表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/218

タイカンとミカノの剣

馬車は田畑の間を進み、人の往来が増えてきた。馬車の外は人々の話し声で、騒がしくなっていた。


『ヒミコさん、辛い記憶を思い出させてしまい申し訳ありません。』

ヒミコから聞いた【サカノオ】の話しは、想像を絶するものだった。サクヤも声を失っていた。

『いえ。【サカノオ】と仰った時に【ラクヨ】の街の防衛線に行かれると思いましたので、全てをお話ししました。』

『そうでしたか。』

『タイカン殿。今の話しで分かって頂けたと思います。決して近寄りませぬように。お命がいくつあっても、足りなくなってしまいます。』

『心配してくれて、ありがとう。』


ガタガタ、ガタッ。

『タイカン殿ぉ〜、着きましたよぉ〜』

馭者が声を掛けた。

『あぁ。ありがとう。ミカノっ!おいっミカノ、着いたぞ。起きないか!』

『ふぁ〜、、、あれ、寝ちゃってたのか〜』

『坊っちゃん、着きましたよ。ここが、私のとっておきです。さぁ、ゆっくり見てください。』


ヒミコが鍛治屋の扉を開けると、中には白髪の鍛治師がいた。杖をつき腰を曲げて歩く姿と、先程ヒミコから聞いた話しが重なった。

『おぉ〜ヒミコかぁ。よう来たなぁ〜。なんじゃ、お連れさんも一緒かい?』

『ええ、こちらはタイカン様とご家族の方です。』

『よぉ〜来てくださった。ヒミコが世話になってるんかのぉ。足りない事もあるかもしれませんが、堪えてやってください。』

『お父様、私達がお世話になっているんですよ。こちらへ案内して頂いたのも、私達の子供の為にと連れてきて貰った次第です。本当に素晴らしいお嬢様ですよ。』


『いやぁ〜娘の事を褒めてもらえるなんて、こんな嬉しい事はないですなぁ〜。良ければ嫁に如何ですかぃ?』

『こらっ!なんて事言うの!』

『あちゃ、奥様もおいででしたなぁ〜。しもたぁ〜。』


『ふふふ。面白いお父様ですね。』

サクヤに笑顔が戻って安心した。【ラクヨ】で私が戦う事を考えていたのだろう。ヒミコの話しを聞き終えるてから、ほとんど話しをしなくなっていた。


『ヒミコさんっ!あるかな??ねぇ、あるよねっ!』

『うふふっ。坊っちゃん、少し待っていてくださいね。』

ミカノをなだめると、ヒミコは鍛治屋の奥へ行った。


『なんじゃヒミコ、何か目当ての物を決めておるんか?』 

『父さん、昔さぁ私がねだって叩いてくれた刀、残してたわよね?』

『あるにはあるが、それがどないしたぁ?まさか、それか?目当てのもんは?』

『そうよっ。坊っちゃんに見てもらうの。』

『なんじゃぁ〜。刀が欲しいのは子供なんかぁ〜』


『そうだよっ!ぼくの剣を買いに来たんだっ!』

『ほうかぁ、僕の刀かぁ。だけど、あいつの刀はよう切れるぞぉ。危ないんやないか?』

『かたなぁ?ん〜。切れる方がいいよっ!だってぼく、木剣しか持ってないもんっ」

『んんっ。僕も戦っとるんか?」

『そうだよ!この間もね、羽がついたやつを倒したんだよ!今日はそのお金で買いにきたんだ!』

『んんんっ!なんとっ!あの岩礁の魔物を退治したのは、僕だったんかぁ〜!たまげたなぁ〜。』

『えへへっ。でも、ほとんどはタイがやっつけたけどね。』

『いやぁ、たまげた。あの魔物退治の話しは、ここまで噂になっとって聞いとるけど、まさか退治した方々が来られるとはのぉ。たまげたたまげた。』

『父さん、何処に置いたかなぁ?』

『あ〜。どれ、、、おっ、それだ。赤いの。ほれ赤い箱。』

『あっ!あったわ。よいしょっ。』

箱に付いた埃を払い、朱に染まった細長い箱をミカノの前に置いた。多少の傷は付いているが、大切に保管していたのだろう。染められた朱色は鮮やかだった。


『開けていい?』

『勿論ですよ。気に入って貰えると嬉しいですが。』

丁寧に封がされた箱をゆっくりと開封する。上蓋を取ると中には私が使っている剣とは異なる物が現れた。

『はあ、、、』

『坊っちゃん、お気に召しませんか?』

『違うよ。凄いキレイだよ。』

『ミカノ、どうなの?気に入ったの?』

『サク、これ凄いよっ。凄くキレイなの』

『そう、良かったわね。』

『ねぇ、鞘から出してもいいかな?』

『勿論ですよ、坊っちゃん。』

朱色の布で覆われた柄を持ち、朱色で染められた細い鞘からゆっくりと抜いた。細見な刀身は、ミカノの顔が映るほど美しく研がれていた。ミカノも見惚れていた。

『凄い、、、カッコイイ、、、』

そう言いながら指で刀身を触ろうとした。


『これっ!いかんぞっ』

ヒミコの父上が咄嗟に声を上げた。

『あっ、、、ごめんなさい。』

『すまんすまん。僕なぁ、これはなぁ刀と言うてな。』

そう言いながら、ミカノの手から刀を離し、朱色の柄を持ち話した。

『ええか。この反ってる方は触っても大丈夫じゃ。しかしな、こっちの刃先はいかんぞ。すぅっと引いただけで、指が飛んでしまう。この切先も気を付けなさい。』


ヒミコの父上は、丁寧に刀の名称を教えてくれていた。

どうすれば切れるのか、どう抜き、振れば良いのか。保管方法に至るまで、子供相手とは思えぬ程熱心に教えてくれた。


『僕、持ってごらん。』

頷き、再び刀を手にする。柄を持ち刀身を立てた。

『タイ、ぼくこれにする!これがいいっ!』

『あぁ。よく似合っているぞ。』

『坊っちゃん。気に入ってくれて、嬉しいです。』

『ヒミコさん、お幾らだろうか。』

『これは、私からの贈り物として受け取ってください。』

『ダメよ。ちゃんと買うわ。こんなに凄い刀、見た事ないもの。』

サクヤの言う通りだ。


『まいったのぉ〜。娘が貰ってくれ言うとるしなぁ。』


『ねぇ!ぼくが買うっ!自分で買う初めての剣なんだ!お願いっ!』

『坊っちゃん、、、』

『タイ、ぼくが倒した分を貰っていい?』

私は、エビスから受け取った封筒を全て渡した。

『全部使いなさい。』

『うん。ヒミコさん、どうぞ。これで売ってください。』

ヒミコは封筒を受け取ると驚き困っていた。

『坊っちゃん、いけませんっ。このような大金を貰う訳にはいきません。』


『ヒミコや、有り難く受け取りなさい。この子の気持ちを無下にしてはいかん。』

『父さん、でも。』


『ヒミコさん、受け取ってやってくれないか。』

『分かりました。有り難く頂戴いたします。』


ミカノは遂に自分の剣を手に入れた。細見で美しい刀。朱色がよく映える。後で聞いたが、ヒミコの父上は封筒の中身を知って気絶したという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ