タイカンとラクヨの街へ
大広間では、親方様の音頭で祈祷師の二人が踊りを舞っている。げらげらと笑い声が響く。楽しそうな二人に釣られてミカノも踊り始めた。更に大きくなる笑い声が遅くまで続いた。サモンは普段の様子に戻っていたが、柔和な表情になっていた。
『タイカン、楽しんでくれたかのぉ。』
『親方様、ありがとうございました。こんなに笑ったのはいつぶりか。本当に楽しい席でした。』
『そうかそうか、それは招いた甲斐があったわ。』
『精霊様も楽しんで頂けましたかな。』
『ええ、勿論です。ミカノにも良くしてくださってありがとうございました。流石、ホテイですね。』
『ははははっ。精霊様に褒めて貰うとは、ワシは家宝もんだわ。』
会はお開きとなり、三々五々それぞれの部屋に戻った。
私達は、エビスに連れられ用意してくれた寝間へ。
『タイカン、明日出んのか?』
『そのつもりだ。夜明けと共にでたい。』
『わかった。準備しとく。お前だけで行くんやな。』
『いや、ミカノも連れて行く。』
『えっ?子供やぞっ。何かあったらどないすんねん。精霊様かて、そらアカンって思いますやろ?』
『不安が無いと言えば嘘になりますが、それよりもこの子の成長が楽しみなんです。それに、タイカンがいるならば何かあっても、ミカノだけは助けてくれますでしょうし。』
『アカン、こりゃ何言うてもこの夫婦は聞かんな。』
『ははは。大丈夫だ。目的は、サモンの仲間を救出することだから、戦いよりもそちらを優先するさ。』
『ほんまに、頼むで。これで何かあったら、俺もあの筋肉達磨も親方様に殺されてまうわ。』
『あら、何かあったら私も黙ってないかもしれませんよ。』
『そんなぁ殺生なぁ〜。精霊様には敵いませんわ。』
『ふふふ。でも、心配してくれたありがとう。二人は、大丈夫ですから、安心してください。』
『そうですな。魔物を倒すし、精霊の力も使えるのは子供の域やないもんなぁ。まぁ明日は、俺の部下も付けるから道中に色々聞いてくれや。マダイいうて、俺と違って冷静な男やから何か迷ったら、使ってくれや。』
『すまんな。それでは、明日の夜明けに。』
『おぅ。昨日の門前の所で待っといてくれや。』
エビスは、「いつもの部屋」へ向かった。
『サクヤ、ミカノを連れて行く事反対せずにいてくれてありがとうな。』
『もう、何年一緒にいると思ってんのよ。』
『そうか、最初から分かっていたか。』
『当たり前じゃない。それに、ミカノの強さを知っているのは、タイカンだけじゃないのよ。精霊様である私の力が使えるのよっ!タイカンもうかうかしてると、追い越されちゃうかもよぉ〜。』
『はははは。それは頼もしいなっ。まぁ、明日はミカノにとっては辛い光景になるかもしれないが、知らずに通るより、自ら体験する事が大切だ。力を得るという危うさを知るには好機かもしれない。』
『ええそうね。でも、好機は不謹慎ね。ほんといつまでも馬鹿だね。』
『はははは。エビスの言う通りだ、お前には敵わないよ。』
『ふふふ。』
夜明け前、ミカノを起こし身支度を整える。
『ミカノ、断ってもいいんだぞ。』
『大丈夫。いくよ。サモンさんの仲間を助けるんでしょ。』
『そうだ。私達が、彼等にとっての希望にならないといけない。決して諦めず、必ず連れて帰るんだ。』
『うん。分かった。』
『ミカノ、着いたら【光壁】でみんなを囲みなさい。あなたの【光壁】は、私と同じかそれ以上に固い守りよ。』
『うん。任せて。もう誰も怪我させないから。』
『さぁ行こうか。朱の刀、忘れるなよ。』
ガチャっ。
『うんっ!いつでも大丈夫だよっ!』
夜明け前、石畳から見上げた木々の葉の隙間には、まだ星が見える。門前に到着すると、昨日の馭者と男が立っていた。
馭者が声を掛ける。
『おはようございます。タイカン殿。今日もお供致しますので、宜しくお願いします。』
『ああ。ありがとう。』
もう一人の男。エビスの部下のマダイ。
『おはようございます。タイカン殿、ミカノ殿。海上部隊副長のマダイです。本日の極秘任務、身命を賭して臨ませて頂きます。』
小柄な背格好だが、よく鍛えているのが分かる。
短く切られた髪も清潔感があり、好青年だ。
『マダイさんですね。宜しく頼みます。しかし、命は大事にしてください。マダイさんの役目は、私達と【ラクヨ】で待つサモンさんの部下達をここまで連れ帰る事ですから。』
『承知しました。精一杯務めさせて頂きます。』
私達を乗せた馬車は白白と明け始めた街道を進む。誰もいない城下町も、風情があって良い。
『マダイさん、いいかな?』
『はい。何なりとお申し付けください。』
『そんなに、固くならないで。』
『はっ。申し訳ございません。』
『ははは。徐々に慣れてくださいね。』
『はっ。』
『サモンさんの部下はどの辺りにいるんですか?』
『二番砦と聞いております。』
『二番砦?』
『はっ。【ラクヨ】が寝返った後、幾度か暴徒の襲撃があり、押し込まれたのですが、少しずつ押し戻す度に防壁を立て砦にしております。』
『二番というのは?』
『はっ。三番砦が【ラクヨ】と国境です。そこから大凡2時間程、こちら側に近い場所が二番砦です。』
『という事は、三番は取られてしまったんだね。』
『はっ。その際にムーデがやられたと聞いております。』
『ムーデというのは、片腕を失った?』
『はっ。その通りです。』
『今はどういう状況かは聞いているなかい?』
『はっ。二番砦から応戦するも、剥がしきれないと聞いております。』
『剥がしきれない?』
『はっ。今までならば、幾らか応戦すると諦めて引き下がっていたようですが、今回三番砦を襲った暴徒は諦める事なく向かってくるとの事です。』
『そうですか。暴徒、、、凶暴化したのか、はたまた魔族の類なのか、、、』
ガタガタゴトゴト
『タイカン殿〜。間もなく一番砦に着きます。馬車で行けるんわここまで何ですわ。』
『そうか、ありがとう。ここで降りるよ。』
『そしたら、ここで待ってますんでお気を付けて行ってくだせぇ。』
『ありがとう。もし危険な状況になったら、私達に構わず、城に戻ってくださいね。』
『ははぁ。ありがとうございます。ご武運を。』
馬車を離れ、二番砦へと歩いて進んだ。
穏やかな朝陽に照らされて、身体も温まってきた。