タイカンと砂漠の魔物
砂煙舞う砂漠。歩く度に、ざっざっと音がする。変わった形の木が生えていた。鋭い棘が全体を覆い、触れるな、近寄るなと言っているかのよう。私の知る木々とは違い、全体が緑色で葉が無い。逞しく育つ姿に感心していた。
(しかし、この砂は厄介だ。薄目で見るのが精一杯だ)
ざっざっざっ。止まっていても仕方ないと歩いた。
下山途中の山里。
『おぉ、やっつけ隊のアグモ隊長ではないですか!』
『来てくださったんですか!ああ流石やっつけ隊!』
依頼を出した里の者達は、アグモ達を歓迎した。
『あ、ああ。とりあえず3日間だが、様子を見にな。』
『そうですか。もう来てくれんと、私ら諦めとったもんで。こんな嬉しい事はない。』
『そうだねぇ。待っていた甲斐がありましたよ。』
『アグモ隊長の剛腕に掛かれば、【山案山子】なんざ只の縄ですよ!いやぁ〜!惚れ惚れする太い腕だねぇ〜』
里の者達が、アグモを褒めれば褒める程、アグモ胸はどんどん高く張っていった。
『おうよ!ワシに任せれば、どんな魔物も朝飯前じゃっ!さぁお前等、休んでる場合じゃねえぞ!行くぞっ』
胸を張り大股でずんずんと歩くアグモに付いていく5人。
(ほんま調子いい人やで。さっき迄あいつが食われる所見て、帰る言うてたやん、、、)
(はぁ〜、、、もう、、帰って酒呑みてぇなぁ)
『行ってらっしゃいませーーー』
里の者達の見送りを背に受けて、アグモの歩幅は更に大きくなっていった。
『シュー、、、シュー、、、』
双頭の蛇【山案山子】は、砂漠に一つある大きな岩の下に塒を構えている。そこは、王のみが許された極上の日陰だった。他の【山案山子】は元より、他の魔物や獣達も近づかない。
ざっざっざっ
一歩一歩進むと、薄目の視界にナニやらうごめく物が入ってきた。
(もしや、【山案山子】か?)
砂煙の向こうに見えたのは、蛇とは違う造形だった。
四本の足で歩く馬のような姿。しかし、背には瘤らしき物が見える。涎を垂らし、ぐしゃぐしゃと何やら食べている。
私に気付いたのか、前足を広げ少し屈むような姿勢になった。口に含んでいた物を吐き出すと、後ろ足を蹴り上げて突っ込んできた。
避けようと横に飛ぼうとするが、足を取られて思うよう距離が取れない。どんっ!左肩に鈍い衝撃が走った。
後ろに弾かれながら倒れぬよう、踏ん張った。
目の前のそれは、つぶらな瞳とは対象的に、隆々とした筋骨を持ち体当たりの衝撃は、崖から落ちたと思う程に身体に響いた。
(可愛らしい瞳が、余計に腹立たしい。肩は外れずに済んだか、、、)
前足を広げるそれは、再度突進しようと隆々の肉を引き締めている。
(足場の悪さに慣れるには、良い練習台か)
『さあ!来いっ!』
それに向かい掛け声を上げた。応えるように、突進してくる。足裏に込める力を強めて、感覚を鍛える。
『さあ!まだまだあ』
右へ左へ、後ろへ前へ、猛進するそれを幾度も躱し手いると加減がわかってきた。踏み込む事だけに力を使わずに、引き抜く方へ感覚を注ぐ。いつもより、歩数を増やす事で思う距離が取れるようになっていった。
『さあ!どうした!』
それは、明らかに疲弊していた。過去に此処まで避けられた事が無かったのか、口から舌を出し息が荒い。
それでも私の掛け声に応え続けるので、少し情が湧く。
『ブオオオオオオ』
鳴き声を上げ突進してくる。最後の力を振り絞ったのだろう。私は避けずに正面から応える事にした。
両手を広げ、避けない事を態度で示す。
『来いっ!!』
どどんっ!!!
それの懐に入り、胸と胸で当たる。がっぷり四つに組み、堪えた。
『ふぅーーー。なかなか良い立ち合いだった。』
疲れ切ったそれは、抵抗する事なくその場に座り込んだ。
『ありがとう。お前のお陰で、砂漠に慣れる事ができた。』
そう言うと、つぶらな瞳の頭を撫でた。
『ブフンっ』
目を閉じ、嬉しそうに私に身を任せてくる。筋骨隆々の身体は重いが、受け止めてあげた。
『何だ?懐くのか?変わった魔物だ。』
そう言いながら、頭や背を撫でた。
『ブフフーンっ』
『では、共にいくか?私も【山案山子】の王とやらを探しているが、一人では寂しいと思ってた所だ。』
『ブフンっ』
頭を縦に振ると涎が舞い上がる。
『言葉が分かるのか?しかし、凄い涎だな。』
『では、どこか水が飲める所を知っているなら案内してもらいたいんだが、分かるか?』
『ブフンっ』
涎が高く舞い上がった。
『ははは。やはり言葉が分かるんだな。では、少し休んだら水飲み場に連れて行ってくれ。』
砂漠に棲むもう一種類の魔物。【山案山子】のような獰猛さという事で、有名になったのではない魔物がいた。
その魔物は、四本足で筋骨隆々。背には二つの瘤がある。砂煙と同色の身体は滅多な事では人の目に付くことは少なく、幻の魔物とも言われている。近年では、見掛ける機会もなくなり、絶滅したのでは言われていた。
砂煙の中に薄っすらと見える幻の魔物は、姿の美しさや、その希少性から【砂の王】と呼ばれ幸運の魔物として、伝えられている。
里では、【砂の王】を模した人形や刺繍を作成し、城下町で販売している。一部の人々は数十種類にも及ぶ人形などを収集し、楽しんでいた。そういう愛好家達は、【砂の王倶楽部】という組織を作り、新作が出ては品評会を開いていた。盛況な会だという。
砂漠で出会った奇妙名魔物に懐かれ、共にいく事になった。
水辺がある場所へ連れて行ってくれると、私を瘤と瘤の間に座らせてくれた。適度な揺れと瘤の間の収まりが良く、心地いい。先程までと比べ、随分と楽だ。