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タイカンとヴリトラの入城

騒然とした城内。城門には多くの者達が、集まっている。

そして皆一様に口を真一文字に結び、目の前の状況を推察していた。しかし、この状況を説明出来る者は皆無だった。結局、真一文字に結ばれた口元に変化が訪れる事は無く、ただ緊張感の無い沈黙が続いていた。


親方様が、集団の中にいる私を見つけた。

静かに私に駆け寄り、耳打ちした。

『タイカン、これはどういう状況なのだ?説明せよ。』

親方様の疑問は、ごもっともである。

『親方様、私も何が何やら。しかし、あいつは砦に現れた魔族で間違いありません。』

『そうか、あの禍々しい様相はそうであろうな。』

『しかし、あの時の押し潰されそうになる威圧感は、皆無で何が起きているのか、、、』

私達は、城門の二人へ視線を送る。

『あれは、ミカノで間違いないのであろうな?』

『、、、そう、、思いたいです。』

親方様は、考えをまとめた。

『声を掛けてみよっ!』

『宜しいので?』

『分からぬ、しかしこのままという訳にも行かぬ!』

『分かりました。皆さんを安全な所まで下げて下さい。』


親方様が手で合図を送り、兵士達は下がった。

親方様、ダイコク、サモン、ムーデと私が前面に残った。


『おーい、、、ミカノなのか?』

ミカノは申し訳無さそうに、手を上げた。

『タイカン、ミカノはあんなに大人しい子だったか?』

『う〜ん。判断出来兼ねます、、、。』

『、、、続けよっ』


私は、ミカノと判断出来る問を考えた。

『おーーい、大切な刀は何処で買った?』

ミカノは、ため息をついてから答えた。自分だと信じて貰えて無いことが、分かったのだ。そして、それも仕方がないと斜め後ろの魔族を見て悟っている。

『【カヤマ】で、ヒミコさんのお父さんの所だよ。』

更に続けた。

『刀は、朱の刀だよ。』


私はその回答を得て、濡れた子がミカノだと確信する。

『親方様、ミカノで間違いありません。』

『わかった。』

親方様は、意を決し声を掛けた。

『ミカノぉー!その者は、魔族とみえるが相違ないか!』

ミカノは、親方様の問に頷く。

『では、何故そこにおるのだ!何故お前と共にいる?』

ミカノは、どう回答すれば良いのか迷っていた。

『ーーーから。』ぼそぼそと、声が小さい。

『何だ?聞こえぬぞ!はっきり申せ!』

ミカノも意を決し話した。

『広場で倒しちゃったら、ぼくがマスターっていうのになったからです!』


私は、目眩で倒れそうになるのを堪えた。あれだけ恐怖の感情に襲われた砦の魔族を、「倒しちゃった」という。


親方様も私も互いの顔を見合わせるも、真一文字の口に戻っただけであった。


親方様を守るように立つダイコクが、口を開いた。

『ミカノ殿!その者は、危害を加えようとしているのか?』

ミカノは、首を横に振りながら答える

『ううん!それは無いよ。』

『証明する事はできるか?』

それを証明するには、先程ヴリトラが行ったような自死の選択を、ヴリトラに取らせる事になる。

『ううん。無い!ぼくを信じて貰うしか無いよ!』

ヴリトラは、恍惚の表情をミカノに向けている。


親方様が問いかける。

『ミカノ、その者にワシが話す事はできるか?』

ミカノは、ヴリトラに話す。

『あの人は、ここの親方様で、ぼくの大切な人。ヴリトラと話しがしたいって言ってるから、正直に答えて。』

『マスターの仰せの通りに。』


ヴリトラが親方様に話す。

『そこの矮小な者よ、、、』

バチンっ!ミカノは、ヴリトラの腕を叩いた。

『それ、悪口でしょ!さっき言ってた虫とかのやつじゃんっ!だめだよ!大切な人って言ったよね!!』

『イエス・ユア・マジェスティ』

『親方様、ヴリトラは馬鹿なんですー!大目に見てください!』


親方様は、魔族を馬鹿と言い叩くミカノに唖然とする。

『、、、分かった。分かったから話せ。』

『親方様という者よ、其方の問いに答えよう。そして、全て正直に話す事を我がマスターに誓おう。』


親方様は、何を優先し聞くべきかを選択した。

『では、ワシらに危害を加えぬ事を約束せよ!』

『、、、』目を細め回答に悩む様子が伺える。

『ヴリトラ、ほら正直に答えて!』

ヴリトラは、ミカノの言う通り正直に話す。

『それは出来ぬ約束だっ!!』

ミカノも含め全員が驚いた。

『えぇっ!!!』


ミカノは慌てて訂正させようとしたが、ヴリトラは、回答を続けた。

『其方らが、我がマスターに手を掛けようとするならば、私は全身全霊で其方らを殲滅しなければならない。

だから、その約束は出来ないんだよ。私は、嘘は付けないからね。

其方も約束するか?マスターに手は出さないと。そうするならば、其方の言う約束を私も守ってやろうじゃないか。』


親方様は、回答を得てゆっくりと頷いた。

『分かった、、、魔族の者よ。共にその約束をしよう。』


やっと城門から開放される事になった。

私は、ミカノに近づいていく。

ヴリトラも私の顔に気付いた。

『やあ、タイカン。また会えたね。』

『貴様、、、何があったかは分からないが、信じても良いんだな。』

『ふふふ。私はマスターに誠実なんだよ。キミに誠実でいる必要はないんだ。勘違いしないでくれよ。』

『どちらでも良い。ミカノに誠実だと言うなら、約束は守って貰うぞ。』

『ふふふ。キミに言われる筋合いはない。理解していないね。話しを聞かないのは、馬鹿なのだよ。タイカン。』

私達の話しに割って入る者がいる。


『坊っちゃん!』

ダダダっ!ぎゅう〜!

ヒミコは、駆け寄ると魔族の側にいるミカノを、強く抱きしめた。

『何者だっ!貴様、マスターから離れなさいっ!!』

『く、くるしいよぉ〜。ヒミコさ、、ん』

ヒミコは、ゆっくりと腕の力を抜いた。

『坊っちゃん、心配したんですよ、、、』

ヒミコは、涙を流していた。

『ごめんなさい。心配かけちゃって、、』

『ちょっと!泣いてないで、離れろ!女!!マスターから離れろっ!!』

ヒミコは、横で騒ぐ魔族をキッと睨んだ。

そして、立ち上がると魔族に詰め寄る。

『坊っちゃんは、私が守ります!わ、た、し、がっ!』

『なっ!貴様、何を言うか!我がマスターをお守りするのは、この【神徒】ヴリトラ只一人!貴様などに任せておけるか!図々しい女だ。』

『坊っちゃんのお側は、私がサクヤさんから頼まれたのです!譲りません!!』


ミカノは、やっと城門から開放されたと思っていたが、ヴリトラとヒミコが繰り広げる対決のお陰で、ここから動けずにいる。


『へっくしんっ!』

ヒミコが、ミカノのくしゃみにいち早く反応し、抱えながら部屋へと急ぐ。その後ろを、ワーワー言いながらヴリトラが着いて行った。タイカンは、更に後ろを背を丸め頭を抱えながら歩いた。

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