タイカンとミカノ
【ミカノ山】の頂上付近。木々は紅葉し、風と共に葉を散らす。舞い散る色彩豊かな日々が過ぎていく。
サクヤと共に幼子を育てる事になった。
光に包まれて出現したログハウスで、お茶を飲む。
『ねぇ。驚いたでしょ?』
サクヤは自慢気に笑っていた。
『あぁ。驚いたよ。これも精霊の力なのか?』
『うーん。そうなんだけど、家を作るというか、自然の物を造り変える。。なんて言えばいいかな。』
『想像したものが、できるってこと?』
『うーん。まぁそんな感じかな。すごいでしょっ』
『ほんと。神様だよな。こんな事できるなんて。』
『ふふ。でしょ。敬ってくれていいのよ。』
イタズラっ子のような笑顔が会話を暖かなものにしてくれる。
『そうそう。タイカン、この子の名前は?』
『あっ。。いや。ずっと眠っていたから。。そういえば無いかな。』
『えぇー。死んだオニは何も言ってなかったわけ?』
『。。。多分。。言ってなかった。。かな。』
『この子、男の子だよね?』
『えっと。それもちょっと分からないかな。』
『はぁ。ちょっと待ってて。』
呆れたのかため息をつきながら、木製の揺りかごに変わった幼子の寝床に向かい、サクヤは幼子の身体を確認していた。
『ちょっとごめんねぇ。あっ、やっぱりおとこのこだねぇ。お名前なにが良いかしらねぇ。』
(男だったんだ。そうかぁ。名前かぁ)
腕組みしながら、考えていると、サクヤから提案された。
『ミカノってどうかな?』
『山の名前?』
『うん。そう。私達が出会った場所だしどうかな。』
『ミカノ。。ミカノ。。。そうだな。馴染みもあるし、響きも良いね。でも、山の神様が住む場所の名前をそのまま貰っていいのかな?』
『もちろん。この子に出会って力が戻ったし、私からもこの子に何かあげたいし。』
『わかった。ミカノにしよう。』
私達は、揺りかごで眠る幼子の側にいき耳元で囁いた
『ミカノ。お前はミカノだぞ。覚えたか??』
『ミカノ。ミーくん。ミーちゃん。ミーカくん』
オニと人の忌み子。幼子に名が付いた。オニであれば名持ちと恐れられる。人であれば、【ミカノ山】のように人々の心の支えになって欲しい。私は後者になる事を祈り、ミカノの名前を呼んでいた。勿論、サクヤも同じ想いで幼子に名を与えてくれた。精霊から授かった名前。もう忌み子なんかではない。
時折体にあたる冷えた風。彩り豊かだった木々は葉を落とした。真っ白な雪のなか【母の木】の青さが際立つ。
暖炉の前でミカノとサクヤと窓の外で降り積もる景色を眺めていた。
サクヤと出会ったからなのか、ミカノは揺りかごで眠るだけだった日々から拙いながらも一人で歩けるようになり、言葉にならない言葉で想いを伝えてくれるようになった。
雪解けを急ぐかのように、暖かな突風が【ミカノ山】の頂上を駆け抜ける。地面から徐々に芽をだす新たな生命のように、ミカノの成長は進んでいた。厳しい冬を越え、丸めた背を伸ばすように、拙い足取りは力強くなり、私達の言葉を理解し始めていた。サクヤは成長を感じる日々に喜びと心配を繰り返していた。あの時、遠目で見ていた街の母子の姿が目の前にある。
私一人ではここに至らずに諦めていたかもしれない。
穏やかな春風が心地よい朝。窓から見える景色は、生命に溢れていた。日々色々な表情を見せるミカノは、春がよく似合う。たどたどしくも、『ターイ』『サクちゃん』と呼ぶ声が心地よく、愛おしい。
『ミカノ、サクヤ。街にいこうか。3人で』