タイカンと親方様と砂の王
ハンプの母と会い、アグモとイクマキと別れた後。再び城に戻り親方様と話した。今回の事は全て私が引き起こし巻き込んでしまった事だと伝え、周囲の者達は赦して欲しい事を改めてお願いした。親方様は、先程迄とは違い、私の願いを受け入れると共に、【山案山子】の討伐に対し、感謝と労いの言葉を掛けてくれた。
『親方様、もう一つご報告がありまして。』
『ん?まだあったか?』
親方様は、サモンの話しを思い出そうとしているのか、目線を上げ考えていた。
『はい。砂漠で出会った友がいるのです。出来れば紹介したく。』
『ほう。砂漠で友とは、どのような奴だ?知り合いにでも会ったのか?』
『いえ、そういう事でななく。砂漠で初めて会いまして、意気投合と言いますか、懐かれたと言いますか。』
『砂漠でも、タイカンの人の良さが分かる者がおったか。良い、紹介してくれ。今から会おう。』
親方様の承諾も得たので、急ぎベンテンの所へ帰り、石畳の所で待っててもらうように伝えた。その足で、再び親方様の部屋へと戻った。
『親方様、お待たせしました。外で待っておりますので。』
『外?何だ、遠慮などせずに、入ってくれば良いではないか。まぁ、待っているというのなら、向かうとするか。』
『ええ。遠慮と言いますか、入って良いものかどうか。』
親方様を連れ石畳へ向かった。
『おはようございます!親方様!』
『おお、ベンテンも一緒だっ、、、っうおいっ!』
親方様は、ベンテンの横にいるブーンに気付くと驚きの声を上げた。
『な、な、な、なんと!!【砂の王】ではないか!!』
親方様は、ブーンの種族を知っていた。流石国王。知識見聞の広さに感服する。
『流石、親方様ですね。ご存知でしたか。』
『ご、ご存知も何も、、ワシは【砂の王倶楽部】副会長だっ!!ヒミコは、会長は知っているのか!?早く知らせてやらねば、ヒミコが知ったらどれ程喜ぶか。』
『えーーー!親方様が副会長やてぇーーー!』
ベンテンは、親方様の新たな一面に戸惑っていた。
『親方様、ヒミコさんは既に知っております。今朝もご飯を届けて頂きまして、、。』
『そ、そうか。流石会長だ。耳が早い。所で、【砂の王】はどちらで暮らしておるんだ?』
『ベンテンさんのご厚意で、ベンテンさんのご自宅で、、』
私が話すのを遮り、ベンテンが代わりに話した。
『親方様!私の、私めの自宅にて御迎え致しました!これからも、私の自宅を【砂の王】様に、引き続きご使用頂く所存です!』
『おお。そうであったか。大義である。丁重に饗すよう頼むぞ。何か必要な物があれば、何でも言ってくれ。』
『はっ!!有難き幸せであります!!!』
(きたぁーーー!来たで!轢かれて、轢かれて、しがまれて、耐えた結果が出たんちゃいますか!ありがとう、ブーンちゃん!お陰で、俺は安泰やぁっ!)
『ベンテンさん、そこまでブーンの事を思ってくれていたとは。ありがとうございます。』
『ブーンとな?』
『はい。ブーンと名付けた所、大変喜びまして。』
『ほう。【砂の王】に名付けとは、タイカンはやはり豪気な男だ!ははは。』
親方様への紹介も終え、ブーンは新たな棲家となったベンテンの邸宅へと戻った。ベンテンは、何度もブーンを撫で、頬擦りし、笑っていた。
(良い人だなぁ。あんなにも打ち解けている。)
『次は、肉の包蒸しだ。ミカノ、喜んでくれるかな。』
城下町を歩き、露店を目指した。気のせいかもしれないが、往来の人々が私を見てこそこそと話しをしているように思えた。
『すまん、いいかな?』
『へい。いらっしゃい。何しましょ?』
この間と同じく、物腰の柔らかい主人が迎えてくれた。
『肉の包蒸しはあるかな?』
『えぇありますよ、、、って、あんたは!』
『えっ?何か?』
『いやいや、あんたの噂で持ちきりだよ。幻の魔物を手懐けたって、凄い騒ぎだよ。俺もあんたに、包蒸し売ったって自慢してた所だよ。』
『そんな事になっているのか。参ったな。』
私は、店主の話に困惑していた。
『今日は、何個にしましょ?30、40?』
『いや、今日はそんなには、、では10個にしようか。』
『へい。ありがとうございます。3000シンカです。』
『これで。』『浮気せず、必ずまた来て下さいよ。あんたはウチのご贔屓さんと皆に触れて回ってるんでさぁ。』
『ああ、分かった。また来るよ。』
(皆、それでこそこそと話していたんだな。ブーンは、本当に凄いんだな。凄い友を持つと大変だ。)
城下町を肉の包蒸しの袋を下げて歩く。渡された袋には、以前より大きく露店の名が書かれていた。3つ4つぐらいにしようと思っていたが、店主の勢いに押されて、ついつい多く買ってしまった。
ヒミコから聞いていたミカノ達が稽古をしている場所に向かう。城の外周を回ると、開けた場所があるという。その場所で昨日から、激しい稽古をしていると言っていた。私も、この力を試してみたい。
歩いていた筈が、気付けば小走りになっていた。
外周を回ると、一本の畦道があった。奥の方から掛け声が聞こえてくる。どうやら、この先にいるみたいだ。
『でやぁーーー!』『はっ!はっ!』『せいっ!!』
木剣で真剣に打ち合う二人の姿が見えた。
(おっ!やってるな)
ヒミコは木陰で座り見守っていた。
座るヒミコに声を掛けた。
『ヒミコさん、やっているねぇ。しかし、凄い気合だ。』
『タイカン様。ええ、昨日から。でも、今日は更に気合が入っているようです。特に坊っちゃんは。』
『ミカノが?へぇ。何かあったんですか?』
『タイカン殿ですよ。』
『え?また私?何か最近そう言われるのが多い気が。』
『タイカン様が【山案山子】を倒した、というお話しを今朝したらずっとこの調子です。』
『そうか。対抗心だな。でも、私も負けてられない。』
『ふふふ。』
『何か面白かったですか?』
『すいません。親子だなと思いまして。』
『え?』
『今朝の坊っちゃんと、同じ事を仰ったので。』
『そうでしたか。ははは。』
持参した土産をヒミコに渡して、脇に立て掛けられた木剣を手にし二人の元へ走った。私に気付いたミカノは、砂漠へ連れて行かなかった事を怒っていたが、共に稽古をすると言うと目を輝かせていた。ムーデも歓迎してくれた。
三人による、精霊の力を用いた稽古が始まる。
木々もなく、強い日差しが真っ直ぐに当たる広場。脇道を一本入るだけで、城や城下町の空気感を消してくれる。
ここは、集中力を高め熱中するのには、最適な場所だった。ここから、私達は更に強くなる。そう決意した。