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タイカンとムーデ

ミカノによる、サクヤヒミコ事変の決着がつかぬ内に来客があった。二番砦で片腕を失いながらも必死に守り抜いたムーデが訪ねて来たのだ。彼は私に稽古を付けて欲しいと、強く懇願したのだった。


『お願いします。私に稽古を付けてください。』

『ムーデさん、顔を上げましょう。稽古ならサモンさんや、陸上部隊の方々もおられるのでは?』

『無論サモン様を軽んじている訳ではございません。私は、あの光、あの精霊の力に見惚れたのです!』


ムーデは、ミカノが作った半円の【光壁】を見て、私に稽古をと頼み込んできた。どうやら、私と稽古をする事で精霊の力が使えるようになると思っているようだ。

『ムーデさん。あれはですね、、、その』

サクヤに目を配ると、頷いていた。


『ムーデさん、あそこに座るサクヤは、私達の住む【シガ】にある山の神、精霊様なんです。』

唖然とするムーデを他所に話しを進める。

『ミカノは、精霊様であるサクヤに幼子の頃から育てられいつしか、力が使えるようになりました。それは、尋常ではない速さと強さで。ですから、私が何かした訳ではないんですよ。今回の件は、私ではどうにも。』

肩を落とすムーデだった。

『精霊様に育てられた、、、そうですか。それは、教えて頂いてどうにかなる、という物ではないですね、、、。』


ムーデの様子を見たからなのか、サクヤが声を掛ける。

『ミカノ!』

『なに?』

『ミカノ、最初に教えた事は覚えてるかしら?』

『えーと、身体の内側からのやつ?』

『そうよ。』

『うん。今もそうやって使ってるし。』

『なら、平気ね。』


今度はムーデに声を掛けた。

『ムーデさん。』

『はい。精霊様。』

『ムーデさん、光の力は難しいと思います。いえ、無理かと思います。』

『はい、、、身の程を弁えておりませんでした。』

『いえ、そうではありません。光の力は特別なんです。本来、人族では使える者はいない筈ですから。でも、あなたの力を増幅する手助けならば、可能かもしれません。』

『増幅ですか?』

『はい。ムーデさんは、どのような力でしたか?』

『私は、火の精霊を使います。』

『そうですか、ではそこのミカノに教わると良いでしょう。でも、人族には力の限界があります。今がそうかもしれませんし、まだまだ伸びるかもしれません。必ずという訳ではありませんが、如何しますか?』

『それは、願っても無いお申し出です。』

『では、決まりね。ミカノ、出来るわね?』

『うんっ!力の出し方だよね?大丈夫、できるよ』

『ミカノにとっても、火の精霊使いを間近で体験できるのは良い機会よ。しっかり勉強しなさい。』

『そうだねっ!火の精霊か愉しみだなっ!』


『それじゃあ、島へは私とエビスで向かう事にします。ミカノ、頼みましたよ。しっかりと教えて差し上げなさい。ヒミコさんも宜しくお願いしますね。』

『はい。お任せくださいませ。坊っちゃんが遊ばないように目を光らせておきますので。』

ヒミコは悪戯な笑顔で応えた。


『あーあ。私だけ豪華な船旅楽しんじゃお。』

サクヤは、これ見よがしに話したが、もうミカノの耳には届いていない様子だ。親の心、子知らずとはこの事か。


『精霊様、ありがとうございます!ミカノ殿、宜しくお願い致します。命の恩人に教えて貰えるなんて、私は本当に運が良いっ!』

片腕を失くしてまでも、この機会を「運が良い」と言えるムーデに志しの強さを感じた。


そして、ミカノのサクヤヒミコ事変は、サクヤの子離れで終焉を迎えた。


夕方、サクヤが荷物を纏め馬車に乗り込む。船までは護衛にと、城から兵を出してくれた。馭者も兵士が務めている。


『じゃあ行ってくるね。私がいない間に、無茶はやめてよ。』

『ああ、分かっている。私もこの機会に少し街を回ってみるよ。気をつけてな。皆に宜しく伝えてくれ。』

『ミカノ、ちゃんと稽古をするのよ!ヒミコさんと喋ってばかりじゃ、ダメだからねっ』

『大丈夫だよぉ〜。えへへ。』

『もう、ミカノったら。じゃあね。』


サクヤを乗せた馬車は、【ナーラン】に向けて出発した。早くても7日間、島での滞在が伸びれば10日程か。無事に戻る事を祈りながら、見送った。


サクヤは島へ、ミカノはムーデと共に稽古。ここに来て私には、差し迫った用向きが無くなってしまった。街を回るといっても、【カヤマ】や【ラクヨ】へ続く砦へは既に赴いていた。


(そういえば、前にエビスが魔物退治を生業としている者がいると言っていたな。なんとか会えないものか)


『タイ?早速今日から稽古したいって、ムーデさんが言ってたんだけど、良いかな?』

『今から?まあ構わないが。でも、ヒミコさんと一緒に行きなさい。あまり遅くなるなよ。』

『わかった!二人に言ってくるよ!』

ミカノは、駆け足で城内へ戻っていった。精霊使いとの稽古が、余程楽しみなのだろう。いつもより軽やかな足取りが、それを物語っている。


『さて、サモンさんか、ベンテンさんに聞いてみるか。』


晴れた日の夕方。夕陽は美しく、それぞれの道を優しく照らしていた。

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