タイカンと人ならざる者
玉が落とされる少し前
『マダイさん、とりあえず数時間はこの状態を維持できるかと思います。暴徒化した者が30人程ですし、弓矢も飛んできてないみたいようなので。』
『光の壁ですか。本当に精霊様の力というのは、想像を越えてきますね。』
『とはいえ、引かないですね。このままでは、言伝の意味が無くなってしまうな。』
『タイカン殿、どうなさいますか。』
『光の壁が消えた時に、私とミカノで門の前に出ようかと。数人気絶させて、引いてくれれば御の字ですね。』
『それならば、私も』
『マダイさん、あなたは冷静な人だとエビスから聞いてます。私達では出来ない事をやってもらいたい。』
『出来ない事でありますか?』
『砦の状況を確認し、補強すべき部分や物資の確認、出来れば補修の指示など、現場をお任せしたい。ムーデに代わり、ここの指揮を取って欲しい。』
『はっ。かしこまりました。お任せください。』
『まぁ時間はありますので、一つ一つこなしてください。』
『ミカノ、そういう事だ。いつでもいける準備をしておけ。朱の刀の出番は近いぞ。』
『わかった。ぼくは、いつでもいいよ。』
ひゅう〜ひゅう〜
銀髪を靡かせる人ならざる者は、掌に創った怪しげな玉を落とした。
『さぁ楽しもうか。タイカン。』
シューーーーッ。空気を切り裂き落下する玉
『ねぇ。あれなんだろう?』
『ん?なんだ、どうした?』
音のする方を見た。
『丸い、、なんだ?』
ゴォォォッ。玉は上空から橋の方へ落ちていく。
暴徒と化した者達も音のする方へ振り返る。
グググ、ゴォォォ。
落ちる手前で、光の壁目掛けて迫る玉。
ゴゴゴゴォォォ
暴徒と化した者達が巻き込まれていく。直撃したものは、塵となり、触れていない者は燃えた。集団だった人々は、人である痕跡を消した。
『伏せろーーーーっ!』
玉が光の壁に衝突する。
ドガーーーンッ
衝撃音が湖面を渡る。遠くの鉱山から鳥が羽ばたいた。
パラパラ、、、パラパラ、、、
砂煙が砦周辺に充満している。
『ごほっごほっ。何が起きた、、ミカノ、大丈夫か!?』
『う、うん。大丈夫、、でも壁が。』
砂煙が落ち着き視界が開けると、光の壁が崩れかけていた。
ひゅう〜ひゅう〜
雲の上では、冷たい風が吹いている。
『おぉ〜。耐えたかぁ。なかなかやるねぇ。ご褒美に、顔を見てあげようかな。』
銀髪の人ならざる者は、浮遊しながら二番砦の方へ降りていく。地上から見上げた者は、それが神か仏に見えたかもしれない。
ゾクゾクゾクっ
『ミカノ、マダイ、下がっていろ。。。。』
私は、凍りつく背筋と、震える足を無理やり動かして門へ向けて全力で走った。上空から迫る者を見る余裕はなかった。門を開け壊れかけた光の壁の隙間から橋の上へ飛び出した。
震える足を止めようと、太腿を強く叩く。
ゆらりゆらりと浮遊しながら、私の目の前に降りてくる。
直視してはいけないという本能と、直視しなければ殺されるという理性がせめぎ合う。
『やぁタイカン。元気かい?』
私の名を呼んだ事に戸惑うが、それよりも圧倒的な力の差を感じ何も言い返せない。
『ククク。緊張しているのかなぁ。あれれぇ?う〜ん。あの壁作った子は、中だね?』
ミカノの話しをされ焦った。
『待てっ!』
人ならざる者は、ゆっくりと視線を私に合わせた。
『タイカン。どうしたんだい?慌てるなんて。まるで私が君達を脅しているみたいじゃないか。』
浮遊する人ならざる者は、私を試すかのような口調で話し、口元は薄ら笑いを浮かべていた。
『う〜ん。君ではダメかぁ〜。どうしようか?』
『。。。』
『何か拍子抜けだね。死のうか?』
蒼い掌を私に向けた。怪しげな玉が少しずつ出来上がる。
(サクヤ、ミカノ、すまない。)
私は覚悟を決めた。
『。。えっ?何?もう一度。。』
人ならざる者は、急に話しだしたが私に向けてではない事は視線でわかった。
『。。。そうかぁ。。。わかった。これは借りにしておくよ。』
蒼い掌の怪しげな玉を上空へ投げ、破裂させた。
パーーーンッ
耳をつんざく破裂音が鳴り響く。
『残念。今日はもう終わりだ。タイカン、また会えたら次は楽しもう。』
一方的に話し終えると、ゆらりゆらりと上空へと登った。
雲の影に消えた途端、全身の力が抜けその場に膝から崩れ落ちた。毛穴という毛穴から、汗が噴き出し脱力感に覆われていた。
私に駆け寄る足音が聞こえるが、顔を上げる力も出ない。
『タイっ!タイっ!大丈夫っ?!』
聞こえるが、声が出なかった。
小さな手が私の背中を抱えている。ミカノの暖かさに安心するとは思いもよらなかった。
『、、、すまない。大丈夫だ。』
ミカノの肩を借り、やっと立ち上がる事ができた。
『皆は無事か?』
『うん。マダイさんが全員に声を掛けてたよ。大丈夫だから安心して。』
『良かった。何者か分からないが暴徒ごと消し去ってくれた事で、こちらの予定も上手く進みそうだ。今は、運が良かったとしておこうか。』
時間は遡り、人ならざる者が怪しげな玉を【光壁】に落とした頃、、、
馭者が馬車を城に向けて走らせていた。
ガタガタ、ガタ。馭者は馬車を停めた。
『おい馭者、何をしている、我らは城に急ぎ戻らなければならないのだ。』
『へぇ。』
『ふざけている場合か!!早く動かせっ』
『。。。』
『おいっ!』
『やかましいやっちゃな~』
馭者が手を伸ばす。届かないはずの兵士の首元に手を伸ばす。馭者台に座りながら伸ばした手は、兵士の首を掴み窒息させた。足をバタつかせていた兵士は、力尽き死んだ。
『えらいこっちゃ。あの戦闘狂、動きよったかぁ。』
この日、不穏な空気が至る所で渦巻いていた。