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タイカンと出会い

見渡す限りの海の上。時折、この場に生きているのは私達だけではないかと錯覚する。船の後部では、ぼんやりとした光に包まれた箱から勢いよく弾ける飛沫。聞こえてくるのは、波をかき分ける音と風を切る音だけだった。

サクヤの秘策はもう一つ。丸太一本から力で創造した長い櫂。不思議な力だ。細く長い持ち手で今にも折れそうだが、切り出した訳ではない為、重量も強度も丸太のままだという。速度を上げる度に波との衝突で方角がズレていくのを、この櫂で舵を取る。なかなかに重労働。流石のミカノでも、手に負えなく悔しがっていた。


早朝に無人島を出て日が暮れそうな頃には、ぼんやりと大陸らしきものが見えた。予想を超えた早さだった。

『タイー!あれ!大陸だよっ!ぜったいそうだよぉー』

ミカノだけではなく、私もサクヤも安堵と喜びを噛み締めていた。


サクヤは、船の後部に取り付けた秘策を外した。帆を張り、ゆっくりと近づいていく。

すると、大陸の方から複数の灯りが揺れながらこちらへ向かっているのが見えてきた。

『ねぇタイカン。あれ何かしら?』

『ん?どれどれ』

サクヤと共に目を凝らし見ていたその時


『そこの小舟っ!直ちに止まれぇーーー!!』

声と共に見えてきたのは、私達が乗る船の何倍も何十倍もあろうかという大柄な船。船の先頭から大声を張り上げた者の周囲には、甲冑を身に着けた者達がこちらを凝視していた。

『止まれぇーー!!止まらぬのなら、沈めるぞっ!!』


大柄な船の波に大きく揺れる小舟。異様な状況に、すぐに帆をしまった。

『私達は、南の島からきた【シガ】のものだぁーー』

大声の主に向かい声を張り上げた。ミカノは木剣に手を掛け身構えていた。

『ミカノ。動くんじゃないぞ。』

小声でミカノを制す。


『私達は【シガ】から来たっ!【ケーハン】へ向かうだけだっ!』

再び声を張り上げた私の声が届いたのか、船上がざわついている様子が見えた。

先頭に立つものが話す。

『何か証明するものはあるかっ!!』

船上の者達に、気を緩める気配は無かった。


『あるっ!証明できるものを持っている!【シガ】の長から【ケーハン】へ当てた書簡を持参しているっ!』

船上では、先頭の者が後ろに控えている甲冑の一人に何やら話していた。

『わかったっ!では、それを見せてもらおうっ!縄梯子を降ろす。上がって参れっ』

大柄な船の船体に縄梯子が掛けられた。

『サクヤ、ミカノを頼む。異常を感じたら二人で戻ってくれ』

サクヤは、無言で頷いた。

『タイ。。』

『大丈夫だ。心配するな、ミカノ。サクヤと待っててくれ。』

そう言い残し、私は書簡と【深淵】の剣を携え船に上がった。


船上には、甲冑を来た者達が槍を構えて待っていた。

周囲をゆっくりと見渡した。20人程が私を囲んでいた。

『私は話しをする為に来たっ!【シガ】の街のタイカンだっ!!敵意は無いっ!!』

周囲は緊張に包まれている。槍をしまう様子もない。

私は剣の鍔に手を掛けた。

『手合わせを望むなら、仕方ない。死んでも恨むなよ。』

鞘から剣を抜こうとしたその時

『そこまでだっ!』

甲冑の間から、先程の者が声を掛けた。

甲冑の者達は、整列し直し道を開けた。


長い髪をなびかせながら歩いてくる男。遠目では分からなかったが、その体躯は厳しい鍛錬を重ねた事を証明しているようだった。

鋭い眼光を向けながら男は話した。

『タイカン。。。』

私の名を呟きながら、私の足元から頭の先まで慎重に見回していた。

『【シガ】から来たと。。海を越えて。。女、子供と。。。』

男は、目を閉じ考え込んでいる。

『おいっ。書簡を見るのでは、』

男は私の話しを手を広げ遮った。

再び開いた眼には、鋭さが消えていた。


『お前、ほんまに、あの島から来たんかっ??ほんまやったら、これはすごい話やでっ!』

先程の様子から一変する明るい声に、拍子が抜けた。

『すまん。すまん。とりあえず、下の船に残っとる子供達と一緒に、お茶でもしようや。なっ!ええやろっ!』

くちゃくちゃな笑顔に絆された。

『おいっ!お前ら、あの子ら連れてきぃ。警戒させてしもうとるから、それ脱いでからいけよっ!』

『それなら、私が行こう。その方が安心するだろうし。』

『おっ。そうしてくれるか。すまんなぁ。』

『おいっ!お前、この人について行って船、繋げて来いっ』男が指示をだすと、甲冑の一人が私の後に続いた。

『アホぉっ!お前、それ脱げって言うたやろが』

そう言うと、兜を叩いた。バチンっと軽快な音が響く。

『ほな、タイカン。悪いけど頼むな。船番も一人付けるから安心してやぁ。』


サクヤとミカノに事情を話す。船番で付いてきた男を残し、三人で縄梯子を登る。

『サクヤ、ミカノ。敵意は感じられないが、油断はするなよ。まだ、何も分からない状況に変わりはない。』

二人は無言で頷いていた。


船上に上がると、長髪の男に言われただろう。甲冑の者達は皆、槍を置き兜を脱いでいた。

『さっ。こちらです。』

中の一人が、私達を案内してくれた。


大陸を目前に、正体の分からない船で、正体の分からない者と話しをする事になった。

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