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タイカンと長い一日

長い一日。夜明け前に始まったからという訳ではない。色濃く残る残像がたった数時間の中に凝縮され、心が掻き乱された。達成感には程遠く、押し寄せる波のように終わる事のない不安が心を搔き乱す。

このような一日は総じて長く、城に戻ったタイカン達も様々な不安に掻き乱されていた。


城に戻ったタイカン達は、親方様の部屋に集まっている。


『ねえ、タイカン。島に戻ってみない?』

『サクヤも、そう思っていたのか。』

『魔族が島に来ていないっていう保証もないし。』

『そうだな。しかし、こちらの事も気に掛かる。』


親方様はエビスと話していた。

『エビス、城内の様子を報告してくれないか。』

『はっ。作戦本部のベンテンと共に、侍女や出入り業者などを洗い出しましたが、怪しい者はおりませんでした。馭者の男の事を詳しく知る者も城内におらず、数日前に雇ったばかりだと文官から報告を受けています。』

『そうか。念の為、その文官については詳しく調査するよう頼む。』

『はっ!仰せのままに。』

『ところで、マダイの事なんだが。』

『はい。サモン隊長より伺っております。親方様のご采配に異論はございません。』

『そうか。お前の右腕を奪うような真似をしてすまなかった。私の勝手を赦してくれ。』

『滅相もございません。この一大事にお役に立てる事、恐悦至極の極みでございます。』

『しかし、魔族の事は振り出しに戻ったか、、、。』


ミカノは、ヒミコと紅茶を飲み話していた。

いつの間にかヒミコは、私達専属の侍女となるよう役目を言い渡されていた。なので精霊の事や、魔族の事などヒミコは他の侍女とは違い、全てを聞いている。それ程に信頼の厚い娘なのだろう。私にとってもミカノが懐いているので、大変に有り難い。


『失礼します。文官より親方様への言伝を預かっております。宜しいでしょうか。』

『ベンテンか。構わん、こちらへ。』

ベンテンは、文官から預かった書状を親方様に渡した。

『そうであったな。失念していた。』

読み終えた親方様は、私達を呼んだ。

『タイカン、例の交易の件まだ途中であったな。色々あり時間が掛かってしまった。』

『いえ、このような事態ですから。』

『いま、文官が角の値段を出してきたんだが、、』

ベンテンが渡した書状には、角の長さ、太さ、色、形など詳細に分類され、それぞれに松竹梅のいずれかの文字が添えられていた。ほとんどは松の文字が添えられており、最上位に位置する品というのを現していた。

書状の末尾に一本あたりの値段と、今回の総額が記載されていた。私には判断できないので、サクヤに見てもらう。


『角一本が、この間の羽でいえば20枚分ぐらいね。』

『!!なっ!?一本で?!サクヤ、間違っていないか?』

『そう書いてあるじゃない。一本120万シンカって。だから、10本で1200万シンカね。良いと思うわ。お願いしましょう。』

『サクヤが言うのなら、、、一本で羽20枚、、高過ぎやしないだろうか、、、』

『タイカン、そう心配するな。角を加工する者、販売する者それぞれに給金を出した上で、ワシらも儲かるように試算し査定した結果だ。まぁ安くしてくれるのならば、それはそれで有り難く受取るがな。』

『もう、タイカンっ!値切られちゃうじゃないっ!』

『はははは。冗談ですよ精霊様。さて、ではどのような方法にしましょうか?全額をお渡ししますか?』

『そうですね、、、そのままお札で貰っても島では使い道がありませんので、ある程度は加工された食料と資材、あとは植物の種などに交換して頂こうかと思います。必要な量を後ほど文官の方達とお話しさせて頂ければ有り難いのですが。残りについては、可能であればこちらで【シガ】の資産として保管して頂けると嬉しいのですが。』

『承知しました。文官に申し送りしておきましょう。精霊様の好きなように使ってください。金の預かりについても、話しておきますのでご安心ください。』

『ありがとうございます。』

『サクヤ、交易の事をヤス様にお伝えしないと。きっと大喜びするだろうな。』

『ええ。買付けが済んだら一度戻りましょう。先程の話しもありますし。』

私達が島に戻る話しをしていると、親方様は悩ましい顔をしていた。

『島に戻られるか。そうであるな。引き止める道理はないか、、、』

『親方様、魔族の事ですね。』

『すまんな。巻き込んでしまった。』

『いえ、私もここを離れて良いものか悩んでおります。とはいえ、島に来ていない保証もなく。』


『ねぇタイ?島に帰るの?』

『あぁ角を高く買ってくれたんでな。長に報告しないと。』

そう答えると、ミカノは不安な顔をした。

『もしさぁ、タイが帰ったら、あいつらさぁ、来ちゃうんじゃない?』

『えっ?どこにだ?』

『それは、タイがいる所だよぉ。』

『ミカノ、どういう事なんだ?』

親方様もサクヤもそこに居る全ての者が、ミカノの話しに耳を立てた。

『タイ、覚えてないの?あいつが言ってたの、ぼく聞こえてたよ。』


銀髪の魔族が去り際に話した内容をミカノは覚えていた。

「残念。今日はもう終わりだ。タイカン、また会えたら次は楽しもう。」


『あれって、タイの事を知ってるし、また来るって事じゃないのかな?』


親方様が口を開く

『、、、そうとも取れる。しかし、次に偶然会ったらとも取れる内容だな。タイカンの事は、馭者を通じて知った可能性も捨てられん。もしくは、ずっとタイカンを見ていたか、、、断定するには情報が足りぬか。』

『そっかぁ。島に行っても大丈夫なのかなぁ?』


沈黙する中、エビスが考えを話した。

『タイカン、お前はこっちに残ったらどうや?結局分からん事が多すぎやけど、もしミカノくんの言う通りお前を追ってくるんやったら、島は危険すぎるんちゃうか?ここやったら、親方様もおられるし、精霊使いもおるから何とかなるかもしれへんが、向こうで事が起きたら終わりやろ。』


エビスの話しも尤もだ。小さな島が今度こそ、希望も何も打ち砕かれ消滅してしまう。しかし、サクヤとミカノだけで行かせるのも不安が残る。熟考していると、サモンが口を開いた。


『タイカン殿、もし宜しければ私が島に同行するのは如何でしょうか。タイカン殿の代わりにはなれませんが、多少の腕は立つつもりです。護衛代わりと思って頂ければ。』

『それやったら、俺やろ!おっさんは、陸専門やないかい。俺は海上部隊やで!海越えんのにそんなデッカイ身体邪魔でしゃあないわ。』

『ふんっ!黙れ小童っ!今はタイカン殿に話しているんだ!貴様など、相手にしていないわっ!』

『なんやと!筋肉達磨ぁ!しばくぞアホー!』

『ふんっ!掛かってこい!指一本で退けてくれるわ!』

サモンとエビスがじゃれ合っている。

『いい加減にせいっ!』

親方様が見兼ねて二人を制止した。

『タイカン、エビスを同行させるのはどうか?エビスなら海上での機転が効く。何かあっても、精霊様を守り抜けるとワシは思うのだが。』

親方様の話しを聞いたエビスは、小声でサモンにちょっかいを出す。

『ほれ見てみぃ。親方様は達磨より、俺を選ぶんや。』

『ふんっ!』


『タイカン、その案お受けしましょう。』

サクヤが全てを聞き、決断した。


不安の波は消えはしない。只々、一波ごとに越えてゆくしか道はないのだ。

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