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タイカンとエビス

大きな船の中には、船室がいくつもあった。海上で生活する為の工夫が、至る所に施してある。その中の一室の前、一際大きな扉の前に通された。

『お連れしましたっ』

私達を案内してくれた者が言うと、扉の中から返事がある。

『おぉ〜ご苦労さん。入ってやぁ』


扉からの景色は、船である事を忘れさせる程の豪華さだった。大きな円卓の周囲には、見た事の無い調度品が飾られていた。正面に座る長髪の男は、あのくちゃくちゃの笑顔で迎い入れてれた。


『驚かしてしもて、ほんまにすまんかった。』

そう言いながら、サクヤとミカノに頭を下げた。二人も返すように会釈していた。

『タイカン。自己紹介がまだやったな。俺は、船長のエビスや。宜しくな』

私は、エビスが差し出した手を握った。


『そちらの二人は、お前の家族なんか?』

『あぁ。まぁ。そうだ。サクヤとミカノだ。宜しく頼む。』

『そうかぁサクヤさんと、ミカノちゃんな。宜しくなっ』

エビスは、私の時と同じように手を差しだした。

『ぼく、男の子だよっ。ちゃんは女の子だよぉ』

サクヤとエビスが握手をする横でミカノは不満気に話した。街の友達ができた事で、何やらこだわりが芽生えたようだ。

『おぉ~そうかそうか。そりゃすまんかった。ほな、ミカノくん、改めて宜しくなっ。』

『うんっ!よろしくね!エビスさんっ』

挨拶を済ませると、大きな円卓を四人で囲んだ。

『さて、まずは手紙を見せてもうてええかな』

長から預かった書簡を渡すと、封筒に書かれた長の文字を見るだけで、中を見ることはなかった。

『。。。ありがとう。返すわな。』

『中を見なくていいのか?』

『あぁ、かまへん。その封筒だけで、ここらの物じゃないっちゅうのは分かったからな』

『そうなのか。違うものなのか。』

『それよりや、やっぱりあの島から来たのは、ほんまなんやなぁ』

『ああそうだ。【シガ】の街が、私達の故郷だ。』

『そうなんやなぁ。えらいとこから来たもんやで』

『。。。エビス、すまないが。』

『ん?なんや』

『さっきから、少し分からない言葉があってな』

『ん?分からん言葉?』

『あぁ。私達は偉い訳ではなく、手紙を届けに来ただけで、手紙の差出人が偉い人になるのだが。』

『えらい?。。。あぁ、すまんすまん。そうか、お前らには馴染みの無い言葉なんやなぁ。別にお偉いさんの事やなくて、大変なとこから来たなっちゅう意味やねん。』

私とサクヤ、ミカノは顔を見合わせた。

『そうなのか。そういう意味があるのか。あとは、何となく文脈で理解できているので、気にせず話してくれ。』

『そうか。まぁなるべく気を付けるから、分からんかったら言うてくれ。気ぃ使わんで言うてくれよ。』

『ありがとう』

『それでやな。あの島は、ここらの者からすれば【忘れられた島】なんや。』

『忘れられた。。』

『気ぃ悪くさせたら、ごめんやで。俺も聞いた話しやから、正確には少し違うと思うが、80年か90年ぐらい前に魔物が出たいうてな。』

『魔物。。』

『あぁ、その当時は、何度か退治しに行ったみたいやけど、その内数も増えて手に負えへんくなったらしわ。そっからやな、何年かは様子を遠巻きに見てたらしいけど、船を停められそうなとこには、必ずあいつらの拠点ができてしまってたいうて、行けへんようなったんやと。それ以来、みな【忘れられた島】いうて、関わってこんかったんや。まさか人が生きているなんて、思いもせんかったんや。』


『80年前か。。。私達は、何十年としか聞いてこなかったが。。そうか。そんな前から。』

『俺が言うてもアカンやろけど。ほんまにすまんかった。そやけど、こうして島の人間と会えて嬉しいわ。』

『いや、謝らないでくれ。私達は私達で生きていただけで、外の事は全く知らなかった訳だから。』

『そうよ。あなたも、以前の人達も何も悪くないと思うわ。』

サクヤも私の話に同調し答えた。

『タイカン、その。』

エビスは、聞きづらそうに話しだした。

『どうしたんだ?構わないから、話してくれ。』

『魔物たちはどうなったんや?』


エビスが言う魔物の事を【オニ】と私達は呼んでいた事から、【オニ】の長を倒し殲滅した事まで、私が知る限りの事を話した。


『ほんまかぁ。いや、お前の【胆力】からすれば嘘ではないんやろう。それに、ここに来れてる事が何よりの証明やな。そうか。【オニ】なぁ。おじぃらが、そう言ってたような気ぃもするわ。』

『タンリキとは何なんだ?』

『あぁ、すまん。分からんか。なんちゅうかな、俺らは相手の強さを【胆力】っちゅうて呼んでんねんや。お前達は、何て呼んでんねや?』

『相手の強さか。う〜ん。。サクヤの言う【生命力】と近いのか?』

『そうね。そういう事なのかもね。』

『エビスは、私の力を感じているって事なのか?』

『そうや。纏ってる空気で大体な。そやけど、握手みたいに触れてしまえば、はっきり分かるで。お前は、そういうのは分からんのか?』

『そうだなぁ。雰囲気や空気というのは、理解できるかもしれないな。』

それからは、街の話しなどして過ごしていた。


『そろそろ、飯にしよか。まぁ今日はゆっくり休んでくれや。長旅も疲れたやろ。ミカノくん、甘いの好きか?美味しいお菓子もあるから、遠慮せずいっぱい食べてくれや。』


そう言うと、外で待機している者に声を掛け宴を用意してくれた。初めて口にするものばかりで、ミカノだけではなく、私もサクヤも舌鼓を打ち、心を許していた。

酒も振る舞われ、エビスと共に楽しい夜を過ごした。


部屋の窓からは、暗い海と大陸の灯りが見えた。

無事に役目を果たす事ができそうだ。

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