タイカンと街の長
日没を迎え、あたりは薄暗く夜を迎えようとしていた。
屋敷の灯りが窓の外を照らす。
『いやぁ本当に無事に戻ってくれて、嬉しいよ。』
皆を送り出し、そう言いながら振り返る。
『。。。もう少し呑むかな。タイカンもどうだ?』
酒を傾けながら、ヤス様は笑った。
『あの。。。』
私は酒を持つヤス様をじっと見る。しかし、言葉が出てこない。
ムソウから託された幼子。【シガ】を滅茶苦茶にしたオニの子を、殺さずにいる。
『。。。。。。』
私の沈黙を包み込むような優しい声
『タイカン。何かを背負わせたのら、それは我々【シガ】の皆も共に背負う事だ。何かを選択したのなら、それは我々も選択したという事だ。お前に託し、お前に賭けた。全ての結末を共にしようと決めたんだよ。』
『私は。。。』
声が漏れるが、続かない。
『言えない事があるなら、無理しないで良い。』
『。。いや。。。』
『タイカン。お前は、オニの脅威から私達を開放し、このような幸福を味わえるようにしてくれた。窓の外を見てごらん』
『。。。。』
日が落ちた街中には、幸福感に満ちた泣き笑いの人々。
『タイカン。あのような顔は、何年ぶりだろうなぁ。いや、初めて心から笑っている奴もいるかなぁ。全部お前のおかげだよ。本当に感謝しているんだ。』
『。。。。ヤス様。。。』
私は覚悟を決めた。酒を呑む手を止めて向き合う二人。
『ヤス様、私はムソウから幼子を託されました。』
長はジッと私の目を見ていた。
嘘は付かず、忌み子である事、殺せなかった事、【ミカノ山】で育てようとしている事、オニであれば私の手で始末をつける事を淡々と話した。
長は、その間も何も言わず、ただただ頷き聞いてくれていた。
『タイカン、この【シガ】の皆はオニに対して良い感情など微塵も持っていない。それは、私も一緒だ』
『。。。。はい。』
重い空気に目を伏せた。
『憎い、許せない。この感情が連綿と続いていく生活を送るのか。。。
いや、そうではない。今年産まれた子、未来の子共達に、起こった悲劇を知識として授ける事は大切だ。しかし、我々の憎しみまで授けるのは違うのではないか。
この悲劇の中で育ったもの、悲劇を目の当たりにした者にとっては到底受け入れられない事かもしれないが、今を以てそれらは過去であり、未来ではない。
お前が、未来を切り開いてくれたんだよ。
私にとっても、全てを受け入れるのは難しいかもしれない。でも、お前がいる。未来がある。その未来に何を残し何を伝えていくかを考える事ができる。それもまた幸せな事だよ。』
『。。。。』
何も言えなかった。
『タイカン。今度は一緒に帰ってきなさい。まずは、私が受け入れよう。』
長はそう言いながら優しく笑った。
それ以上何も言わず私の肩をゆっくり叩いた。
『ありがとうございます。』