タイカンと収集
初めて倒した魔物の羽と、大陸近くまで辿り着き、交易も上手くいくかもしれないという土産話を詰め込んた船は、【シガ】の街近くの岸辺に近づいていた。
岸辺で、漁終えて片付けている漁師が私達に気が付いた。
『あれ?ん?あぁ~タイカンっ!!タイカンが帰って来たぞぉ〜』
『なにぃ!まだ五日しか経っとらんぞぉ。ダメだったんじゃないか!?』
ざわついている岸辺に降り立った。
『ただいま。すぐにまた戻るから、船の荷はそのままで置いておいてくれますか。』
漁師に声を掛けて街へ向い歩いた。
後ろからは、ひそひそと漁師達が話していた。
『おい。また戻るって言っていたぞ。』
『どういうことだ?食べ物が足りないとかか?』
色々な思いがあることはわかっていたが、今は何より長に朗報を届けたい気持ちが勝っていた。
街に入り一目散に長の屋敷へ。扉を叩く時間も惜しくなり、いきなり扉を開けてしまった。バンッ。
『うわぁっ!なんだっ!』
屋敷の奥から、驚いた様子の長が顔を出した。
『長っ!戻りました!』
『タ、タイカンっ!サクヤもミカノも!』
『かえってきたよぉ〜』
『そうか。そうか。まぁ座りなさい。お茶でも淹れよう。』
『あのっ。。。』
サクヤが長に話しかけようとしたが
『まぁ、まぁ。話しはお茶を淹れてからな。』
長は私達には笑顔を向けているが、少し落胆しているように思えた。
『ねぇタイカン。長ったら、絶対勘違いしてるわよ。』
『うん。そうだろうな。。。』
お茶が入り長が話し始めた。
『そうだなぁ。まぁ。うん。無理を言ってすまなかった。うん。無事に帰ってきてくれたんだ。何よりだ。うん。』
長は自分自身を納得させようとしているのか、噛み締めながら話していた。
『いや。あの』
私が話そうとした時、見かねたミカノが割って入る。
『なんで暗い顔してるのぉ!ぼくたち、海の向こうでエビスさんと会って、魔物も退治して、角を持っていくんだよ!』
『えええええっ!!!』
長は飛び上がり、目玉が飛び出そうなほど見開いていた。
それから、落ち着きを取り戻した長に経緯を伝えた。
『そうかぁ。そうだったんだなぁ。いやぁ早とちりだったな。情けない。すまんかったなぁ、ミカノ。』
『もういいよぉ〜。そんなことより、角を取りに行かなくちゃっ』
『あいつらの角にそんな価値があるとは、何とも皮肉な事だな。』
『確かにそうかもしれませんね。』
『長、胸を張りましょうよ。後ろめたい事はないはずですよ。【オニ】の角で潤う事は、本意ではないかもしれませんが、それでもこの島の子供たちを未来に繋いでいく為には必要な事です。大丈夫ですよ。山の神である私が、それを良しとしているんです。さぁ胸を張りましょうっ。』
『サクヤさん。ありがとう。ありがとうございます。そうですね。仰るとおりだ。』
『ミカノ、すまないが街でエビスに持っていけそうな土産を手に入れてくれないか?』
『えぇ〜ぼくも角取りに行きたいよぉ〜』
私とミカノのやり取りを見ていた長が言う。
『ミカノ、一緒に選んでくれないかなぁ?エビスさんという人には、街で一番の土産を持っていってほしいんだよ。』
『ぶぅ〜。わかったよ。』
『では、私とサクヤは行きます。長、宜しくお願いします。』
ミカノには、出生の事は伝えていない。
【ミカノ山】に籠もって以来、オニを殲滅した場所には私を含め誰も入っていない。
ミカノは知らないとはいえ、自分の片親の仲間だった者達の骸を見ては欲しく無かった。それに、私が殺した者の中に、ミカノの親がいるかもと考えると。。。
どんっ。
私が物思いに耽っていると、サクヤが背を叩いた。
『ほら、しっかりしてっ!さぁ刈り取りに行くよっ』
『。。おぉっ。行こうっ』
半日程歩いた先にある戦場に入った。
【オニ】達に以前の面影はなく、骨だけが散乱していた。
獣すら立ち入った様子もなく、骨以外はあの時のままだった。エビスから借りたハサミを使って頭蓋骨から角だけを刈り取った。このハサミの刃も魔物の物だそう。爪が発達している魔物がいるという。それを加工したと言っていたが、なるほどよく切れる。
サクヤも切れ味に味をしめたのか、サクサクと刈り取っていた。気付けば、角の山が私達の背丈を超えていた。
パチンっ。
『ふぅ。これで最後ねっ』
最後の一本を刈り取って満足気に笑うサクヤだった。
『それじゃ、積めるだけ積んで持っていくか』
『。。。。。』
『どうした?さぁ行こう』
『はぁーーーーー』
大きな溜息が私の前を通り過ぎた。
『なんだよ?』
『ほんと馬鹿だわ。久しぶりに言うわ。ほんと馬鹿。』
『なっ。どういう事だよっ!これで、街は潤うって言ってたじゃないかっ』
サクヤは変わらず呆れた顔で私を見ている。
『いい。向こうではこれより小さい角10本で、一ヶ月は余裕で暮らせるって言ってたよね。』
『あぁ。だからこの大きさのものを兎に角、沢山運べはいいじゃないか。』
『馬鹿だわ。』
『。。。!!』
顔を赤くする私を無視して話しを続けた。
『もうここには、【オニ】はいないのよ。今は多く見えるかもしれないけど、一気に持っていって値崩れしたらどうするの?そこで、交易も止まるのよ。希少なものだから、価値があるの。価値がある内に、角に変わる新しい交易を街のみんなには考えてもらうの。そうじゃないと、未来になんて繋げる事はできなのよ。私達は、今だけ裕福になりたい訳じゃないでしょっ!』
『。。。。』
余りにも正しく聞こえて、何も言えなかった。
『ここは私に任せてっ。明日、長と私だけでここは仕切るから。とりあえず暗くなる前に帰りましょ。』
日が長くなってきたとはいえ、もう既に半分程の太陽も、『一度帰ってまた明日』と言っているようだった。