表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/218

タイカンとラクヨの街へ

大広間では、親方様の音頭で祈祷師の二人が踊りを舞っている。げらげらと笑い声が響く。楽しそうな二人に釣られてミカノも踊り始めた。更に大きくなる笑い声が遅くまで続いた。サモンは普段の様子に戻っていたが、柔和な表情になっていた。


『タイカン、楽しんでくれたかのぉ。』

『親方様、ありがとうございました。こんなに笑ったのはいつぶりか。本当に楽しい席でした。』

『そうかそうか、それは招いた甲斐があったわ。』


『精霊様も楽しんで頂けましたかな。』

『ええ、勿論です。ミカノにも良くしてくださってありがとうございました。流石、ホテイですね。』

『ははははっ。精霊様に褒めて貰うとは、ワシは家宝もんだわ。』


会はお開きとなり、三々五々それぞれの部屋に戻った。

私達は、エビスに連れられ用意してくれた寝間へ。

『タイカン、明日出んのか?』

『そのつもりだ。夜明けと共にでたい。』

『わかった。準備しとく。お前だけで行くんやな。』

『いや、ミカノも連れて行く。』

『えっ?子供やぞっ。何かあったらどないすんねん。精霊様かて、そらアカンって思いますやろ?』

『不安が無いと言えば嘘になりますが、それよりもこの子の成長が楽しみなんです。それに、タイカンがいるならば何かあっても、ミカノだけは助けてくれますでしょうし。』

『アカン、こりゃ何言うてもこの夫婦は聞かんな。』

『ははは。大丈夫だ。目的は、サモンの仲間を救出することだから、戦いよりもそちらを優先するさ。』

『ほんまに、頼むで。これで何かあったら、俺もあの筋肉達磨も親方様に殺されてまうわ。』

『あら、何かあったら私も黙ってないかもしれませんよ。』

『そんなぁ殺生なぁ〜。精霊様には敵いませんわ。』

『ふふふ。でも、心配してくれたありがとう。二人は、大丈夫ですから、安心してください。』

『そうですな。魔物を倒すし、精霊の力も使えるのは子供の域やないもんなぁ。まぁ明日は、俺の部下も付けるから道中に色々聞いてくれや。マダイいうて、俺と違って冷静な男やから何か迷ったら、使ってくれや。』

『すまんな。それでは、明日の夜明けに。』

『おぅ。昨日の門前の所で待っといてくれや。』


エビスは、「いつもの部屋」へ向かった。

『サクヤ、ミカノを連れて行く事反対せずにいてくれてありがとうな。』

『もう、何年一緒にいると思ってんのよ。』

『そうか、最初から分かっていたか。』

『当たり前じゃない。それに、ミカノの強さを知っているのは、タイカンだけじゃないのよ。精霊様である私の力が使えるのよっ!タイカンもうかうかしてると、追い越されちゃうかもよぉ〜。』

『はははは。それは頼もしいなっ。まぁ、明日はミカノにとっては辛い光景になるかもしれないが、知らずに通るより、自ら体験する事が大切だ。力を得るという危うさを知るには好機かもしれない。』

『ええそうね。でも、好機は不謹慎ね。ほんといつまでも馬鹿だね。』

『はははは。エビスの言う通りだ、お前には敵わないよ。』

『ふふふ。』


夜明け前、ミカノを起こし身支度を整える。

『ミカノ、断ってもいいんだぞ。』

『大丈夫。いくよ。サモンさんの仲間を助けるんでしょ。』

『そうだ。私達が、彼等にとっての希望にならないといけない。決して諦めず、必ず連れて帰るんだ。』

『うん。分かった。』

『ミカノ、着いたら【光壁】でみんなを囲みなさい。あなたの【光壁】は、私と同じかそれ以上に固い守りよ。』

『うん。任せて。もう誰も怪我させないから。』

『さぁ行こうか。朱の刀、忘れるなよ。』

ガチャっ。

『うんっ!いつでも大丈夫だよっ!』


夜明け前、石畳から見上げた木々の葉の隙間には、まだ星が見える。門前に到着すると、昨日の馭者と男が立っていた。

馭者が声を掛ける。

『おはようございます。タイカン殿。今日もお供致しますので、宜しくお願いします。』

『ああ。ありがとう。』

もう一人の男。エビスの部下のマダイ。

『おはようございます。タイカン殿、ミカノ殿。海上部隊副長のマダイです。本日の極秘任務、身命を賭して臨ませて頂きます。』

小柄な背格好だが、よく鍛えているのが分かる。

短く切られた髪も清潔感があり、好青年だ。

『マダイさんですね。宜しく頼みます。しかし、命は大事にしてください。マダイさんの役目は、私達と【ラクヨ】で待つサモンさんの部下達をここまで連れ帰る事ですから。』

『承知しました。精一杯務めさせて頂きます。』


私達を乗せた馬車は白白と明け始めた街道を進む。誰もいない城下町も、風情があって良い。


『マダイさん、いいかな?』

『はい。何なりとお申し付けください。』

『そんなに、固くならないで。』

『はっ。申し訳ございません。』

『ははは。徐々に慣れてくださいね。』

『はっ。』

『サモンさんの部下はどの辺りにいるんですか?』

『二番砦と聞いております。』

『二番砦?』

『はっ。【ラクヨ】が寝返った後、幾度か暴徒の襲撃があり、押し込まれたのですが、少しずつ押し戻す度に防壁を立て砦にしております。』

『二番というのは?』

『はっ。三番砦が【ラクヨ】と国境です。そこから大凡2時間程、こちら側に近い場所が二番砦です。』

『という事は、三番は取られてしまったんだね。』

『はっ。その際にムーデがやられたと聞いております。』

『ムーデというのは、片腕を失った?』

『はっ。その通りです。』

『今はどういう状況かは聞いているなかい?』

『はっ。二番砦から応戦するも、剥がしきれないと聞いております。』

『剥がしきれない?』

『はっ。今までならば、幾らか応戦すると諦めて引き下がっていたようですが、今回三番砦を襲った暴徒は諦める事なく向かってくるとの事です。』

『そうですか。暴徒、、、凶暴化したのか、はたまた魔族の類なのか、、、』


ガタガタゴトゴト

『タイカン殿〜。間もなく一番砦に着きます。馬車で行けるんわここまで何ですわ。』

『そうか、ありがとう。ここで降りるよ。』

『そしたら、ここで待ってますんでお気を付けて行ってくだせぇ。』

『ありがとう。もし危険な状況になったら、私達に構わず、城に戻ってくださいね。』

『ははぁ。ありがとうございます。ご武運を。』


馬車を離れ、二番砦へと歩いて進んだ。

穏やかな朝陽に照らされて、身体も温まってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ