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タイカンとベンテンの日

出航の朝は、生憎の雨模様。幸いにも風は弱く波も穏やかで、航海に支障は無さそうだ。昨日の内に運び入れた荷は、山のように船倉に積まれていた。


『精霊様、ご気分はいかがですか?』 

『エビス、おはようございます。ええ、大丈夫ですよ。』

『生憎の雨ですけど、影響は無いんでご心配なく。』

『はい。お任せしますね。』


船室でお茶を飲みながら談笑する二人。

『せやけど、ミカノくんも一緒や思てましたから、精霊様お一人で来たと聞いた時は驚きましたよ。』

エビスの問いかけに少し、ムッとするサクヤだった。

『まあ、ほらあの子も大きくなりましたしっ。』

『そうですかぁ。俺から見ると、只の子供に見えますが。でも、砦も守ってくれたし、特別な子ですかね。』

『特別ですねぇ。』

『せや、ミカノくん来る思てお菓子買っといたんですわ。食べますか?』

『ええ、頂こうかしら。』

『ほな、後でお茶と一緒にお持ちするよう言うておきます。何かあったら、言うてください。円卓の所におりますから。』

『ありがとう。』


(何や元気あらへんな。やっぱり寂しいんやろな。)


船室の窓には雨が斜めに打ち付ける。朝陽は雲に隠れて薄暗いままだった。沖に出ても天気は変わらず、外から聞こえるのは、雨音と波を弾く音。

小舟での航海とは違い、サクヤの秘策は使えない。それでも、大きな帆にありったけの風を受けて進む船は、後ろに波の跡を残し速度を上げて進んでいく。順調に行けば、明日の夕方か明後日の早朝には【シガ】の街。


『何事も無ければいいけれど、、、』

不安な気持ちが声に出る。いつもは、応えてくれる人がいるが今日は一人。時間の歩みがいつもより遅く感じた。

不思議なものだ、人族に比べ途方もなく長く生きている精霊は、一人でいるという事に慣れている筈なのに。


城内の「いつもの部屋」。

雨の城下町から戻り、何する事なく椅子に座り外を見る。

(こんな日があっても、怒られまい。)


程なくすると、廊下を歩く侍女達の噂話が聞こえてきた。

『ねぇ、街で喧嘩があったんだって』『そんなの日常茶飯事じゃない。』『違うのよ。アグモがやられたって』

『えー!あの大男が?ほんとにぃ?』『米屋の人が見たって言ってたのよ。』『どんな強い人かしら。』『でも心配よ。あいつらに手を出しちゃったら、後が怖いわぁ』


(喧嘩かぁ。物騒なものだな。)

変わらず窓の外を見る。


作戦本部の事務所では、噂話に顔を青くする者が一人。

『あの噂、そやんなぁ、、、。』

『でしょうねぇ。』

『せやけど、違う奴っていう、、、』

『やっつけ隊のアグモと、隊員5人ですよ。』

『そんなん出来る奴、、、』

『あの人以外にいますか?』

『おーーーー。おらんなぁ。俺がけしかけたみたいになってまうかなぁ?』

『どうでしょう。でも、ベンテンさんが彼等の馬鹿騒ぎを日頃から良く思ってなかった事は皆知ってますわなぁ。』

『いやーーー。それは、、、でも、俺に繋がるもんはないし、、、喉元過ぎればで何とかならんかなぁ、、、。』

『さぁー。そういえば、アグモとイクマキが番所に来てるらしいですよぉ。』

『なっ!?何でや??』

『ベンテン出せぇ〜って騒いでるみたいですよ。』

『なーーーー。それ先言えやぁーー!』

ベンテンは、血相を変えて番所へ向かって走り出した。


「いつもの部屋」私は窓の外を見ている。何も変わらない窓の外を見ている。

(だめだ。やる事がなさ過ぎる。ベンテンさんに城下町の事をもう少し聞いてみよう。もっと、お勧めの場所や見世物も沢山あるだろう。)


作戦本部の事務所へ行く。朝と同じく文官に声を掛けた。

『すいません。』

『ああ、どうも。どうされましたか?』

『ベンテンさんをお願いします。』

『ぶふっ』

文官はタイカンが来た事に加えて、ベンテンを探す様子に、笑って吹き出してしまった。

『ど、どうされましたか?大丈夫ですか?』

口元を手で抑え、もう片方の手でタイカンを制止する。

『だ、大丈ぶふっ、、です。ベンテンさんは、今番所に行ってますんで、、、』

『番所?』

『ええ、この廊下を、、ぶふっ、、まっすぐ行って、突き当りを、右でぶふっ、、す。』

『あぁ、ありがとう。』

(えらくむせていたが、風邪でもひいたのか?)


番所では、イクマキとアグモが騒いでいる。

『早く、ベンテンを呼びなさいよっ!いるのは、分かってんだからね!』

『おう!早く呼ばんと、暴れるぞっ!!』

番所の前で深呼吸をするベンテン。覚悟を決めて入る。

『イクマキさんに、アグモさんやないですかぁ〜。どうされたんですぅ?』

ベンテンの声で振り返った二人は、怒涛の勢いで迫る。

『おいっ!ベンテン、てめぇ仕掛けやがったな!』

『アンタねぇ!あの初心者匿ってんでしょうが!』

『おう!大人しく、連れてこいやぁー!!』


ベンテンは二人の勢いに押されて、身体が反り返った。

『ちょちょちょ。待ってくださいなぁ〜。何の事かさっぱりですわぁ〜』

『何をこのガキぃ!これが証拠じゃいっ!』

バンっと、アグモが机に置いたのは、濡れてぐしゃぐしゃの紙だった。

『な、何ですのんこれぇ?こんな紙で、証拠やなんて。』

『アンタ!しらばっくれるんじゃないよ!ここをちゃんと、見なさいよ!ここよっ!ここっ!』

濡れた紙をよく見る。そこには、城から【狩猟組合】迄の地図らしきものと、「ここ俺のお勧め!べ」と肉の包蒸しの

店に矢印がしてあった。間違いなく、証拠である。

『い、いややわぁ。「べ」が私や言うてますの?そんなん、城下町にも「べ」が付く人は、ぎょうさんおるでしょうに、これで疑われるなんて心外ですわぁ〜。』

『アンタ以外に、アタシは聞いた事ないねっ!!』

二人がベンテンを取り囲んでいる所にやってきた男。

『あっ!ベンテンさん、すいません。また聞きたい事かあって。取り込み中ですか?』

ベンテンが振り返ると、そこにいて欲しくない人がいた。

『あーーー!!お前ぇ!!初心者ぁーー!』

『ほら見ろ!アンタ、匿ってたんじゃないのよっ!』

『あれれ?タイカン殿ぉ〜。あれれ?お探しの人は、タイカン殿でしたかぁ〜。』

もう誤魔化しは効かないが、それでも我が身可愛さで押し切ろうとしていた。


『ん??私を探す?』

私を探す人と聞いても、察しが付かず騒ぐ二人をよくよく見てみる。ある一点を見て、気付いた。

『組合の。胸の。』

露出された肌は初見でなければ耐えられる。何より冷えないか心配だった。騒がしい番所での話しは、まだ続く。

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