タイカンと交易
ミカノが眠る横で夜更けまで話し込んだ。航海に疲れはあったものの、予想以上に早く到達したのが幸いしたのか、それともエビスから聞く島とは違う文化が、刺戟的だったからなのか時間を忘れて楽しんだ。
翌朝、私達3人の寝床として用意してくれた部屋の扉を叩く音で目がさめた。
『う~~~ん。。。はい。』
『おはようございます!船長より、円卓の部屋で朝食をと伝言を預かっております!!』
朝からはきはきとした口調で、朝食のお誘いを受けた。
『わかりました。皆で行くと伝えてください。』
『はいっ!では、お待ちしております!』
扉越しの会話を終えると、サクヤとミカノを起こして、昨日の円卓の部屋へ向かった。
部屋の前には、甲冑の者が姿勢良く立っている。私達に気付くと部屋の扉を開けてくれ、迎い入れてくれた。
『おはよう。タイカン。よう眠れたか?』
『おはよう。ああ、ゆっくりさせてもらったよ』
『そうかぁ。そりゃ良かったわ。さっ、サクヤさんもミカノくんも、こっち座りぃ。』
円卓には、朝食が用意されていた。湯気が立っている白米と焼き魚に、味噌汁が用意されていた。
『エビス、朝からこんな豪華なものばかり用意して貰って、済まないな。』
『ん?あぁ〜そんな気張ったわけやないから、気にせんで食べてや。ほら、ミカノくんも食べてっ!美味しいでぇ』
『ありがとう!いただきますっ!』
一口、二口食べると、ミカノは恍惚の表情を浮かべていた。
『サクっ!美味しいよっ』
『ほんとねぇ〜。スゴイ美味しいわぁ〜』
『そや、タイカン。交易の話しやけどな』
『あぁ。食料や革製品は、【ケーハン】でも余ってるって言ってたな。』
『それはそうやねんけどな。昨日、寝る前に思いついたんやけどな。』
『えっ?島のもので売れるものがあるのか?』
『そやねん。あるかどうか分からんけど、魔物の角は残ってないんか?』
『魔物、【オニ】の角?それは、かなりの数があるけど』
『ほんまかっ!!タイカン、それやっ!』
エビスが急に立ち上がって話した為、私達は驚いた。
『すまんすまん。興奮してもうた。その角って、頭に生えとったやつで、これぐらいの長さと太さやろ?』
そう言うと、指で輪を作って見せた。
『まぁ頭に付いているのは確かだが、もっと長くて太いぞ。大体、ミカノの腕ぐらいか。』
『嘘やろっ!!ほんまに言うてんのか?!!』
エビスは、先程よりも更に前のめりになっていた。
『エビスさん、本当ですよ。さっきの指の大きさだと小さな方で、大体はこのぐらいかな。』
『サクヤさんっ!それな、ほんまにえらいこっちゃやで。』
『エビス、何が「えらいこちゃ」なんだ?」
『あかんわ、興奮してきた。ええかタイカン。さっきの指の大きさの角が10本あれば、ひと月やふた月ぐらい食えるぐらい換金できんねん。それが、その3倍ぐらいの太さと長さやろ。そんなもん、めちゃくちゃ稼げるで!』
力説するエビスには申し訳ないが、理解が追いつかない。
『そんな角なんて、どうするんだ?』
『魔物っちゅうのは、【胆力】の集まってる場所があるんやけどな、大体はな内蔵に集まっとってな、そんな売れるようなもんやないねん。けどな、その【オニ】の角みたいに、身体の表面に出てるやつは違うんや。』
『なになに?ツノがどうなるのぉ??』
ミカノも珍しい話しに興味津々だ。
『まずな表面を削っていくと芯みたいな部分があんねんけど、そこは武器にすることもできるし、色んな器具に加工もできんねん。鉄よりも頑丈やけど、扱いやすい分ええ値がつくんや。』
『それは、何となく想像できるな。』
『それだけちゃうでっ!!削った表面と薬草を混ぜて煎じる事で薬にも毒にもなんねんっ!それにや、そもそもの角の形がええやつは、そのまま高級な土産もんやぁ。』
『え〜。あの角って、そんなに色々できちゃうの?知らなかったわ。』
サクヤが感嘆の声を上げると
『そや、なんせ捨てる所がないっちゅうやつで、商売するにはもってこいやろっ。』
何故か得意気になっているエビスが可笑しかった。
『しかし、エビスは【オニ】について詳しいな。』
『そりゃそうや。こっちにも、おるからな。せやけど、さっきの角の大きさで分かるやろけど、俺達で何とか防げる奴らやから、心配はせんでええで。』
『そうかぁ。島だけに現れた訳ではないんだな』
『魔物退治専門で仕事しとる奴もおるし、俺達みたいな国お抱えの兵士も、討伐にいってるしな。』
『。。。エビス、国の兵士だったんだな。』
『ん?言うてへんかったか??ハハハ。すまん抜けとった。俺達は、【ケーハン】の国境を任せられてる部隊やねん。それの海上版やな。陸には陸上版の俺達みたいのがおるし。』
『ねぇタイカン。エビスさんにお願いして、【ケーハン】の偉い人に、角の事頼めないかしら?』
『そうしてくれれば、助かるな。エビス、どうだろうか?』
『ここで会ったのも、なんかの縁や。勿論手助けするで。』
『ほんとうか。いや、ほんまにありがとう。』
『ハハハっ。昨日今日でよう覚えてくれたわ。ええねん気にすんな。俺で何か出来るんやったら、なんでも言うてくれ。俺達はもう仲間みたいなもんやからっ』
そう言ってくちゃくちゃの笑顔を向けてくれるエビス。
『昨日から、色々世話になりっぱなしだ。私達で出来る事はないだろうか?少しでも報いたい。』
『えぇ?報いるて。タイカンは、真面目やなぁ。。。』
『ぼくも、タイやサクより強くないけど、手伝えるよっ!ねぇっサクっ』
『そうね。エビスさん、何か困り事があれば言ってください。貰ってばかりじゃ悪いわ。』
『。。。そこまで言うてくれるんやったら、一つお願いしてもかまへんか?』
『あぁ、言ってくれ。』
『さっきの角の話やけど、交渉するんやったら実物がいるやろ。それを島に取りに行ってもらう道中の話やけどな。』
『あぁ。そうか。角なんて持ってきてないしな。』
『お前らが来たときに通ったか分からんけど、岩礁が海の上に出てるところがあってな、そこに魔物が住み着いて漁師から何とかしてくれ言われてんねや。』
『エビス達でも倒せないような、魔物なんだな。』
『いやちゃうねん。でも、弱い訳やないんやろうけど。ちょっと国同士のゴタゴタがあって、なかなか俺達も離れられへんのが、正直なとこやねん。』
『そうか。ここから出られないわけか。分かった。詳しい場所を教えてくれ。私達で何とかしよう。』
『ほんまかっ。助かるわ。羽があるいうて聞いてるし、倒したらなるべく羽を切って、持って帰ってきてくれ。』
『なるほど、それが証明になるのか』
『そうや。それに、きちんと報奨金も出るからな。』
『いや、金の為ではないから、それはいいよ。』
『これは、依頼やと思ってくれ。ここには、それを専門にする仕事があるって言うたやろ。ほな、地図見せるからこっち来てくれ。』
見知らぬ海上で出会ったエビスの親切心に報いる為、初めての魔物討伐に向かう。ミカノは、相変わらずきらきら瞳を輝かせていた。