タイカンと秘密
『その女子供からは、人ならざる物を感じるのは確かです。』目を見開き、サモンはサクヤとミカノを睨んでいた。
精霊と混血の子供。私は、自分の思慮が足りていなかった事を今更ながらに悔いた。ヤス様に受け入れて貰えた事で、どこでも受け入れられるのだろうと楽観視してしまった。サモンが嫌悪の目を向けるように、同族では無い事を許容できない者がいても不思議ではない。このような場に来るべきでは無かった。
サモンが言い放ち、二人に睨みを効かせている。沈黙の中、何か言わねばと思えば思うほどこの数秒の間が、余計に言葉を失わせた。
『えっ?サクが、精霊ってわかるんだ!』
『でも、ぼくは、なんだろう??』
沈黙を突き破ったのは、ミカノだった。
サモンは眉間に皺を寄せ、更に睨みを効かせた。
『うふふ。サモンさんにはお見通しだったのね。ごめんなさい。隠すつもりは無かったんですけど、あくまでも【シガ】の人間として見てもらえた方が、交易をするのにはいいと思いましてね。エビスさんも、隠していてごめなさい。』
サクヤも続いた。
『くっくっくっ、、、ぶはははは〜』
親方様の笑い声が空気を完全に壊した。
『ははは〜。あ〜面白いのぉ。』
サモンもエビスも黙して座したまま、親方様を見ていた。
『サモンよ。お前は精霊様を魔物の類と疑うか。』
『それは、この小童の言う事で、、、』
『サモン、ワシはここにいる誰よりも子供の言う事を信じるぞ。この子は、何の打算も策略も無いではないか。』
『。。。。。』
『何も言い返せぬか。』
『親方様、その辺りで。隠していた私が間違っていましたわ。申し訳ございません。サモンさんも本当にごめんなさいね。他意はなかったの。』
『サクヤ、、、いや精霊様。こちらこそ部下の不始末、誠に申し訳ございません。精霊様、サモンはワシを守る一心であのような事を申してしまった。行き過ぎた物言いになってしまいました。』
親方様は座り直し頭を下げた。サモンもエビスも状況に戸惑いを感じたようだが、続けて頭を下げた。
『おやめください。私は【シガ】の交易にと、タイカンについて来ただけですので。頭をお上げください。』
『寛大なお言葉、感謝申し上げます。』
親方様は頭を上げた。続けて二人も頭を上げる。
『精霊様、失礼を承知で一つ宜しいでしょうか。』
『ええ。どうぞ。』
『サモンは実直すぎる程で、嘘を付く者ではないとワシは信じております。現に、貴方様はご自身を人ではなく精霊様だと言われた。しからば、そのお子さんは?』
サクヤはスッと下を見て、ゆっくりと顔を上げた。
親方様の目を見て、話しをした。
『ミカノは、私が山の中で育てた人族の子供です。私の力を産湯に浸かるかのように接してきた事で、人族とは思えない力を与えてしまったのかもしれませんね。この子は、私と同じ精霊の力を使えますから。』
『ほう。そのような事があるのですか?』
『私にも分かりません。しかし、そちらのサモンさんが言うならばそうとしか思えませんもの。』
『何か証はあるのでしょうか?』
『人族であることの証は難しいですが、精霊の力はお見せできますよ。ミカノ、自分の身体に膜を張って見せてあげなさい。』
ミカノはサクヤの言葉の通りにした。目を閉じ、光の膜を頭から順に足先まで包み込んだ。
『おぉ〜。これは、まさしく。いや、十分でございます。このような神聖な力、魔物では到底無理でしょう。』
『ミカノ、もういいわ。ありがとう。』
『うんっ!ぼくって、もしかしてすごいんじゃない??』
『そうよ。ミカノは特別な子。私とタイカンの大切な、特別な子よ。』
『改めてお詫び申し上げます。ミカノも赦しておくれ。』
『はいっ!大丈夫です!』
『サモンよ、気は晴れたか。』
『はっ。』
そう言うと、椅子から立ち上がり姿勢を正した。
『タイカン殿、精霊様、ミカノ殿。ご無礼いたした。お詫びのしようもない。如何なる処分も受けますので、何卒お赦しください。』
深々と頭を下げたサモン。
『タイカン、ほらちゃんと答えて。』
サクヤに促され答えた。
『頭を上げてください。サクヤが話した通り、私達は交易のお話をさせて頂きたく参った次第です。全て水に流しましょう。』
『はっ。有難きお言葉、感謝申し上げます。』
サモンはそう言うと、座り直した。
『いやぁ、エビスよ。お前の友はワシの想像をゆうに越えてくるのぉ〜。お前は幸せもんだなぁ。』
『ははは、、、。そうですね。』
サクヤのおかげで、ミカノの出自は伏せる事ができた。
私はその安堵から、親方様は精霊と出会えた事、ミカノは特別な子とサクヤに言われた事で満足気な笑顔を浮かべていた。何はともあれ、切り抜ける事ができた。