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タイカンと勝負の朝

約束の朝。降り続くといわれていた雨は上がり、朝陽が登る。それでも薄暗い雲が遠くに見える。

アグモとイクマキが提案してきた魔物退治による勝負の時は刻々と近付いている。関所には、タイカンとサモンとベンテンが先に到着していた。少し霧がかった中に朝陽が入ると幻想的な雰囲気がある。


提案された魔物は、【山案山子】という双頭の蛇。【カヤマ】の裏山を抜けた先にある砂漠地帯に生息する魔物。個体差が激しく共喰いも頻繁に行われている。その中で数十年に一度現れる【山案山子】の王と呼ばれる個体がいる。

飛躍的に成長する体長は、他の同種に比べ大凡倍以上の体長を誇り、食欲旺盛。脱皮後の抜け殻は、分厚く丈夫だが伸縮性に優れ素材としての価値も高い。昨年頃から、山里の人間を襲う事があり、それが今回の討伐依頼となった。


『ふぁ〜、、、ちょっと、早かったんちゃいますのん?』

『ふんっ!欠伸とは、緊張感の無い男だ。』

『すんませんねぇ。ちょっとええ事あって、文官と呑み屋で一杯引っ掛けまして。』

『それは、良いですね。次は私もお付き合いしますよ。』


そんな話しをしていると、ガヤガヤと話す声が近づいてくる。

アグモが、【矢衝隊】を引き連れ現れた。

『ふんっ!遅いぞアグモ、もう陽は登っておるというのに。それに何だそいつ等は?ぞろぞろと引き連れて来て、何用か?』

『こいつ等も、そこの初心者と勝負してぇって、ついて来たんだよ!』

アグモは、にやついた顔を私達に向けた。

『ふんっ!一対一の勝負ではないのか!貴様、嘘を付いたのか!』

『早とちりしんじゃないよ!アグモとねぇ、こいつ等は共闘しようって言うんじゃないよ!それぞれで、一対一で初心者と勝負しようって言ってんだよ!』

『なんや、屁理屈に聞こえまんなぁ』

『うっさいねぇ!アンタは、黙っときな!』

『ふんっ!貴様等が共闘しない保証はないっ!認められんぞ!』

『まぁまぁ、良いではないですか。サモンさん。』

『し、しかし、タイカン殿。』

『彼等も昨日、私が手を出した人達だ。全て刈り取りますので、このままやりましょう。』

『おぅ、初心者!虚勢を張れるのもここまでじゃっ!』

『折角の晴れ間だ、喋っているのは勿体無い。合図を。』


アグモが引き連れて来た者達は、昨日の5人。どのような策を練ったのかは分からないが、私の興味は既に違う所にあった。【山案山子】、蛇の頭が二つとはどのような形をしているのか。他の蛇の倍とはどれ程のものか。サモンの合図が待ち遠しい。


『ふんっ!では、期日は3日!【山案山子】の王の個体を討伐した者は、ここに双頭の首を持ち帰る事で勝者とする!期日迄に両者戻らぬ場合は、痛み分けとする!』

サモンの説明をよく聞き、頷く面々。

『いざ!開幕!!』


開幕の掛け声と供に、アグモ達6人は一斉に飛び出した。

私も後を追う。【カヤマ】の鍛冶屋を抜け、大きな裏山を越えると目的地の砂漠。辿り着く頃には、夕方ぐらいだろうか。先に見つけられて、討伐されるのは避けたい。この目で動く【山案山子】を拝みたい。私は、先を行くアグモ達を追い抜こうと、踏み込む足裏に力を込める。


どんっ!


アグモ達の横を瞬く間に通りすぎたタイカン。

『何だあの足は!?』『もう、あんな所にいやがる。』

『あいつこそ、バケモノやないかぁ』

『た、隊長ぉ。やっぱり無理なんじゃ、、、』

『馬鹿野郎っ!怖気づいてんじゃねぇ!』

(怖気づいたのは、隊長だろうが。俺達を無理やり巻き込みやがって)

『あいつが先に着くのは、好都合だ!勝手に食われてくれりゃ、痛み分けだろうがワシ等の勝ちと同じだろうが!』

(汚ねぇ〜。端から討伐なんて考えてやしない。)

『急ぐぞ!食われる所を拝めねえんじゃ、晴れる心も晴れねえ!』


【山案山子】討伐の一行は、足早に人影の無い早朝の【カヤマ】を抜けて裏山へ。山道は、山の急斜面を避けるようにうねうねと、紆曲している。蛇のように蛇行しながら駆け上がり、砂漠を目指した。


『ふぅ。大分離れたな。』

裏山の頂上付近まで一気に駆け上がり、振り返ると人影は無かった。頂上に歩みを進めると眼前には、砂で覆われた大地が見えた。

(どこまで続いているのだろうか。先日の湖といい、この砂漠といい、どれもこれもが島では見れない貴重な景色だ。サクヤとミカノにも見せてあげたいな。)


『さて、降りるか。』

後は駆け下りるだけ。同じように紆曲する山道を駆ける。足取りが軽く飛ぶように走れるのは、先にある未知との出会いに心躍るからか。ミカノが稽古に向かう姿を思い出し、今の心境と重ねた。

『ミカノもこんな気持ちだったのだな。』


遅れる事2時間。やっと頂上に立つ男達。

『はぁはぁはぁ、、、隊長、ちょっと休みましょう、、、』

『はぁはぁ、、走り通しやと、着く前に死んでまう、、』

『ふう、、そうだな。ここで少し休むか、、はぁはぁ』

(あの野郎、何て足の早さだ。どうなってやがる)

『お前達、砂漠から目を離すなよ。動きがあれば一気に降りるぞ。』

肩で息する6人は、休みながら砂漠を眺めている。


ガサガサ、ガサガサ。

山道を抜けた途端に広がる一面の砂。山頂からの景色とは違い、薄い黄色の砂が風に舞っていて視界は悪い。

下山途中に、数軒の家々が建ち並んでいた。恐らくここの者達が依頼を出したのだろう。【山案山子】の抜け殻を採取加工し、城下町で売っているという。衣服や縄などに加工したそれは、高値で売買されている。


ベンテンが必須だと言い、出発前に持たせてくれた手拭いで口元を覆うように括った。

(貰っておいて良かった。ベンテンさんは本当にいい人だ。戻ったら肉の包蒸しを御礼に渡そう。)


砂の大地は、踏み込む度に足が沈み、一歩一歩が重い。

(この足場、鍛錬には良さそうだが、蛇と対峙するには分が悪いか。)


軽い砂が舞い、目を細めながら進む。何処にいるか分からないが、蛇であれば日陰か隙間か。この砂漠でそれらを探すのも難しそうだ。


ズズズズ、、、、

『シュー、、、シュー、、、』

砂漠の中央付近。タイカンを見る四つ目の大蛇。

気にしていないのか、狙いを定めているか、砂煙の向こうで鎮座していた。

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