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タイカンと精霊の話

【ミカノ山】の丸太小屋。

復興と歓喜に沸く【シガ】の街での買い物を終えたタイカンの前に見知らぬ女。その女から罵詈雑言を浴びせられた中で初めて聞く幼子の声。

女は精霊のサクヤ。山の神様だという。


『精霊。。。山の神。。様。。』

『そうよ。でも、様はいらないわ。以前ほどの力もないしね。』

幼子をあやしながら、うつむき加減で話す様子が、少し暗い言い回しで気になった。

『山の神様の力?』

『えぇ。今はせいぜい、寒さからこの子を守るぐらいよ。』

『寒さから守る。。』

『そうよ。でも、それも一時的にしか保てないけどね。』

そう言うとサクヤは、幼子に手をかざし瞳を閉じた。

ぼんやりとした光が幼子を包み込む。

『あっ。。この光はサクヤ様の。。。』

『だから、様はいらないって。それより、あなたの話し聞かせなさいよ。』


私は自身の事を話しはじめた。

幼子を託された経緯だけではなく、私の生い立ちやオニの殲滅に費やした3年間。私以外の街の者達の話し。

サクヤは、山から見えていた景色と私の話しを紐づけているかのように、質問を繰り返していた。

私の回答も尽きかけた頃、サクヤはすっと立ち上がり話し始めた。


『タイカン。ありがとう。あなたが、あのオニ達を祓ってくれたのね。』

サクヤは、幼子を抱きながら頭をさげた。

『いや。頭を上げて下さい。』


『精霊はね、人族の祈りが力となるの。オニ達が現れる前、もう何十年も前になるわね。その頃は、豊穣や気候、病や繁栄、何かにつけて皆この【ミカノ山】に祈りを捧げてくれていた。その度に私は力を得ていたの。でも、オニが現れてからは、皆の心は恐怖に支配されて祈る余裕は無くなっていったわ。仕方ないよね。私の力は戦いには向かないものだから。それでも祈る人はいたの。。。。助けてください、助けてください。。。って』

サクヤの瞳から涙が落ちる。私にとっては、遠い昔話しだが、サクヤにとっては今も鮮明で濃厚な暗く辛い記憶なのだろう。

ぼんやりと光る幼子は、サクヤの濡れた頬に触れようと小さな手を伸ばしていた。まるで、涙を拭い慰めているように。


『タイカン。皆の祈りを叶えてくれて本当にありがとう。』

『山の神様に感謝されるなんて。。こんな光栄なこと』

私の言葉を遮るように、サクヤは話しを続けた。

『よしっ!』

涙の跡が残る顔は、急に明るさを取り戻した。

『私もこの子を育てるわっ!うん。そうそれがいいわねっ』

『えっ。。。何ですか?どうして。。』

『ほら、あなた馬鹿じゃない。馬鹿に任せてられないし。この子本当に可愛いからさ』

『また馬鹿って。。』


幼子はサクヤの事が気に入ったのだろう。きらきらとした瞳はサクヤを見つめていた。

『それにさ。。。オニを祓ってくれたお礼もしたいからさ。』

そう言うと、サクヤは幼子の頬に手を当て

『あなたも、わたしと一緒にいたいよねぇー。』

と、おどけてみせた。


『馬鹿は余計だが、山の神様に手伝ってもらえるのはありがたい。こちらこそ、宜しく頼むよ。。。サクヤ。』


私達が笑顔で話している様子が嬉しいのか、幼子もきゃっきゃと笑う。それを見て、私達も笑っていた。


倒したオニから可愛く愛おしい忌み子を託されて、二人で山籠りをしようかと決意を固めた翌日に、山の神様と出会い共に育てる事が決まったなんて、全てが最初から決まっていたかのようだった。


『あれ。。?』

サクヤは急に不思議そうな顔で呟いた。

『どうしたんだ?何かあったのか?』

『違うの。なんかね力が。。。』

『力?精霊の力のこと?』

『うん。ちょっと待ってて』

サクヤはそう言い残し、幼子を抱いたまま小屋を出る。

待っててと言われたが、気になるので後をついていった。


サクヤは地面に手を当てて目を閉じている。

『やっぱり。。。戻ってきてるわ。』

『なにが?どうしたんだ??』

サクヤは目を開け、立ち上がる。

『そうねっ。まずは、私達が暮らす家からかな。』

独り言のように話し始めたサクヤは、再びしゃがんで手を地面につけ直し目を閉じた。

サクヤから光が溢れ出る。ぼんやりとした光ではなかった。あっという間に辺りを包み込む光。眩しくて直視出来なかった。


『カン。。。タイカン。ねぇタイカンってば。』

『ん?やっと光が消え。。。。』

サクヤから呼ばれ、目を開ける。

『えええええええぇーーーーーーー!!!!』

目の前には、木造の綺麗な平家が建っていた。

『ちょっと、大声出さないでよ!びっくりするでしょ!』

『いや。でも。。えぇ。突然。。家が。。』

驚く私を尻目に

『この子のおかげかしらね。少しだけど力が戻ったみたい。さぁここが私達の新居よ。』

そう言うと、さっさと綺麗な玄関に入っていった。

私がついて来ていない事に気づいたのか、少し玄関を開けてサクヤは声を掛けた

『なにしてんの?そっちのボロ屋で暮らすならほっとくけど?』

『いきます!!入ります!!』

『ふふっ。なんかまた敬語になってるわね。まぁとりあえずお茶でもしましょっ』

笑顔が溢れる玄関に私は吸い込まれていった。

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