タイカンと宴席
鍛治の街【カヤマ】でミカノの刀を手に入れた。馬車に揺られ、城へ戻る道中に、ヒミコは何度も礼を言っていた。
馬車から街行く人々を見ていた。職人の街だからなのか酒屋が多く、皆快活に生きている。鉄が減り、収入も減ったのだろう城下町のような派手さはなかった。
しかし人々は皆、前を向いている。この街の雰囲気は、どこか【シガ】の街を思い出させる。ここにも、希望があるのだ。
ガタガタ、ガタッ。
『タイカン殿、お疲れ様でしたぁ。城へ戻りました。』
いつの間にか、眠っていた。
『あぁ。すまない。今降りるよ。』
馭者に礼を言い、城門から石畳を通り城内へ入る。甲冑の兵士と会釈を交わしながら、「いつもの部屋」へ戻った。
トントントン。
『ヒミコです。ただいま戻りました。』
『入ってやぁ。』
エビスは机に座り、書物をしていた。
『えらい早かったなぁ〜。収穫はあったんか?』
『ああ。十分だ。ヒミコさんのお陰で、すんなりと手に入ったよ。』
『そりゃ良かったなぁ。ヒミコ、お手柄やで』
『ありがとうございます。お茶でも淹れましょうか?』
『戻ったとこ悪いけど、宴の準備を手伝ってほしいんや。何やさっきから、人手が欲しい欲しい言うて、他の侍女が走り回っとんねや。』
『かしこまりました。ではタイカン殿、私はこれで失礼致します。』
『あぁ。今日はありがとう。ヒミコさんのお陰で、ミカノも大喜びだったよ。』
『滅相も無い。私こそ、光栄な事でした。』
ヒミコは部屋を出て、他の侍女の元へ。
カチっ。エビスは、筆を置き私の目の前の椅子に座った。
『タイカン、ほんまに行くんか?』
『ああ。答えは変わらない。』
『向こう側の事は聞いたんか?』
『【ラクヨ】の事は、ほとんど聞けていない。だけど、【サカノオ】については、しっかり聞けたよ。』
『そうかぁ。まぁ、ヒミコとおやっさんに会ったらその話しになるわな。』
『【ラクヨ】でも、凶暴化した住人が?』
『【サカノオ】の話しに比べれば、可愛い奴らやったんやけどな。片腕失った話しを聞く限りやと、そうなんやろう。』
『原因は、分かっているのか?』
『噂話しの域は出えへんけどな、【サカノオ】の薬ちゃうかと皆言うてるわ。俺もそう思っとるし。』
『荒れ地の薬か。』
トントントンっ。
『宴席のご用意が出来ております。宴会場へとお願い致します。』
『はいよぉ〜。』
『精霊様、ミカノくん、行きましょか。』
『ごはんだねっ!やったぁ!!』
宴会場に移動した。大広間には左右に座布団と、小さな机が揃えて並べられていた。正面は少し小上がりになっており、左右の座布団に比べて趣きが違っていた。ぞろぞろと、宴に出席する者達が集まってくる。
陸上部隊隊長サモンと、その部下だろうサモンの後ろにくっついて入ってきた。作戦本部のベンテンは、上長と来たのだろうか、ベンテンの前を歩く者は堂々としていた。
老人の男女入った時には、サモンやベンテン達は皆深々と頭を下げて出迎えていた。
それぞれ座る場所が決まっているのだろう。正面に近い場所を3席空けて皆座った。私達も会釈をしながら、後ろを通り空いた席に座る。頃合いを見ていたのかのように、親方様が入る。皆座ったまま頭を下げた。私達もそれに倣い頭を下げる。
『皆、頭を上げてくれ。』
親方様をきっかけに、皆頭を上げた。
『先に紹介する。こちらのお三方は、【シガ】の島から来られた、、、』
親方様は、私達を皆に紹介した。
島の魔物を殲滅し、角を交易品にと持参した事。岩礁の魔物を私とミカノが倒した事を告げた。
『、、、そして、今から伝える事は、この場だけに留めよ。
サクヤ殿は、島におられる精霊様だ。皆、無礼の無いように頼むぞ。』
精霊と聞いた途端に、ざわついた。
『よいか、この場だけに留めよ。エビス、侍女にも他言せぬよう伝えてあるな?』
『はっ。仰せの通りに。』
『では、宴を始めようか。酒と料理を運ばせろ。』
城の侍女達が、続々と料理や酒を手に入ってくる。目の前の机には、大きな焼き魚や小鉢に入った和え物が数種類並んだ。酒は徳久利に入れられている。
ミカノ以外は酒を注いだ猪口を上げ、親方様の掛け声で乾杯をした。
料理を食べながら、それぞれに談笑をしていた。
老人の男女が、私の元へきた。
『おぉ。精霊様を間近で拝見するのは、何年ぶりかのぉ』
『いやですよ、爺さん。初めてですよぉ。すいませんねぇ。』
『ふふふ。いいんですよ。お気になさらず。サクヤといいます。今日はお招き頂きありがとうございます。』
『おぉ。精霊様が喋っとるのぉ。何年ぶりに聞いたかのぉ〜相変わらず綺麗な声じゃあ〜。』
『いやですよ、爺さん。初めて聞きましたよ。ほんとすいませんねぇ。』
『お名前を伺っても宜しいかしら?』
『おぉ。精霊様、覚えてませんかのぉ〜。』
『いい加減におしっ!くそジジイっ』
『あいたっ。叩く事ないじゃろぉ。婆さんはキツイのお』
『すいませんねぇ。こんな調子で。私らはこの国で祈祷師をしとります、シイカと申します。こっちのジジイは、ジュロウでございます。よしなに。』
『シイカさんに、ジュロウさん。宜しくお願い致します。』
『しかし、精霊様が人族とご結婚されていたとは、驚きですなぁ。余程の方なのでしょう。』
『婆さんや、そりゃそうじゃ。なんせタイカン殿は、島の魔物をお一人で殲滅したんじゃから。そりゃ、こんな可愛いらしいお子もできるわな』
『爺さんは一言多いんだよっ。もうすいませんねぇ。ミカノくんもごめんなさいねぇ。変なの連れて来ちゃって。』
『ううんっ。お爺ちゃん、面白いから好きだよっ』
『ほれ見てみぃ婆さん。分かるもんには、ワシの魅力は伝わっとるんじゃ』
『もういいよ、行きますよ爺さん。タイカン殿、楽しんでくだされ』
『ありがとうございます。、、、、しかし、楽しい二人だったな。』
宴会の途中厠へ立ち廊下にでると、サモンが立っていた。
『タイカン殿、、、』
『サモンさん、お返事遅くなりました。』
『いや、それは構わぬが、、、』
『お受けします。』
『えっ。本当か?!何と申し上げれば良いか、、、』
余程安心したのだろう、巨躯を震わせ瞳は潤んでいた。