タイカンと初めての魔物退治
エビスから海図をもらい、教えられた岩礁へと向かった。【鬼神】との戦いから、3年近く。ミカノとの鍛錬を重ねたとはいえ、【深淵】の剣を敵に向けるのは久しぶりだ。
どのような魔物が現れるのか、私の力で太刀打ちできるのか。武者震いなのか、不安からなのか手元が震えていた。
『馬鹿ねぇ、タイカン。大丈夫よっ!エビスさんも言ってたじゃない。私達なら、問題ないって!ねっ!』
私の様子を見かねたサクヤが声を掛けてくれた。
不思議だ。サクヤの言葉は心に余裕をくれる。
『あぁ。すまない。久しぶりで、緊張しているようだ。』
『えっ!?緊張してるの??ハハハっ変なのぉ〜。』
ミカノにも笑われる始末。これは挽回せねばと、手に力を込めた。
『ねぇ。あれかしら?』
サクヤの指差す方に岩肌が見えた。
『そう。。かな。うん。この辺りで間違いないな。』
『ねぇねぇ。あれ、なんか飛んでるよ。』
ミカノが岩の上を指差す。
『間違いないな。羽のある魔物。ここだ。二人共注意してくれ。サクヤは、念の為光の壁で船ごと覆ってくれるか。』
『任してっ』
サクヤは手を船に当て目を閉じた。器用に船の周囲だけに光を纏わせて不意にくる攻撃に備えた。
『ミカノ、まずは私が様子を見る。木剣を構えて、待ってなさい。』
『わかった。気をつけてね。』
遠巻きに岩礁をぐるりと周り、魔物と距離がとれる場所を探した。船を近場に停船させ、私は岩場に飛び出した。
『グギャーグギャー』
上空には、5体の羽のある魔物が旋回している。
船に気づいたのか、大きな鳴き声を上げていた。
(オニとは違い、私達の言葉を話すわけではなさそうだ。獣の類か。船は守られているとはいえ、攻撃されないに越した事はない。)
【深淵】の剣を岩に当て音を鳴らした。
キーーンという高い音が響く。上空の魔物にも届いたようだ。
『グギャアァーーーーーーーッ』
先程よりも大きな奇声を発し、5体が一斉に降りてくる。
黒い身体にコウモリのような羽を持ち、頭はカラスのよう。手足の先は鉤爪のような形、更には尻尾まで付いている。
『こちらの魔物は、異形なものだ』
1体が真っ直ぐに向かってきた。落ちていく速度を利用し鉤爪を当てにきていた。剣の刃で受けると、大きな衝撃音が響く。
『なかなか。でも軽い。』
魔物は、弾かれた反動で宙へ戻ると今度は3体で降りてくる。
『芸のない』
3体の鉤爪のうち、2体は躱し1体は弾いた勢いのまま、真上から剣を振り下ろし、一刀両断。
『ミカノでもやれるか。。。いや、油断大敵。』
躱した、2体が背後から迫ってきている。右手に握った剣を横に寝かせつつ、自身の身体を捻り右回りに旋回。
『ふんっ!!』
勢いよく真一文字を描いた刃は、2体を同時に切り裂く。
腰の辺りに入り込んだ刃は、背骨の感触も感じられない程の勢いで、一気に魔物の身体を分割した。
私は上空を見上げ、浮遊する2体に向けて咆哮する。
『おおおーーーーっ!!!!』
浮遊する2体は、たじろいだ様子だったが、私の前後に回り込み挟むようにして降り立った。
『まだ数の優位に立っているつもりか。ならば。。。』
前後の敵に睨みを効かせつつ
『ミカノォーーっ!出番だっ!』
船に残るミカノを呼んだ。
頷くミカノにサクヤが声をかけていた。
『大丈夫よっ!思っいきり暴れてきなさいっ!』
『うんっ!』
ミカノが飛び出してくる。
前後だった関係は、それぞれが対になっていた。
子供のミカノを見ている魔物は、涎を垂らしていた。
『ミカノっ!熊よりも少し強い程度だ。臆するな。』
『大丈夫っ!まかせてっ』
ミカノの様子に安心し、目の前の魔物に集中した。
仲間が切られた光景を思い出しているのか、それとも一対一になった事で怯えたのか、魔物は隙だらけで立っていた。
『悪いが、時間をかけるつもりはない。』
地面を蹴り飛び出した。
慌てた様子で空へと逃げようする魔物を捉える。
『遅い。』
下から切り上げた剣は、魔物の下腹部から斜め上に駆け抜け、肩から飛び出した。仕留めて振り返ると、ミカノが丁度仕掛けていた。
『いっくぞぉーーっ!』
木剣を逆手に持ち、走り魔物に向かう。
魔物の鉤爪の攻撃を、前腕に寝かせた木剣で防ぐ。
押し込まれる事なく弾き、そのまま飛び上がる。
木剣は寝かしたままに、魔物の頭部目掛け腕ごと振り下ろした。
ドグッと鈍い音をさせ仕留めて見せた。カラスのような頭は陥没していた。
子熊の一件以来、気絶させる事ばかり考えていたミカノが、しっかりと仕留め切った。
周囲を見渡したが、魔物の気配は感じられなかった。
『おつかれぇ〜。やるじゃないっ!ミカノっ』
船からサクヤも合流した。ミカノは照れながら嬉しそうに笑っていた。
『よしっ。エビスからの依頼はこれで完了かな。』
『そうねっ。後は、この羽を切ったらいいのね。』
『そうだな。じゃあ片付けようか。』
剣を肩甲骨あたりに差し込んで羽の根本と思われる部分から切り取る。少しでも綺麗な状態が良いのだろうと、斜めに切った魔物以外は慎重に切り取った。海で、余計な血を洗い流して船に積み込むと、【シガ】の街へ向けて出発した。
揚々した表情のミカノ。初めて魔物を倒した高揚感があるのだろう。
『ねぇ。ぼくも剣がほしいな。』
『う~ん。そうだなぁ。いつまでも木剣という訳にもいかないか。』
『そうよ!初めて魔物を退治したご褒美に買ってあげなさいよぉ』
サクヤの援護を受けて、ミカノはきらきらしている。
『そうだな。この羽を換金してくれると言ってくれていたし、エビスの所に戻ったら聞いてみよう。子供でも扱える程度の剣ぐらいは買えるかもしれないな。』
『うん!ぜったいだよ!!約束だよ!!』
『あぁ分かった。でも、そんなに期待するなよ。羽を10枚持って帰った所で、そんなにはしないだろうから』
『は〜い。』
岩礁で初めての魔物を倒した私達は、急ぎ【シガ】の街へ戻った。