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タイカンとサクヤとエビスの到着

ざぶん。ざぶん。

海の上では、雨が続いていた。

『やっぱり、この時期はよう降るなぁ。』

『ええ。荒れてなくて良かったですがね。』

『そやな。せやけど、この天気やと甲板に出ることも無理やし、退屈してるやろなぁ。』

『サクヤさんの事ですか?』

『ん?ああそうや、そうや。サクヤさんや。』

(あかん。ついつい、精霊様って言うてしまいそうになるわ。こいつ等には言うてへんし、気をつけな。)

『俺、ちょっと見てくるし。ここ頼むで。』


トントントン。船室の扉を叩く音。

『エビスです。宜しいですか?』

『は〜い。どうぼぅ〜』

『ん?何や変な感じやな?入りますよ?』

『どうぼぅって、言ってるでそ。入りなよぉ〜』

扉を開けるとそこにいたのは、床に座り泥酔するサクヤだった。

『せ、精霊様!大丈夫でっか?』

『なにがぁ〜?大丈夫に決まっれんれそ。精霊よ!私!』

『はいはい。分かっとります。とにかく、椅子に座りましょ。こんなん見たら、タイカンに怒られてしまうわ。』

『なにぃ?タイカンいるの?呼びなさいよぉ!』

『ちゃいます。いません、おったらと言うただけで、、、』

『おいっエビス!私に嘘ついらなっ!こらっエビっ!』

『すんません。すんません。ねっ、椅子座って。』

(あかん。めちゃくちゃ酔ってる。暇すぎたんか。)

何とか椅子へ座らせると、サクヤはそのまま突っ伏して寝てしまった。エビスは毛布を掛けて、転がり散らかった酒瓶を片付けた。

『何本いったんやこれ。精霊様の腹の中は、どないなっとんねん。海賊でもこんな飲まんで。』

『ぷふー。ミカノぉ~。タイカ〜ン。どこにいんのよぉ~。出てきてよぉ〜。ぷふー』

泥酔したサクヤは、寝言を言っていた。

(明日、島に着いたら寂しさも紛れるやろう。)


翌朝島に近づくにつれ、雨は上がり太陽が雲間に除く。

『う〜〜ん!』

甲板で大きく背伸びをし、太陽を出迎えているのはサクヤだった。

『外、最高ーーー!』

『おはようございます。よう寝れましたか?』

『エビス、おはよう。ええ、すっきりよ。』

『そら良かったですわ。二日酔いになってたら、どないしよ思ってましたわ。』

『二日酔い?あっ、、、私、何かやらかした?』

『ははは。大丈夫ですよ。タイカンを連れて来いって言うてたぐらいですわ。』

サクヤは、それを聞くと顔を真っ赤にした。

『あれ、まだ酔うてますか?』

『ちょっと!からかうんじゃありませんっ!』

『ははは。すんませんなぁ。所で、見えて来ましたわ。』

エビスが、航路の先を指差した。

『あっ。本当ね。そんなに時間が経っていないのに、凄く久しぶりにおもえるわ。』

『無事着いて、一安心や。もうちょい進んだら、そっからは小舟で向かいますので、準備しといて下さい。声掛けますわ。』

『ええ、ありがとう。』


島の砂浜。

『おいっ!あれ何だ、でっかい船がこっちに来てるんじゃないか?』『なになに?えっ?本当だ。何だあのでかいの。見た事ねぇな。』『おいっ!長を呼んでこい!一大事かもしれねぇ!』


砂浜から見える大型の帆船に、島民達は驚いていた。急いで、【シガ】の街から長を呼び出した。

『何だ何だ、何があったんだ?』

『あ、あれです。長、でっかい船が来てます。』

『ありゃ、、これはたまげた。何と大きい。』

『長!なんか小舟が来ます!しかも、何隻も来てます!』

『な、これは一体、、、』


小舟に乗るサクヤとエビスは、砂浜の島民に気付いた。

サクヤは不安定な小舟の上で、器用に立ち上がると手を振った。

『おーーーいっ!帰ってきましたよーーー』


『ありゃ、あれはサクヤさんじゃないか?』

島民がサクヤに気付いた。

『長、サクヤさんですよ!帰ってきました!でも、後ろの長髪の男は誰だ?タイカン?じゃないよな、、、』

『無事に帰って来たんだな。』


サクヤ達を乗せた小舟が岸に着くと、その後ろからは、大量の荷を乗せた小舟が、続々と入港した。岸と街の間は、荷車を押す街の男衆が連なる。船から岸、岸から街へと続く荷の列は数時間続いた。


サクヤとエビスは、長の屋敷に招かれていた。

『サクヤさん、よく無事に帰ってきてくれた。タイカンとミカノはこの後に?』

『ただいま戻りました。え〜と二人は、来てないんです。』

『あら、何か訳有りですかな?そちらの青年とも関係あるのですかな?』

『ええ。そうなんです。』

『お茶でも淹れますし、ゆっくりと聞かせて貰いましょうかね。さあそちらの青年も、狭い所だがゆっくりしておくれ。』

『おおきに。ほな、失礼します。』

『ん?その言葉、大陸の方かな?』

『え?ああ、そうです。せやけど長様は、大陸の言葉知ってますんか?』

『いやいや、実際に聞いたのは初めてだよ。昔読んだ書物にあった言葉だったんでね。「おおきに」ってありがとうって意味じゃなかったかな?』

『そうです。ありがとうって事ですわ。書物ですか。こんな言葉が載ってるやなんて、不思議ですわ。』

『ははは。島では色んな物を珍しく思いますからね。書き留めていたんでしょう。』

長は淹れたお茶を二人に振る舞った。

『長様、あの【オニ】っちゅう魔物は、ほんまに全部おらんくなったんですか?』

『ええ。間違いなく。全部いなくなりました。タイカンのお陰で、こうして平和にやっていますよ。』

『やっぱり、タイカンは凄い奴やなぁ。』

『あら?エビス、まだ半信半疑だったの?』

『ちゃいますよ。精霊様、一応の確認ですやんか。』


『そうかそうか、あなたがエビスさんですか。』

『あっ、すんません。自己紹介がまだでした。大陸にある【ケーハン】国の海上部隊で隊長を任されております。エビスと言います。お三人とは、【ナーラン】の都で偶然お会いしまして。』

『この間、ミカノが嬉しそうにあなたの話しをしていましたよ。お世話になっているようで、いつもありがとうございます。』

『滅相もないです。俺達の方が、お三人には助けられてばかりで。今回もそれがきっかけでして。』


サクヤとエビスは、長に大陸で起きている事を話した。魔族が現れた話も、ここにも現れるかもしれないという不安な話しも正直にした。


長は魔族の話しを聞いても落ち着いていた。

『そうですか。魔族と、、、ここに現れた【オニ】も同じですかな。』

『ええ、そうだと思います。肌の色は違えど人族の姿に似ていて、言葉も話すと聞きましたから。』

『長様、俺から提案があるんですが、構いませんか?』

『エビスさん、どうぞ仰って下さい。』

『精霊様も、構いませんか?』

『勿論よ。話して、エビス。』

『角の運搬の話しなんやけど、俺達海上部隊に任せてくれへんやろか。それと、今回みたいな物資の運搬も。』

『エビス、それと魔族と何が関係するの?』

『前に精霊様が言っていた、俺達が上陸してしまうのは、島の皆さんの気分が良くないって話しは理解してます。そやけど、こんだけ離れた場所やと、何かあっても気付けません。大昔の失敗を繰り返すだけです。』

『確かに、そうかもしれませんね。』

『角の搬出と物資の搬入やったら、船から島に降りる事はありません。角は季節ごとに年4回、これはそのままでええです。でも、資材や物資はもう少し回数を増やして、毎月1回は何やかんやと、大陸からここに船で来るようにすれば、少しは違うんやないかと思うんです。』

『そうね、、、確かに少しは不安がなくなるかしら、、、』


サクヤが考え込むと、長が話し始めた。

『エビスさん。その内容で、お願い致します。』

頭を下げる長を見て、エビスは慌てた。

『長様、勿体無いです!上げて下さい!俺は、昔のような事を繰り返したくないだけですねん。そやから、こっちがそれでお願いしたいぐらいなんです。』

そう言いながら、エビスも頭を下げた。

二人の姿を見ていて、サクヤは思い付いた。

『エビス、私からもお願いするわ。それに長、エビスの話し長に受けて貰うようお願いする。これで、精霊から2人にお願いした事になるでしょ。それなら、島の人も大陸の人も納得してくれるかもしれないわ。』


サクヤの提案を二人は受け入れた。思ってもない、素晴らしい解決策だと喜んだ。長は島民にその話しを。サクヤは戻って親方様にその話しをする事で、定期的に大陸からの庇護を受ける事が可能になる。その日は、長がエビスに街を案内した。ミカノから貰った首飾りを付ける少年達とも交流した。タイカンがサクヤに捨てられて、新しい男を連れて来たなどと噂する者もいたが、長が一喝していた。

その夜、サクヤは長の屋敷に泊まり、エビスは船に戻った。

『ほな、俺は船に戻っておきます。明日の朝一番、小舟で迎えにきます。』

『はい。エビス、今日はありがとう。』

『エビスさん、本当にありがとうございます。』


長の屋敷は夜更けまで、灯りが付いていた。

大陸でのミカノやタイカンの話し。出会った人達の話しなど、大いに盛り上がった。

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