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タイカンと精霊の力

砂漠の風は乾燥と砂を運ぶ。この砂漠地帯は、一定方向からの風ではなく、囲む山々に風が当たり、跳ね返る。そのように入り交じる事で、常に砂が巻き上がっている。


(【山案山子】、お前に試したい事がある。すまないが、付き合ってもらうぞ。)


サクヤとミカノが昔から話していた、内側の力。

私は、精霊の力を表に放出する事は出来ない。

しかし、島を出る前に言われた事を思い出していた。


「精霊の力って、精霊しか使えない訳じゃなくて、あなた達でも多少は使えているのよ。気がつかないというか、名前が無いだけでさ。」

「そういうものなのか?火を付けたり、家を造ったりなんて芸当見た事けど。」

「まぁそれは、特殊な部類ね。例えば、気配を感じたりする些細な事も力の一種だし、タイカンのように身体能力を高めたりする人はいるのよ。」


という事は、二人が言う内側の力は、私でも身体能力を増幅させる効果があるのかもしれない。

私は目を閉じ、丹田に集中し力を流す。サクヤがミカノに言っていたのを思い出す。


『からだの中にはね、いつも力が流れているの。あちこちに、散らばった力をお腹の下に集めるのよ。』

『まずは、頭から。次は手、次は足。もっと細かくてもいいのよ。腕や指、耳や鼻。想像するのよ』


目を開けて、砂の大地を踏み込んだ

どんっ!!!

私が踏み込んだ大地は深く抉れ、抉られた大量の砂は背後に飛散していた。

ズバっ!どすん。

口の端を切られた右の頭は、目を充血させ怒り狂っている様子だった。しかし、その頭はもう首に付いてはいない。

切られた事が分からないのか、そういう生態か。

地面に落ちた右の頭は、『シャー、、シャー、、』と弱々しく鳴いている。


(光はしないが、増幅されたのは分かる。膝が少し痛いのは、力に身体が追いついていない証拠か。)


左の頭は、右側にいつもの頭が無い事を不思議がるように後ろや前を見ていた。下に落ちたとは、夢にも思っていなかった。

どんっ!!!

再び踏み込んだ。新たな窪みと飛散する砂を残して、私は【山案山子】へと飛び込む。

ズバっ!どすん。

左の頭は、自らの意思とは関係なく変わる景色に、戸惑っているようだった。


双頭共に落とした事で、大きな図体も大地に沈んだ。

『シャー、、、、シャ、、』

左右共々、弱々しくも鳴いている。こういう生態なのだろう。生命力の高さは、尊敬に値する。


動きはしないが、毒はある。念の為、脳天に【深淵】の剣を突き刺し絶命させた。

(【山案山子】、良い収穫があった。感謝する。)


【山案山子】の討伐は終わった。しかし、やる事は多い。

『アグモ、生きているか!返事をしろ!』

私は叫びながら駆け寄った。

『う、、う、、』

『だいぶ弱っているな、、、ブーン!ブーン!!いるかぁ!いたら、こっちに来てくれぇ!』


ざざざざっざざざざっ

ブーンは、私と別れた後も待っていてくれた。

隆々とした身体を擦り寄せ、私の無事を喜んでいる。

『よしよし。すまない、待たせてしまったな。』

『ブフーンっ』

『ブーン、頼みがある。ここに寝転がる者達を、先程の水辺に運んでやりたい。背に乗せても良いか?』

『ブフンっ』首を大きく縦に振ってくれた。

『助かるよ。ありがとう。早速だが、こいつを、、、よいしょっ、、と。』

力が抜けた大男ほど重たいものはない。しかしブーンは、軽々と水辺へ運んで行く。

『よし、ここでいいぞ。』

アグモをブーンの背から水辺の草の上に寝かせた。

『た、隊長!!隊長!!大丈夫ですかぃ!』

最初に辿り着き待っていた隊員が、アグモに駆け寄った。

『静かにしろ!傷にさわる。いいか、次からはブーンだけで怪我人を運ばせる。お前が降ろせ。』

『え、、この、、え、、』

煮え切らない返事に腹が立つ。一刻を争う。

『いいな!お前が降ろすんだ!時間がない!仲間を助けたくないのか!!やるんだっ!!!』

気迫に押されたのか、大きく返事した。

『は、はいっ!!!かしこまりました!!』

『よし、ブーン戻ろう。次だ。』


そうして、息のある者から順に水辺へ運んだ。水辺では、隊員とブーンが協力し、寝かせた怪我人に水を与えていた。ブーンは、含んだ水を吐き出し掛けているだけだが。


残念ながら、毒の液体を全身に被った男は息絶えていた。

毒の正体が分からず、触れようがなかった。可哀想だが、顔に私の服を掛けて岩陰に寝かせている。

アグモ以外は気絶しているものの、骨折程度で済みそうだ。アグモは、幾度も挑んだのだろう。尾に弾かれたような跡が、何本も全身に刻まれていた。

『そこのお前、いい加減に名を乗ったらどうだ?』

『あっ、、、へぇ。ホエルです。すんません。』

『ホエル、ここを頼めるか?私は、城下町に戻り助けを呼んで来る。それに、、、アグモは治療が必要だ。』

『へぇ。でも、魔物が来てしまうんじゃ、、、あっブーンさんは別ですよ。友達ですものね。』

『心配するな、この窪みは風が降りてこない。臭いが窪みから外に出ることも無いだろう。』

『へぇ。そ、そういうもんですか、、。』

不安気な男の為に、ブーンを側に置く事にする。

『ブーン、悪いがこいつ等の側にいてくれるか?もし、魔物がきたら追い返して欲しい。』

『ブフン』隆々の身体を誇示するように、首を縦に振る。

『ははは。頼もしいな。すまんが、少しの間頼む。アグモを預け、助けを呼んだらすぐに戻る。』

『ブフフーン。』待ってるとでも言っているのだろうか。


私はアグモを背負い、目を閉じた。膝に痛みはあるものの、まだ走れる。

『行くぞアグモ、死ぬなっ!』

どんっ!

一気に砂漠を越える。どんっ!!山に入ると里の者達の驚く顔を横目に駆け上がる。どんっ!!頂上を飛び越え渡り、あっという間に【カヤマ】の鍛冶屋の前。突然現れた私に、ヒミコの父も目を丸くしていたが、今は時間が無い。再び目を閉じ力を貯める。

どんっ!!!

(痛みが増してくる、、、)

【カヤマ】を飛び出し、関所まで一直線。どんっ!!!!


関所では、サモンがまだ立っていた。私の事だから、もしや3日と言わず、数時間で戻るかもと予想していたようだ。

『アグモ、お前は運がいい。サモンに感謝しろ。』


砂煙と大きな音を響かせて現れた私に、サモンも驚き何か言っていた。しかし、私にも余裕が無かった。

サモンに事情を話し、アグモを預け砂漠へと戻る。

『サモンさん!私の居場所は、道の窪みを目印にしてください!向こうが心配だ。私は、一足先に戻ります。』

目を閉じる。膝だけではなく、もはや足全体に痛みが広がっていた。

どんっ!!!!

再び、砂漠を目指す。至る所で窪みと砂煙を作り、周囲の人を驚かせながら、駆け戻る。

どんっどんっどんっ!!!


砂煙舞う砂漠。


どっ、、、

(水辺まで、後少しだというのに、、、足が動かない、、、)

ばたっと倒れてしまった。砂煙が私の周りを飛んでいる。陽も暮れてきて、視界は悪くなる一方だった。

双頭の大蛇【山案山子】を倒しアグモを救った男が一人、暗闇の中、砂に埋もれていく。

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