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タイカンと代償

朝の騒動を終え、一旦私だけで城へと戻った。

石畳を抜け入城すると、ヒミコが待ち構えていた。


【砂の王倶楽部】は、【砂の王】の人形や刺繍などを収集し、おし?推し?ブーンの種族を推している倶楽部。そこの会長が、ヒミコだった。

『ヒミコさん、おはようございます。昨晩は、ミカノの事ありがとうございました。』

ヒミコは、深々とお辞儀をした。

『タイカン殿、いえ【砂の王】様の主様、お帰りなさいませ。今日の【砂の王】様のご機嫌は如何でしょうか。』

『あ、ああ〜。ブーンにご飯を頂きましてありがとうございました。物凄い勢いで食べてましたよ。ベンテンさんは、体当たりに轢かれちゃってましたが。ははは。』

『羨ましいっ!』

『えっ?何です?』

『い、いえ。そうでしたか、それは良かったです。』

『ミカノは、もう稽古へ?』

『はい。晴れましたので、お外でムーデさんと稽古に励まれています。』

『そうでしたか。後で行ってみるか。あの、親方様はおられますか?』

『はい。首を、ながーーーくしてお待ちです。』

『あら。何か不穏な物言いですね?』

『まぁ、色々と親方様の知らぬ所で巻き起こしましたから。それはもう、、、』

『仕方ないですよね。私が撒いた種ですし。』

ヒミコは両手を顔の前で握り、満面の笑顔で送り出す。

『はい。頑張って下さいっ』


親方様の部屋へと向かった。

トントントン。

『タイカンです。宜しいでしょうか。』

『構わぬ。入れ。』

少し低い声のように思えた。静かに扉を開いた。


親方様と、その前で土下座をしている二人がいる。

『あ、すいません。お取り込み中でしたか。』

『いや、構わぬ。どちらかと言えば、ワシよりタイカンに会いに来た者達だ。』

『私に、、、ですか?』

土下座の二人をよく見ると、一人は至る所に包帯を巻いた大男。もう一人は、露出の多い女。あの二人だった。

『あっ、、アグモに、イクマキじゃないか?何をしているんだい?』

私の方へ向き直すと、再び深く土下座をした。

『な、な、何だよ?頭を上げてくれ。どうしたんだ?』


親方様が二人に声を掛ける。

『構わぬ。話しなさい。』


『タイカン殿。この度の事、本当に申し訳ございませんでした。ワシのせいで、ご迷惑をお掛けしてしまった。』

『タ、タイカン殿。アタシも、よく確認もせずに、あんな依頼書なんて持ってきちまって。本当に申し訳ございませんでした。』

二人の謝罪の後に、親方様が話した。顔は依然として曇っている。

『と、先程からこの様子だ。』


『、、、アグモ、イクマキ。顔を上げてくれないか。』

私の声に反応し、二人は顔を上げた。

『元はと言えば、私が手を出してしまった事が原因だ。それに、隊員の命も失われた。謝るというなら、それは私の方だよ。』

私は膝を付き、二人に謝罪した。

『アグモ、イクマキ。二人の大切な仲間を巻き込んでしまった。本当にすまない。』

『や、やめてくれ。あいつを無理やり連れて行ったのは、ワシなんじゃ。』

『そうさ、アンタは悪く無いって昨日も話したじゃないか!頭を上げておくれよ。』


私達のやり取りを見ていた親方様が再び声を掛けた。

『アグモ、イクマキ、タイカン。何が原因か、何が起きたかは、サモンに聞いた。聞いた上で申すぞ。』

『はっ。』全員が親方様の方を向く。

『この、、、大馬鹿者がぁーーーーー!!!』

親方様は、全身全霊、腹の底から怒った。全員の背筋が伸びた。親方様の声は、部屋の外にまで響き渡った。

『人が一人死んだ!ワシの大切な国民が死んだ!残された家族は、今も泣いておる!お前達のくだらぬ争いのせいでだっ!くだらぬ事で、死んだんだ!』

『、、、、』私達は頷くしか出来なかった。

『弔いに行け。必ず。』

『はっ』

『それとな、、、』

『はっ』

『お前達も、ワシの大切な者なんだ。命を粗末にしてくれるな。今度同じような事が起きた時は、ワシの事を思い出してくれ。そして、思い留まってくれ。頼む。』


親方様の言葉に、私は幼稚で馬鹿な行動を悔いた。余りにも軽率だった。余りにも簡単に死を受け入れ過ぎていた。ミカノに生死を説いたというのに。


私達は親方様の部屋を後にし、亡くなった男の家に行った。男の名はハンプという。名前を今更ながらに知る辺り、私は本当に死を軽んじていたと気付かされた。

ハンプは、母親と二人暮らし。老いた母に楽をさせたいと、【矢衝隊】に昨年入隊した。まだ新人だったが、持ち前の明るさと行動力で、すぐに溶け込んだ。呑み屋の誰に聞いても、いい奴だと答える。人の悪口を言わず、率先して嫌な事もする。そんな奴だった。


老いた母は、息子の亡骸を前で、何やら話しをしながら座っていた。訪れた私達に気付くとお茶を淹れてくれた。

『うちの馬鹿息子が、ご迷惑をお掛けしました。連れて帰ってくれて、、、ありがとうございました。』

『お母様。息子さんは、私達に巻き込まれて、、』

『良いんですよ。全て伺いました、、、。その上で申し上げているんです。』


『、、、申し訳ございませんでした。』

気丈に振る舞う母の姿を、直視出来なかった。重い命を、その老いた身で受け入れようとしている。

『頭を上げて下さいな。息子は幸せ者です。隊長さんに、奥様に、あの有名なタイカンさんも来てくれた。それに、朝一番には親方様も来て下さいました。幸せ者ですよ。私より先に逝ったのは親不孝ですが、それは後で叱っておきます。』振り返り、横になる息子を優しく見ていた。

『親方様も、、、』

『ええ。朝一番に、血相を変えて飛び込んで来られました。お召し物も変えずに。そこで全て教えてもらったんですよ。だから、ずっと息子に話してるんです。親方様が家に来たと。自慢してるんです。』


親方様は、誰よりも先にこの不幸な出来事を悔い、残された母に謝罪をしていた。この国の民は、幸せなのだろう。そのような方が、絶えず見守っているのだから。


ハンプの家を出て、アグモとイクマキと別れた。ハンプの代わりに何でもすると申し出たが、二人は頑として受け取らなかった。二人は、二人で彼の為に、出来る事をするという。それでも、何かあればと伝え別れた。

私も私が出来る事をしよう。目の前の命を救える力を。一人でも多く、生命を繋ぐ力を付けよう。

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