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タイカンとエビスの仲間たち

城下町に入るには、唯一の関所を通る。屈強な兵士と勤勉そうな中年の男達が二人一組で、関所を通る者達を確認している。エビスから、出入りする為に書面が発行されていると説明を受けた。私達は、エビスが一言二言男達に話しをするだけで、すっと通れた。船長というのは、なかなかの上役なのだろう。


城下町の雰囲気は、港町とは違う喧騒だった。

通りには、露店で物売りをする者がならび、何かの演芸を披露しているの者がいるのか、あちこちに人だかりがいくつも出来ている。

店を構える商店では、軒先に出ている売り子が呼び込みをしていた。

関所から城下町を抜けると、親方様の城。

城の門前で馬車を降りた。ここからは、歩いて城門の中へ。町の喧騒はどこへやら、緑豊かな庭園が石畳を挟んでいた。蛇のようにくねくねと曲がる道を抜けると、大きな扉が見える。道中では数人の甲冑姿の者とすれ違った。皆一様に、エビスを見掛けると姿勢を正し会釈をしていた。


扉の前で、エビスに声を掛ける者がいた。

『お〜エビスやないか。久しぶりやなぁ~』

先程までの兵士と違い気さくな声だった。エビスは、振り返り挨拶を交わす。

『よぉ。ベンテンやないか!久しぶりやなぁ。元気にしとったか?』

『いやぁ、あかんわぁ。慣れへん書類仕事に四苦八苦や。』

『そうかぁ、お前はこっちに来たんやったなぁ。』

『エビスは相変わらず、海の上か?』

『そりゃそうやがな。陸にいるほうがしんどいわ。』

『ははは。お前らしいのぉ。ほいで、そちらが噂の?』

『おぉ、聞いとるか?そや、タイカン様御一行や。ひかえおろおぉ〜』

『ははぁ〜ってなんでやねん!』

軽快に会話をする二人は、私達をほったらかしにして笑っていた。

『すまんすまん。タイカン、こいつは俺の同期でな。今はこの城の中の作戦本部で、働いとるんや。』

『ベンテン言います。お噂は聞いてます。お会いできて、光栄ですわ。』

ベンテンはそう言うと会釈をした。自己紹介を終えて、城内へ向かおうとした。

『そやそや、ベンテン。あのおっさんは、来てるんか?』

『おっさん?。。。あぁお前の天敵かぁ。今日は見てへんでぇ。聞いとこか?』

『いや、来てへんねやったらええわ。ほな、またな。』

『おぅまたな。タイカンさん達もまた今度。』

今度こそ城内へ入った。中にいた兵士にエビスが声を掛ける。

『海上部隊のエビスや。いつもの部屋空いてるか聞いてくれへんか?』

『はっ!エビス様、少々お待ち下さい!!』姿勢を正し、走り去っていった。

数分後、戻った兵士に「いつもの部屋」まで案内をしてもらう。


『ふぅ。馬車に乗ってだけやけど、なんや疲れるなぁ。』

『まぁ、私達は気疲れがあるかな。いや、ミカノは元気だな。ははは。サクヤは大丈夫か?』

『ええ。珍しい景色を見てたら、あっという間に着いちゃったし。』


廊下を歩いていると、後ろから声がした。


『おいっ!!小僧っ!!』

先程会ったベンテンや、他の兵士とは違い野太い声が廊下に響いた。

『チッ。おるやんけ。』

舌打ちしたエビスがゆっくり振り返った。

私達も声のする方へ向いた。

『うわぁっ!』

ミカノが主の姿に驚いた。無理もない。背丈は、私の遥か上。首が痛くなるほどの巨躯だった。竹のような華奢な身体ではなく、筋骨隆々とはこの事かと思うほど鍛えられている。剃髪した頭に眼光鋭く、蓄えた髭も威圧感がある。

『お久しぶりで。』

『ふんっ。元気そうだなぁ』

『ええ。おかげさんで。誰かさんからのイビリも無くなって、気ままにさせてもろてますわ。』

口元の笑みとは対象的に、エビスの目は笑ってなかった。

『ふんっ。生意気な小僧め。性根は腐ったままか。』

『はいはい。そうでんなぁ。腐った筋肉達磨と一緒におったからか、なかなか治りませんわ。』

『ふんっ。』

険悪な雰囲気。ミカノは相変わらずたじろいでいた。

『ふんっ。そこの者。貴様がタイカンとやらか。』

『ええ、そうです。』

『島から来たのは本当か?』

『ええ。』

『そっちの二人は家族か?』

『はい。そうです。サクヤとミカノと言います。』

『ふんっ。』

沈黙が続いた。

『あの、貴方のお名前を伺っても?』

『ふんっ。サモンだ。』

『では、サモンさん。私達は、約束がありますので。この辺で。』

私はこの空気が居たたまれず、無理やり話しを終わらせた。

『ほな、そういう事で。あんまり客人を困らせんでくださいや。サモンさん。』

『ふんっ。』


私達は、立ち止まった歩を進めた。

『タイカンっ!』

せっかく歩き出した途端に、野太い声が再び聞こえた。

振り返り返事をした。

『はい。』

『ふんっ!その口先だけの小僧には気を付けるがいいっ』

何を気を付けるのか、さっぱりと検討もつかず返事に困っていると、エビスが答えた。

『ったく。やかましぃのぉ。ほら、行こう。あのおっさんの事は無視してくれて結構や。』

巨躯のサモンに会釈だけして、歩を進めた。

エビスは、ブツブツと文句を言っていた。

『筋肉達磨がっ!いつまで生きとんねん。』

エビスとサモンに何があるのかは知る由もないが、とてつもなく仲違いしているのは十分に伝わっている。


そうこうしている内に、案内された部屋に着いた。

『こちらでございます!』

入口から案内してくれていた兵士に会釈をし、私達は部屋の中にはいった。

『さっきは、すまんかったなぁ。しょーもないもん見せてしもた。サクヤさんも、ミカノくんも堪忍やで。』

『いえいえ。お気になさらず。あんな大きな人、初めて見たし、驚いちゃったわ。』

『ぼ、ぼくも、も、もう大丈夫だよ。』


『ほな、タイカン。俺は到着した事話してくるし、ここで少し待っててくれや。また呼びにくるわ』

エビスは、そう言い残すと部屋を出た。


私達は、エビスが戻る迄の間に、持参した角を袋から出して再確認した。ヒビが入ってはないか。どこか折れてやしないかと、商談の支障になるようなものがないか、入念に確認をしていた。このような瞬間が、余計に緊張を増幅させた。

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