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タイカンとミカノと親方様

ぽつりぽつりと雨が落ちてきた。親方様の後ろには、大きな窓。雨粒が当たる音が時折聞こえた。まだ昼を過ぎた頃だが、太陽は隠れ薄暗い。


『精霊様、宜しいですか?」

親方様はサクヤを敬う素振りを見せた。

『はい。どうなさいましたか?』

『交易の件ですが、品によっては断る事もご理解頂けているのでしょうか。』

『私に忖度はしないと、、、ふふ。元よりそのつもりですから、お気になさらないで。』

サクヤは、精霊様という呼び名を変えようとはしなかった。長や私にはサクヤと呼ばせ親近感があったが、やはりまだ疑心暗鬼な部分があるのだろうか。

『親方様、まずは私達がお持ちした【交易品】を見てくださいな。お話はそれから。』

『分かりました。では、早速拝見しましょう。』

サクヤは、荷物の中から一本の角を取り出し机においた。

エビスが預かると、親方様の元へ手渡しに行く。

『ほぉ。これは、、、なんとも、、、素晴らしい。』

『忖度ですか?親方様?』

とぼけた顔で聞くサクヤに、親方様は苦笑い。

『いやいや、忖度も何も。今迄の魔物の角が玩具に思えるようや立派な品ですな。少し、削ってもよろしいかな。』

『ええ。どうぞ。それは、お持ちした中でも小さい方ですし、削ったからと言って買い取れなんて言わないですから、ご安心くださいな。』

親方様は、小刀で角の先を削り内側の状態を見ていた。

『サモン、見てみよ。先の部分でこの詰まり具合。根元となれば、これは凄まじい物が現れるぞ。』

『確かに、、、仰る通りですね。』

『詳しくは、文官に調査させるとして。精霊様、あとは値段と供給量ですね。』

『供給につきましては、ご提案があります。お話ししても良いかしら。』

『勿論です。聞かせてください。』

『本数はお値段次第ですが、納入は季節ごとに一度と限らせてください。』

『年に四度ですか。何か理由がお有りの様ですが。』

『えぇ。これらは島の中でもなかなかに深い場所にありますので、男衆でも往復するにはかなりの労を要します。ですから、島では年に四度だけと決め危険な作業をしてもらう事で、運び出すお約束をしているのです。』

『約束ですか。それは【シガ】の長殿とですか?』

『その通りです。本数につきましても危険な場所での長時間にわたる作業は、人族の負担も大きい為、限らせて頂きますので、予めご理解ください。』


サクヤが話す事全てが初耳だった。何せ、角は全て街の倉庫に運び入れ整理したからだ。いつでも、何本でも運び出せる。


『そうですか。ならば、こちらの者を使って頂く事も検討頂いてはどうでしょうか。』

『そうですねぇ、、、。有り難いお申し出ですが、やはり難しいかと。』

『難しいですか?手間賃等は無しに引き受けますが、それでも難しいでしょうか。』


『私達の島は、やっと魔物から開放され、少しずつではありますが復興を重ねた事で自信を取り戻している最中。

その中で、急に他国の方々に彼等の仕事が奪われていく事に対して、良い顔をする者はいないでしょう。彼等は宝を発見して裕福になりたいのではないのです。彼等は自らの力で島の未来を切り開いていきたいのです。』


『なるほど、、、思慮が足りませんでした。そうですな。確かにその通りやもしれない。では、年に四度季節ごとに。』

『ご理解頂けて何よりですわ。タイカン、長の手紙を親方様にお渡ししてもらえるかしら。』


再出発の時に長から預かった書簡をまだ見せていなかった。最初の書簡と交換し、新たな物になっていた。

『そうだな。失念していた。』『親方様こちらをどうぞ。長のヤスより預かったきました。お読みください。』


懐から長の書簡を取りだし、親方様にお渡しした。

親方様は、エビスと同じように封筒をまじまじと見てから開封した。封筒の中には数枚の手紙が入っていた。親方様は、頷きながら読み進めた。

『、、、確かに受取った。うむ、精霊様がお話しされた事と同じような事が書いてありますね。民の幸福を願うのは、ワシとて同じです。精霊様と島の長からの願いだ。これは応えねばならないな。』


私は内心驚いていた。サクヤは、どこまで先を見ていたのか。交渉の条件を事前に長と調整し、手紙も準備していた。流石というのを通り越し、驚愕だった。


『では、親方様、、、』

『精霊様、ワシの事は親方ではなく、【ホテイ】と呼んでください。』

『そうですか。では、ホテイさん。肝心のお値段をお願いできますか?』

『はい。文官に預けた後にはなりますが、駆け引き無しで精一杯の価格を出すよう申し送りしますので、ご安心ください。』

『あら?忖度かしら?』

とぼけた顔で聞くサクヤ。

『いやいや、違いますよ。上等な品に相応の価値で応えるのは当然。そういう意味で、駆け引き無しと申したまでです。ワシらもしっかり儲けなければ、続きませんので。』

『ふふふ。では、残りの角もお預けしますわね。』


不穏な空気が包み込み始まった交渉は、サクヤの機転と長の書簡により無事に終える事ができた。

私は何もしてはいないが、着物の内側は汗だくになっていた。戦場の方が幾分かマシと思うが、これもまた戦なのだろう。であれば、【シガ】の勝ちである。

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