の仇という事ですか?でしたら、答えは先程このヴリトラが話した通りかと。我々も同族を殺し、同族に殺されてきた。種族など、全く意味をなさないものです。』

『そうだとしても、魔族は魔族。民は納得せぬぞ。民の声を心を無視せよと申すのか?』


『そうは言っておりません。しっかりと紹介するのです。この国の友だと、国中に知らしめるのです。』


これには、全員が驚いている。


『あははは。ナガラだったかな?キミ面白いね。私を友と紹介するのかい?あははは。それは良いねぇ』


『、、、ナガラよ、どういう事か詳しく話せ。』


『恐れながら、私の考えを申し上げます。

筋書きはこうです。


【サカノオ】の、横暴で残虐なやり方に疲弊する銀髪の魔族が一人。

銀髪の魔族は、砦で起きた惨劇を目の当たりにし、【サカノオ】を裏切る決意を胸に飛び出した。他の魔族は、裏切り者めと襲い掛かり、瀕死の重症を負う銀髪の魔族。何とか辿り着いた先は、この城だった。

偶然にも、親方様と出会った瀕死の魔族。親方様は、銀髪の魔族から事情を聞くとその志しに感銘を受け、治療を施した。銀髪の魔族は感謝した。

親方様も志しの高い魔族にこう言った。「銀髪の魔族よ、ワシと共に平和を目指さぬか?」「はい!共に目指しましょう」そうして、親方様と銀髪の魔族は手を取り合い友として、平和を目指すのであった。


と、まずはこんな所です。』


『、、、まずはとな?まだあるのか?』


『はい。続きはこうです。


銀髪の魔族は心配します。「私がいれば、城に、親方様に、迷惑が掛かる」それを聞いた親方様は怒ります。

「種族を憎むなど愚者のすること。ワシの民は、そのような狭き心の者達ではないわ」と銀髪の魔族を一喝します。そして、二人は手を取り合い、、、、、、。』


ナガラの話す筋書きに、皆唖然としていた。


『はははは。筋書きはもう良い。して、どうなる?』


『他国は驚天動地でしょうな。【サカノオ】と違い、表立って友と呼び、実際に魔族を討ち取ったのですから。』


『他国の進攻も緩まると?』


『【サカノオ】以外は。』


『、、、、決まりじゃ。盛大に知らしめるが良いっ!』

『はっ!仰せの通りに。』

『しかし、次から次へとよく口が回る奴よ。』

『はっ!お褒めの言葉、有り難く頂戴致します。』


ナガラと親方様の話しは終わり、ナガラは急ぎ民への御触の準備に入った。その日の夕方には、街道に何本もの御触が立ち、瞬く間にナガラの筋書きは広がった。


『タイカン、とまあこういう事になった。』

『そう、、ですか、、。圧倒されております。』

『だろうな。ワシも、驚いておるよ。』


親方様は、ヴリトラをじっと見ている。

『ヴリトラ。』

『なんだい?』

『貴様を疑い、刃を向けた事、面目次第もない。申し訳なかった、全てワシの思い違いだった。』


『もういいんだよ。さっきの話しも面白いし、キミ達に乗っかってあげるよ。』

『痛み入る。』


『そうだ。私達は友になったんだ。キミの名前を教えてくれないかい?』


『、、、ホテイだ。』

『そうか。ホテイ、宜しく頼むよ。これからも、私を楽しませておくれ。』


私は、ヴリトラが、親方様を名で呼ぶ事を嗜めた。

『ヴリトラ、親方様を名で呼ぶなど失礼だぞ!』

『良いのだ、タイカン。ヴリトラの言う通りだ。筋書きに乗ると言うなら、私とヴリトラは友となる。』

『しかし、、、』

『タイカン、お前も名で呼んでも構わぬぞ。』


『いやいやいや、、、遠慮します。』

『はははは。まあ、呼びたくなったら、いつでも呼べ。』


親方様との話しは、ナガラのお陰で無事に終わった。


親方様は大丈夫だと言っていたが、目を腫らしたダイコクや、フクジュを慕う者達の想いが気になる。受け入れる事が出来るのだろうか。

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