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タイカンと狩猟組合

【狩猟組合】とは、害獣駆除と魔物退治の二種類の狩人が所属する組合。専属の者も居るが、大半の者は両方の駆除をおこなっている。組合は各地にあり、組合員になると三段階の加入証明書が発行される。

地域限定、対象限定、限定無しとなっている。地域限定以外の加入証明書は、基本的に何処の関所も簡単に通れる事から【馴染み】と呼ばれている。

【狩猟組合】が入っている建物は、全てと言っていい程呑み屋が併設されている。酒は精霊様からの贈り物とされ、それを喰らう事で力が付くという縁起物だからという建前だが、只々酒好きが多いという話しが一般的だ。


お祭り騒ぎの場所に唖然と座る。

『お兄さん、何呑む?濁りでいいかい?』

調理場から、ガタイの良い男が聞いてくる。

『では、それを頼む。』

騒音に呑まれ思わず頼んだが酒を呑みに来た訳ではない。

どんっと出された湯呑には、なみなみと注がれた濁り酒が入っていた。そろりそろりと、湯呑に口をつけ呑む。

見た目に反し、少し甘さのある酒は舌触りがよく、癖になる旨さだった。

『旨いな。』

『そうかい。口に合ってよかったよ。』

私の独り言に、応えてくれる男。

『すまない。初めて来たんだが、【矢衝隊】はここかい?』

『ん?やつけ?』

『そう【矢衝隊】はこちらにいるか?』

『あー。やっつけ隊かぁ。あそこに階段があんだろ。あれ登ったら、吹き抜けの二階に行けっからそこだわ。』

『そうか。ありがとう。』

席を立ち土産を持って行こうとすると

『ちょい待ちっ』

『ん?』

『お代を置いてきな。500シンカだよ。』

『あ、あぁ、すまない。ここで払うのか、ではこれで。』

『毎度、そしたら500シンカのお返しだ。』


お釣りと呑みかけの濁りを持ち、二階へ上がる。

タンタンタンと登り二階へ上がると、最初に目に入ったのは、大量の紙が掲示された板だった。


何やら各地に出没している魔物の退治依頼が貼ってあるようだ。暫らく眺めていると、奥から人が来た。

『なんだアンタ新入りかい?』

振り返ると、胸が半分でた女が立っていた。

『あ、いや、あ、』

目のやり場に困り戸惑っていた。

『なんだい、はっきりしないねぇ。緊張してんのかい?

まぁいいわ、ほら証明書見せてごらんよ。』

『、、、持ってないが、、、。』

床の方に目線を落とし答えた。

『なんだい。初心者かい。全くそうならそう言いな。』

『、、、』

床から少し目線を上げて気付いた、太腿が服の切れ目からひらひらと見えている。更に目のやり場に困った。

『でかい図体して、おどおどしてんじゃないよ!』


『なに、騒いでるんだ?』

奥から男が私達に近づいてきた。


『はっきりしない初心者が、来てるんだよ。』

『はっきりしない?何じゃそりゃ?』

『おい兄ちゃん、何の用なんだ?』

『わ、私は、』

女から目を逸らそうと横を向き話した。

『お前、人が話し聞いてんのに、そっぽ向きやがって!』

男は沸点の低い者なのだろう。そう言うと私の胸ぐらを掴んだ。その拍子に手に持った湯呑が落ちる。

『てめぇ!こっち見やがれっ!』

胸ぐらを掴まれて気分の良い人間はいるのだろうか。

ゆっくりと、男に視線を合わせる。背丈は私よりも少し高く肉付の良い身体をしていた。胸ぐらを掴む丸太のような腕の上に私の右腕を当てる。

ぐるんっ

そのまま巻きつけるように、内側へ引き込み相手の腕を服から離す。そのまま、がら空きの水月へ正面から掌底を入れた。

『ぶはっ!』

男は息を吐き出し崩れ落ちた。息がしづらく苦しそうにしているが、胸ぐらを捕まむ男に同情はしない。

『あ、アンタ、何しやがんのさっ!!』


二階から聞こえる女の声に、下で呑む男達が反応した。

『なんだなんだ、喧嘩か?』

『なんやおもろい事始まったんかぁ』

『雨で苛ついてる時に、うるさいのぉ』

ぞろぞろと男達が登ってくる。何の準備か指の骨をバキバキ鳴らす者や、首の骨をバキバキ鳴らす者。どのような意図があるのかは定かではないが、気分の悪い笑みを浮かべている。

『おいっイクマキっ!何の騒ぎじゃっ!』

『この初心者が、アグモを殴ったんだよっ!』

『なんじゃとぉ!』

ぞろぞろと登ってきた内の一人が、激しい剣幕で迫ってきた。濁りが入った湯呑片手に息巻いている。

『この初心者がぁ!アグモに何をしよるんじゃあー!』


『ふぅ。私はここに用向きがあって来たのだが、きりが無い。何が原因かは分からないが、まとめて来てくれると助かる。後ろに控えている方々も、来るなら一緒で頼む。』

『おいっ!お前なめてんのか、こらぁ』

『ほな、やったるわい!!』

『初心者がぁ!』


手荷物の土産を床に置き、深呼吸を一つ。

『ふぅーーーー。しかし、煩くよく吠える。』

どっどっどっ

ぞろぞろと登ってきた男達が一気に迫ってくる。

『5人だな。』

一人目は湯呑片手の男。殴り掛かる腕を交わし懐に膝を突き上げる。くの字に身体を曲げた後、背中を肘で突き沈める。

二人目と三人目は、揃ってやってきた。前蹴りで距離を取り、怯んだ所で間を詰める。一人は顎に拳を当て、もう一人は側頭部に回し蹴りを当てて沈めた。

四人目は猪突猛進でくるので、そのまま躱した。奥の椅子に突っ込むのを横目に見て、先に五人目の方へ向かう。

歩き近づく私に、身震いをしていたようだが、覚悟を決めたか声を上げ走ってくるので、掌底を顎に当て沈めた。

四人目がやっと後ろから戻ってきたので、蹴りを伸ばし水月を射抜き沈めた。


どさっと並ぶ男達の間を抜けて、土産を拾う。

『ここには、私が会いたい人はいないようだ。失礼する。』

女に帰る事を伝えると、先程までの私と同じように、視線を合わさずに立っていた。

『え、あ、な、、、』


『そうだ。貴女はもう少し露出の少ない服を着るべきだ。冷えると身体に触る。良ければこれを。』

袋から肉の包蒸しを一つ取り出し、女の手に乗せた。


階下に戻り、静かになった酒場を抜けて外へでて、合羽を着て雨の中に戻った。想像と現実には差はあるものだが、これ程にかけ離れると、急激に興味が無くなる。


(はぁ。残念だ。ミカノの稽古に交ぜて貰えないかな。)


雨足は弱まる事なく強く打ち付ける。先程の立ち回りのせいか、折角の外出だったのに無性に虚しい。

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