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タイカンとフクジュの事

櫓が撃ち落とさ、瓦礫と化した。兵士達は、木片や柱の下敷きになり呻き声を上げていた。マダイは、必死に負傷した者達の安否を確認していたが、自身も瓦礫の破片で負傷しており途中で意識を失っていた。


フクジュは、バエルが放つ大砲のような打撃を喰らいながらも、何とか立ち上がった。

『あぁ、、、老人は敬って貰わねば、、、ほっほっ、、、。』

小刻みに震える身体を支えているのは、瓦礫に倒れる仲間の兵士を守ろうとする強く熱い侠気だった。


赤い目をしたバエルには、そのような人族の心情など微塵も興味が無かった。いや、ただ弱々しく佇む虫が目の前に立っている程度にしか思っていない。

『もうええで。』

合掌し、無防備に震えるフクジュに向かい、黒く澱んだ塊を放った。

フクジュに触れた途端に大きな爆発が起きる。粉塵と共に血飛沫が舞う。

砂煙から現れたフクジュの姿は、痛々しいものだった。

肩から腰にかけて左半身が原型を留めていなかった。爆発で消し飛んだ訳では無く、潰れたように崩れていた。

『、、、、が、、が、が。』

フクジュは、声にならない声を上げた。顔も爆発の衝撃を受けて、火傷のような跡が付いている。

『そしたら、こっちはどうや。』

再び合掌すると、黒く澱んだ塊が無慈悲にもフクジュを直撃する。バエルは、既に戦いとは思っていない。どこまで潰せば、この虫は息絶えるのかと実験のような感覚だった。真正面に撃てば良いものを、少しずらして右肩をねらっていた。

左右の肩が潰れても尚立ち続けるフクジュ。

『が、、、が、、、』

潰れた血管から、血が吹き出している。

『ほな、次はここや。』

黒く澱んだ塊が、フクジュの右足を襲い爆発する。

爆発音の後に、ばたっと倒れる音がする。

『もう、あかんか?』

フクジュは、左右の肩、左半身に加え右足も潰された。

バエルは、合掌をやめフクジュに近づいた。

『なぁ?もうあかんかって聞いてんねんけど、答えてくれへんかな?』

崩れたフクジュに話しかけながら、残った左足を踏み潰す。皮膚が破け、骨が折れる音が周囲に響いた。

『もう、終わろか。』

バエルはその場から、ゆらりゆらりと浮遊して離れた。

上空で振り返ると、合掌し黒く澱んだ塊を作り放った。

結末を見る事もせず、爆発に背を向け飛び立った。


ゆらりゆらり

赤くなった目は、黒く戻っている。裂傷した指をぶら下げたバエルは、上空で刺さった氷針を抜いていた。

『はぁ〜。俺ばっかりこんなんや。痛っ。痛っ。何本刺さってんねんこれ、、、背中にも刺さってるやん、、もう。』


瓦礫に横たわるマダイが、意識を取り戻した。

『ぐはっ、、、皆、、、無事、か、、。』

何とか身体を起こし、再び兵士達を探そうと辺りを見回した。そこにあったのは、地面に刺さる無数の氷と服を着た肉片だった。

『な、何があったんだ、、、』

マダイが意識を失っていた、数分の間の出来事だった。

『ゔゔ、、、マダイさん、、、』

瓦礫から兵士の声が聞こえた。マダイは、痛みが残る身体を何とか動かし、木片を退けた。

『だ、大丈夫か、、、今助けるからな、、、』

『私は、大丈夫です、、でも、、フクジュ様が、、、』

『フクジュ様?フクジュ様がどうしたのだ?』

『魔族と戦って、、』

『フクジュ様と魔族が、、そうか、、それでこのような。』

マダイは再度周囲を見渡した。

『良かった、、、フクジュ様なら、、安心だ、、今頃魔族を蹴散らしてくれる筈だ、、はぁはぁ。』

マダイの言葉に兵士は口を噤む。

『、、、、』

『ところで、、、フクジュ様は、、何処にいかれた、、、私も、、微力ながら参戦、、せねば、、、はぁはぁ。』

『、、、』

『、、、どうした?もしや、もう倒した後か?』

『いえ、、、』

兵士は、側にある肉片を指差した。

『、、、何だ?』

『、、、フクジュ様、、です、、。』

『何だ?何がフクジュ様だ!おいっ!答えろっ!!』

『あそこに、、あるのがフクジュ様、、です。』

マダイは、もう一度周囲を見渡した。兵士の指差した所には、服を着た肉片があるだけだ。

『、、、、そんな馬鹿な、、、この国最強の方だぞ、、、』

兵士を瓦礫から出すと、マダイは肉片の元へ歩み寄る。

確かにフクジュが着ていた合羽のような布を着てはいるが、肉片と化した物がフクジュだとは認識できない。

『、、、嘘だと言ってくれ、、、こんな事、、、』

マダイは再び意識を失った。


二番砦で起きた事を親方様が知るのは、翌日になってからだった。

定期便として、城から砦へは補給物資を運ぶ部隊が編成されている。本来であれば週に一度だったが、前日に届ける筈の物資が城の倉庫で見つかった。積み忘れがあればマダイに怒られてしまうと、大慌てで早朝に積込み砦へ向かった。早朝から急いで運搬していると、様子の違う砦に気付いた。前日にあった筈の櫓が消失していた。

何事かと、更に急ぎ砦へ入ると瓦礫の下敷きになり息絶えた兵士が何人もいた。マダイを見つけ息を確認したが、昏睡状態で意識を戻す事はなかった。耳を澄ますと、唸る声が聞こえた為、瓦礫を退かし数名を救出した。


補給物資を投げ捨て、荷台に昏睡状態のマダイと意識のある数名の兵士を乗せ、急いで城内へ戻った。

城内に入ると、医務室へ連れて行き事情を話した。医務室からサモンへと連絡がいった。サモンは、短期間の内に自分が受け持つ砦で起きた二度目の事件に、慌てふためきながら医務室へ駆け付けた。意識のある兵士から、事の顛末を聞くとサモンは顔を青ざめ立ち尽くした。


二番砦で起きた二度目の事件は、惨劇として親方様に伝えられた。

氷の精霊の力という、光に次いで特殊な力を使い、ケーハン最強と謳われた歴戦の英雄が逝った。英雄は、誰に看取られる訳でもなく、寿命を全うした訳ではなく、蹂躙され弄ばれてこの世を去った。

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