タイカンと会いたい人
初めて魔物を倒した報酬に、思わぬ値が付いた。
ミカノの剣も買えそうで安心したが、肝心の角の話しを進めなければ。
『そうだ。エビス、角を持ってきたから見て貰えるか?』
『おぉ〜そうや。勿論、それが本題やからな。』
『サクヤ、出してくれるか』
ゴソゴソとサクヤは復路から一本取り出し、エビスに渡した。
『ほぉ~。』
エビスは首を上下に揺らしながら、じっくり見ていた。
『。。。どうかしら?売り物になるかしら?』
サクヤもエビスの反応が気になっていた。
『サクヤさん。』
唾が飲み込んだ。
『控え目に言うて、、、最高やっ』
くちゃくちゃな笑顔で出た答えは、私達を喜ばせた。
『そうかっ!よしっ!よしっ!』
私は、【シガ】の街に希望を持って帰れる事が素直に嬉しかった。サクヤと手を取り合い喜んだ。
『ハハハ。そない喜ばれると、こっちが照れるわ』
『では、早速これを街に売りに行こう。』
『そうね。大きな商店でもあればいいわね』
『ちょっ待ちぃや。慌てなさんな。』
私達が街に行こうとソワソワしていると、エビスがそれを止めた。
『なんだ?もしかして、何か問題があるのか?』
先程の喜びから一転、不安な空気が流れる。
『ちゃうよ。その逆やっ。とりあえず、ここで話ししてても埒があかんから、移動するで。』
『えっ?移動?』
『エビスさん?何があるのか教えてくださいよ。』
『わかってる。ちゃんと話すから、まずは着替えてくれ。そっからや。』
『着替える?今からか?』
『そうや。ちゃんと三人分用意してるから。ほな、行くで』
訳を聞く間もなく、円卓の部屋を出て、隣の部屋を案内された。部屋の中は衝立てで区切られ、3つに分かれていた。それぞれに衣装を持つ女が立っていた。
『ほな、頼むで。俺も準備してくるから、ちょい早目に仕上げてくれな。』
衣装を持つ三人へ声を掛けると、エビスは慌ただしく部屋を出た。私達は何がなにやら分からないまま、とりあえず言われた通りに着替える事にした。
『タイ〜見てぇ〜』
最初に着替えを終えたミカノが見せにきた。小さな身体を包む綺麗な空色の布。凛々しく思えた。
『あっ。タイのもカッコイイねぇ』
私には、黒で統一されたものが用意されていた。普段から着ていた服や防具とは違い、布を羽織り腰のあたりを別の布で締め付ける。背筋が伸びるような感じがした。
『どうかしら?』
最後に着替えを終えたサクヤが出てきた。
『。。。。』
『なに?似合ってないの?変なのね?もう、嫌だぁ』
そうでは無かった。余りにも美しく、見惚れてしまっていた。
『サクぅ〜、可愛いよぉ!凄く似合ってる!綺麗だよっ!ねぇタイもそう思うよねっ』
きらきらの瞳でサクヤを見て、素直にそう言えるミカノが羨ましく思えた。
『あぁ。すまない驚いて声が出なかっただけだよ。本当に、良く似合っているよ。』
『そう?二人がそう言うならいいけど。』
サクヤは、ゆっくり一回転して照れていた。桜色がよく似合っている。
『終わったかぁ〜]
部屋の外から、エビスが声を掛けた。
『あぁ。とりあえず着替えたぞ。』
『おっ、よお似合ってるわ。ほな、行くで。悪いけど少し急いでくれるか。話は、馬車に乗ってからや。』
『何かしらね?もしかして、買い取ってくれる人を探してくれて、そこに行くのかしら?』
『そうかもしれないな。まっ、行ってみようか。』
三人はエビスに言われるまま、後を付いて船を降りた。
これが初めての上陸になった。港は往来する人と物で溢れ、活況だった。そこかしこで馬が荷を引き、港を出入りしている。私達が乗った馬車は、荷台に部屋が付いていて中は、四人で座っても広々としていた。ミカノは、エビスの隣にちょこんと座り、対面に私とサクヤが座る。足を伸ばしても窮屈にならない程だった。
『ふぅ。慌てさして、すまんかったなぁ〜』
馬車が動き出した。
『いいけど。一体どうしたんだ?そろそろ話しを聞かせてくれないか。』
『せやな。さっき漁師の親父の話しをしたやろ。実はそれを聞いてすぐ、ある所に使いを出したんや。』
『使い?』
『そうや。お前らの事を紹介しよう思てな。あの島から小舟でやってきて、俺が頼んだ魔物もあっという間に退治した。それに、めちゃくちゃ良い品物持って戻ってくる言うてな。』
『そうなのか。』
『そしたらや、その日の内にな、出した使いが慌てて帰ってきよって。お前らが戻ったら、速攻でここへ来いっ言うてますって使いが息を切らしてんねんや。』
『もしかして、何か気に触ったのか?』
『ちゃうちゃう。逆や。お前らにめちゃくちゃ会いたいっちゅうこっちゃ。俺も思ってた以上の反応やったから驚きやで。そっから朝はあの親父、昼間は向こうからの使いのもんが代わる代わる、タイカンはまだかぁ〜タイカンはまだかぁ〜言うて、うるさいうるさい。ほんまえらい目に合ったわ。』
『そうなのか。。なんか、すまなかったな。』
『ハハハっ。謝らんでええって。俺もお前らが認められて喜んでんねや。』
馬の足音と荷台の車輪の音がガタゴトと鳴っている。
『ねぇ、エビスさん。その会いたいって言ってくれてる人って誰なの?そろそろ教えてくれない?』
そう聞かれたエビスは、ニヤっと笑った。
『今から行くのはな、俺等の親方様のとこや。』
『親方様?それって凄く偉い人のように聞こえるわね。』
『サクヤさん。御名答や。今から行くのは、【ケーハン】のてっぺん。この国の国王や。』
『こ、国王に会いに行くの!?』
サクヤが驚く横で、私も目を丸くした。
私達の反応が面白いのか、エビスは顔をくちゃくちゃにして笑っていた。