タイカンと魔物のお金
船を走らせ、エビスの待つ大型船に到着した。
曇り空で風が出ていたが、航海に支障はなかった。横付けした私達の船に、甲冑を着た人が声を掛ける。
『船は停めておきますので、こちらからどうぞ。お荷物は、こちらの籠にお入れくださいっ』
縄梯子とは別に、縄に括られた網籠が3つ程降りてきた。
『ありがとう。エビスはいるかい?』
『はいっ!円卓の部屋で、首を長くしてお待ちです!』
皮の布で包んだ魔物の羽と、交易品の角、エビスへの土産等を網籠に入れ、私達は縄梯子で船上へと登った。
『風が出てきたようだが、私達の船は小さいし大丈夫だろうか?』
先程声を掛けてくれた人に尋ねた。
『そうですねぇ。もう少し波が高くなるようなら、【ナーラン】の停留所に移動しておきますね。』
『すまないが、宜しく頼む。島の大切な船なんだ。』
『はいっ!かしこまりましたっ!!』
姿勢を正し頼もしい返事をくれたが、急だったので驚いた。
『あ、あぁ。そんなに畏まられると困るけれど。』
早速荷物を持ってエビスの元へ。
部屋の前には甲冑姿の者がいて、私達を通してくれた。
私達が挨拶をする前に、エビスが話し始めた。
『おぉ〜!タイカン!流石やなぁ。見込んだ通りやで。あっという間に魔物退治してくれて、ほんまに助かったわ。ありがとうなぁ。』
皮の布にくるまれた羽を見せる前だった。
『えっ?何で知っているんだ??』
私達は不思議で仕方無かった。
『いやな、お前らが出た次の日にやなぁ。。。。』
出発翌朝、俺の船に横付けする漁船が現れた。
[エビス様ぁ〜エビス様ぁ〜]
漁船から大きな声で俺の名前を呼ぶ声がしていた。
丁度甲板で部下と話しをしている最中だった。
[なんや?騒がしいなぁ]
下を覗き込むと、漁師が手を振っている。
[なんやなぁー?なんかあったんかぁー?]
[エビス様ぁ〜!一言お礼をー]
[なんやてぇ?よう聞こえへんわ!][とりあえず、ここに上げてやれ]
部下に指示をし、縄梯子を降ろした途端に
バタバタバタっと急ぎ登ってきた。
[はぁはぁはぁ。。。]
[おいおい、どないしたんやぁ?落ち着けや。]
背中を擦りながら聞いた。
[いやぁ〜、流石エビス様ですわぁ。ほんまにありがとうございますぅ]
[??なんの事や?何があったんや?]
[ご謙遜を〜。もうね昨日の夕方からねぇパッタリと魔物がおらんくなっとんたんですわ。ほれで、おかしぃなぁ言うてあの岩礁に行ってみたんですわ。ほら怖かったですよ。どっか隠れとるかもしれへんかったんで。]
[おう。それで?]
[もう全部私に言わせてやらしぃわぁ。ほんでですね、岩礁に近づいたら、もうあれですわ。]
[なんやねん]
[羽をバッサリ切られたあいつらが倒れてるやないですか。あぁ〜これは、エビス様がやってくれたんやと。流石やなと。こんな私らみたいな漁師の為にも力を貸してくれはったんやと知ったら、すぐにでもお礼を言わなと思っとったんですが、家のかかぁに遅い時間は失礼や言われましてな。ほんで、朝一番に寄せてもろた次第ですわぁ〜。もう、全部私に言わしてぇ、ほんまやらしいお人やで。]
[おぉ〜!そうかそうか。あいつら早速やってくれたんやなぁ。そうかぁ、そりゃ良かったのぉ〜]
[え?あいつら?ってなんですの?]
[丁度ええわ。今回魔物を退治したんは、タイカンっちゅう俺の仲間や。そやから、お礼はそいつが帰ってきたら直接言うたってくれや。]
[えっ!そうやったんですか!いやはや、エビス様も大概やけど、そのタイカン様っちゅうのもお強いんですねぇ]
[あぁそうや、俺以上かも知れへんで]
[またまたぁ]
『っちゅう事があってな。もう次の日には、知っとんたんや。あれから毎朝来とるで、あの親父。タイカン様はまだですかぁ言うて。』
『そんな事があったんだな。そうかぁ。では、羽は不要だったかな。』
『いやいや、それはちゃんと受け取らせて貰うから安心してくれ。』
エビスはそう言いながら、封筒を取り出し私達に渡した。
『そないに多くないけど、魔物退治の依頼料や。受け取ってくれ。』
『あ、あぁ。ありがとう。有り難く頂くよ。』
『そや、羽見せてくれるか?』
『勿論。これがそうだ。』
皮の布を円卓に広げた。
『おぉ〜綺麗に取ってくれたんやなぁ〜』
『これで良かったのか?』
『勿論やで、ほなこれはこれは素材として買取りさせて貰おうか思うねんけど、ええか?』
『えっ?買取り?』
『なんや、これ持って帰るんか?使い道があるんなら、タイカンが使ってくれてもええけどな。』
『いや、持っては帰らないが。使い道も分からないし。』
『ほな、決定や。こんだけ綺麗で上等な魔物の羽は、何年かに一度見れるかどうかやで。大体は穴があいとったり、中途半端な長さやったりやからなぁ。』
エビスはそう言いながら、先程の封筒と同じ大きさの封筒を3束用意し、私に渡してきた。
私は積み上げられた封筒に戸惑ってしまった。
『エビスさん。ちょっと、聞いていいかしら?』
『サクヤさん、よう戻ってくれたなぁ。何でも聞いてや?どないしたんや?』
『この封筒一つで、どれくらいここで暮らせますか?』
『あぁ〜そやなぁ。それぞれやろうけどぉ。まぁ10日ぐらいは毎晩旨い酒が呑めるんちゃうかな。』
『10日も!』
『あぁそうやで。そやから、全部で一ヶ月は何も気にせんと遊び倒せるんちゃうかな』
それを聞いて堪らず割って入った。
『エビスっ。それは貰い過ぎだ。そんなに良くしてもらっては、申し訳なさすぎる。』
『ちゃうちゃう。違うでっ。気を使ってとか、お前らやからって言う訳やないで。ちゃんと相場もあるし、依頼料は元々漁師から預かってたものをそのまま渡しただけや。嘘やないで。』
『本当か?本当に、相場に合ったものなのか?』
『そうや言うてるやん。ほんまに、お前は真面目や』
『ねぇ〜、タイ。ぼくの剣買える?』
ミカノは私を見上げ不安気にしていた。
『なんや。ミカノくんは、剣が欲しいんか?』
『うん!いまは木剣だから、羽のお金で買ってもらうんだ!』
『そうかぁ。そりゃ良かったなぁ〜。ほな、ええ店紹介したるから、タイカンとサクヤさんに連れて行ってもらい。ちょっと安くするように頼んどいたるから。』
『ほんとにぃ〜、ありがとう!エビスさんっ』
私は、喜ぶミカノの横でエビスに耳打ちした。
『おぃ。エビス、貰ったお金で足りるのか?』
『大丈夫や。大人の剣を二、三本買っても釣りがくるわ。』
不意に大金を手にした私とサクヤは驚き戸惑っていたが、ミカノのはしゃぐ姿を見ている内に、有り難く使わせて貰おうと決心した。