表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/218

タイカンと宴席

鍛治の街【カヤマ】でミカノの刀を手に入れた。馬車に揺られ、城へ戻る道中に、ヒミコは何度も礼を言っていた。


馬車から街行く人々を見ていた。職人の街だからなのか酒屋が多く、皆快活に生きている。鉄が減り、収入も減ったのだろう城下町のような派手さはなかった。

しかし人々は皆、前を向いている。この街の雰囲気は、どこか【シガ】の街を思い出させる。ここにも、希望があるのだ。


ガタガタ、ガタッ。

『タイカン殿、お疲れ様でしたぁ。城へ戻りました。』

いつの間にか、眠っていた。

『あぁ。すまない。今降りるよ。』

馭者に礼を言い、城門から石畳を通り城内へ入る。甲冑の兵士と会釈を交わしながら、「いつもの部屋」へ戻った。


トントントン。

『ヒミコです。ただいま戻りました。』 

『入ってやぁ。』

エビスは机に座り、書物をしていた。

『えらい早かったなぁ〜。収穫はあったんか?』

『ああ。十分だ。ヒミコさんのお陰で、すんなりと手に入ったよ。』

『そりゃ良かったなぁ。ヒミコ、お手柄やで』

『ありがとうございます。お茶でも淹れましょうか?』

『戻ったとこ悪いけど、宴の準備を手伝ってほしいんや。何やさっきから、人手が欲しい欲しい言うて、他の侍女が走り回っとんねや。』

『かしこまりました。ではタイカン殿、私はこれで失礼致します。』

『あぁ。今日はありがとう。ヒミコさんのお陰で、ミカノも大喜びだったよ。』

『滅相も無い。私こそ、光栄な事でした。』


ヒミコは部屋を出て、他の侍女の元へ。

カチっ。エビスは、筆を置き私の目の前の椅子に座った。


『タイカン、ほんまに行くんか?』

『ああ。答えは変わらない。』

『向こう側の事は聞いたんか?』

『【ラクヨ】の事は、ほとんど聞けていない。だけど、【サカノオ】については、しっかり聞けたよ。』

『そうかぁ。まぁ、ヒミコとおやっさんに会ったらその話しになるわな。』

『【ラクヨ】でも、凶暴化した住人が?』

『【サカノオ】の話しに比べれば、可愛い奴らやったんやけどな。片腕失った話しを聞く限りやと、そうなんやろう。』

『原因は、分かっているのか?』

『噂話しの域は出えへんけどな、【サカノオ】の薬ちゃうかと皆言うてるわ。俺もそう思っとるし。』

『荒れ地の薬か。』


トントントンっ。

『宴席のご用意が出来ております。宴会場へとお願い致します。』

『はいよぉ〜。』


『精霊様、ミカノくん、行きましょか。』

『ごはんだねっ!やったぁ!!』


宴会場に移動した。大広間には左右に座布団と、小さな机が揃えて並べられていた。正面は少し小上がりになっており、左右の座布団に比べて趣きが違っていた。ぞろぞろと、宴に出席する者達が集まってくる。

陸上部隊隊長サモンと、その部下だろうサモンの後ろにくっついて入ってきた。作戦本部のベンテンは、上長と来たのだろうか、ベンテンの前を歩く者は堂々としていた。

老人の男女入った時には、サモンやベンテン達は皆深々と頭を下げて出迎えていた。

それぞれ座る場所が決まっているのだろう。正面に近い場所を3席空けて皆座った。私達も会釈をしながら、後ろを通り空いた席に座る。頃合いを見ていたのかのように、親方様が入る。皆座ったまま頭を下げた。私達もそれに倣い頭を下げる。


『皆、頭を上げてくれ。』

親方様をきっかけに、皆頭を上げた。

『先に紹介する。こちらのお三方は、【シガ】の島から来られた、、、』

親方様は、私達を皆に紹介した。

島の魔物を殲滅し、角を交易品にと持参した事。岩礁の魔物を私とミカノが倒した事を告げた。

『、、、そして、今から伝える事は、この場だけに留めよ。

サクヤ殿は、島におられる精霊様だ。皆、無礼の無いように頼むぞ。』

精霊と聞いた途端に、ざわついた。

『よいか、この場だけに留めよ。エビス、侍女にも他言せぬよう伝えてあるな?』

『はっ。仰せの通りに。』

『では、宴を始めようか。酒と料理を運ばせろ。』


城の侍女達が、続々と料理や酒を手に入ってくる。目の前の机には、大きな焼き魚や小鉢に入った和え物が数種類並んだ。酒は徳久利に入れられている。

ミカノ以外は酒を注いだ猪口を上げ、親方様の掛け声で乾杯をした。

料理を食べながら、それぞれに談笑をしていた。

老人の男女が、私の元へきた。

『おぉ。精霊様を間近で拝見するのは、何年ぶりかのぉ』

『いやですよ、爺さん。初めてですよぉ。すいませんねぇ。』


『ふふふ。いいんですよ。お気になさらず。サクヤといいます。今日はお招き頂きありがとうございます。』

『おぉ。精霊様が喋っとるのぉ。何年ぶりに聞いたかのぉ〜相変わらず綺麗な声じゃあ〜。』

『いやですよ、爺さん。初めて聞きましたよ。ほんとすいませんねぇ。』

『お名前を伺っても宜しいかしら?』

『おぉ。精霊様、覚えてませんかのぉ〜。』

『いい加減におしっ!くそジジイっ』

『あいたっ。叩く事ないじゃろぉ。婆さんはキツイのお』

『すいませんねぇ。こんな調子で。私らはこの国で祈祷師をしとります、シイカと申します。こっちのジジイは、ジュロウでございます。よしなに。』

『シイカさんに、ジュロウさん。宜しくお願い致します。』

『しかし、精霊様が人族とご結婚されていたとは、驚きですなぁ。余程の方なのでしょう。』

『婆さんや、そりゃそうじゃ。なんせタイカン殿は、島の魔物をお一人で殲滅したんじゃから。そりゃ、こんな可愛いらしいお子もできるわな』

『爺さんは一言多いんだよっ。もうすいませんねぇ。ミカノくんもごめんなさいねぇ。変なの連れて来ちゃって。』

『ううんっ。お爺ちゃん、面白いから好きだよっ』

『ほれ見てみぃ婆さん。分かるもんには、ワシの魅力は伝わっとるんじゃ』

『もういいよ、行きますよ爺さん。タイカン殿、楽しんでくだされ』

『ありがとうございます。、、、、しかし、楽しい二人だったな。』

宴会の途中厠へ立ち廊下にでると、サモンが立っていた。

『タイカン殿、、、』

『サモンさん、お返事遅くなりました。』

『いや、それは構わぬが、、、』

『お受けします。』

『えっ。本当か?!何と申し上げれば良いか、、、』

余程安心したのだろう、巨躯を震わせ瞳は潤んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ