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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファンタジー

異世界転生した私は最強の悪役令嬢の身体に押し込められ、1人に2人魂が宿っているというとんでもない状態になったまま、降りかかる死亡フラグを回避していかなければいけない。

作者: 杏里アル

(芽衣子、なんでそんな事をしましたの?)


 うるさい、と美しい貴族のツインテール女性が頭の中で返事をする。

 女性は銀髪の縦ロールをしており、身につけている者もまさにお嬢様と言った感じだった。


(下々の民達、価値のない者を助ける意味をお尋ねしても?)


 女性は口に出す、まるで1人2役を演じるかのような話し方で。


「知らないわよそんなの! 私が助けたかったから助けた! それにあんた、今は私の身体なんだからいちいちなんで、とか聞かないでよ!!」


 そう、喋っているのは1人の女性、『メリッサ・アストライア』。

 貴族達の間では剣聖と呼ばれ、世界で最強のお嬢様である。


(失礼しましたわ、単純に興味を持ちましたので……それに今は確かに芽衣子の身体ですわ、でも死ねば貴方の魂は消滅し、肉体はワタクシに戻るという事をお忘れになりまして?)

「あーもう、ややこしいからとにかく黙ってて!!」


 テーブルをドンッと叩き立ち上がると、周りの視線はメリッサに集まってしまっていた。


「あっ……」


 もうこの身体、本当に面倒くさい、とメリッサは頭の中で呟く。

 そもそもどうしてこんな二重人格となっているのか?


 きっかけは数ヶ月前の出来事だった……。



 ――。

 ――――。



 立ち並ぶ家、その隙間にある裏路地の1軒のうす暗い部屋から全ては始まった。


「……つまり、2重人格ってこと?」


 メリッサはもう1人、頭の中のメリッサに問いかける。


(それでいいですわ)

「……うぷっ」

(ちょっと! またですの!?)

「おええええええっ」


 複雑に作られた脳みそが拒絶反応を示すかのように、メリッサは吐しゃ物を床にぶちまけた。


「あらあら、また吐いてしまったの?」


 それに気付いたとんがり帽子に黒い服を全身に纏う巨乳の女性はランプを手に持ち、こちらへと近寄ってくる。


 髪は紫色で、手入れしていないのかクネクネと波打つようなロングヘアーとなっていた。


「ねえねえメリッサの中の人!」


 まるで実験動物を見るかのような、キラリとした目をする女性。


(なにソフィ?)


 返事は私がするっての……どうせ貴方の声は周りに聞こえないんだから、と思考するもう1人のメリッサ。


「1人の肉体に2つの魂が入るってどんな気分? ねえどんな気分なの?」


 メリッサの身体を支配していた女性は、手で口周りを拭って返事をする。


「気持ち悪い……とにかく自分が自分でないと思ったら頭も痛くなる」

「そう……でもそれって他の患者も同じ事を言っていたわ、全く面白くないわね」

「あんたの予想に、なんで私が合わせないといけないのよ」

「それもそうね……あっ、それとこれ! 精神を安定させる抑制剤、名前はえっと……?」

「芽衣子よ」

「芽衣子ね、それとどっかにいるメリッサもまた、禁忌魔術の実験に協力してくれると助かるわ」


 メリッサはソフィが見えていないとわかってはいたが、軽く手を振った。


(ソフィは相変わらずワタクシと同じで、興味のある事しか耳を傾けませんの)


 芽衣子と呼ばれたもう1人の女性はメリッサの身体を動かし、片足をあげて思い切り床に叩きつけた。


「だから、勝手に話に入ってくるな!!」


 あはははと腹を抱えて笑うソフィ、それを芽衣子は無視すると、胸元ほどの高いテーブルに置かれた紙袋を奪い取るように掴んで中身を見た。


 まるで学校の授業で使うような試験管が数本入っていて、芽衣子は紫の液体を見るとプツプツと泡を立てている事に気持ち悪いと感じる。


「床は私が掃除しておくから、ソフィと異世界から来た方、また何かあったら報告しに来て頂戴、私の研究の発展にも繋がるから」

「絶対に繋げない!!」


 芽衣子は怒りに任せて勢いよくドアを閉めると、隣でクスクスと嬉しそうに笑うメリッサ、それを見て芽衣子はさらに腹を立てた。



 ――。

 ――――。



(さて、お次は何をされますの?)


 探索がてら少し路地を歩いていた芽衣子に、メリッサが声をかける。


「あのね、人をペットか何かの目で見ないでくれる?」

(それは失礼致しましたわ)

「むかつく……まあいい、聞きたい事がいくつかあるの」

(ええ、答えられる範囲でしたら答えますわ)


 芽衣子はまず、なぜこの世界に来てしまったのかを尋ねた。


(目を覚ましたら身体がとても重かった、胎内に子供ができる妊婦のように……ですがワタクシ、一度も旦那様を持った事がありませんの、だから知り合いの魔法使いに相談しましたところ、今に至りますわ)

「それで、肉体の所有権を放棄した?」

(ええ、面白そうでしたから、それにある条件を満たせばいつでも戻れるそうですし)

「どうやって戻るっていうのよ、最初の時みたいに訳のわからない魔方陣でも書くわけ?」

(――貴方が死ねば良いですの、それで全て元通りですわ)


 うそ……と青ざめた顔をする芽衣子、このよくわからない中世風の世界で死ねば、『自分』という存在自体が無くなってしまう。


 亡くなってしまえば、現実世界で元の身体に戻る事もできない、芽衣子は慌ててメリッサに尋ねる。


「ど、どうにかならないの!?」

(なりませんわ、死ぬ瞬間までそこに居れば宜しくて?)

「宜しい訳が在りませんの!!」

(喋り方がうつってますの)


 メリッサは余裕たっぷりの表情で問いかけた。


(そもそも、生前の記憶はありますの?)

「それが……わからないのよ、芽衣子という名前と日本に住んでいた事だけは覚えている」

(ソフィの家にいたときも言っていましたわね、日本とはなんですの?)

「多分、こことは違う世界だと思う」

(記憶が断片的に覚えてるのなら、術式を行った時による一時的な記憶喪失なのか、色々原因がありそうですわね)

「そうね、とにかく、この身体、いや私は殺されないようにしないと――」


 そこへ、1人の男が声をかけた。


「よおお嬢さん、こんなところを出歩いたらダメだぜ?」


 手にはナイフを持ち、それを片方の手の平で数回ペチペチと軽く叩くと、キランと見せつけた1人の男。


「へっへっ……おや? こいつは驚いた、アストライア家のお嬢様じゃねえか」

「こりゃあ、連れ去れば相当な金になりそうだな!」


 ナイフを持っていた男の仲間である2人の男達は、メリッサと芽衣子の逃げ道を断つ為に前と後ろを塞いでいた。


(あら、突然大ピンチですわね)

「ど、どうなってんのよこの街は!?」

(人通りの少ないところではこういう悪者もいる、ましてや私がアストライア家の娘なら当然のことですわ)

「アストライアって一体なにを――」


 それを聞き、不可解に首を傾げる男達。


「なに言ってんだこいつ?」

「気でも違ったのか?」

「よくわからねえが……とにかく俺達と来るんだな、へへ」


 そう言うと、ナイフを持った1人の男が芽衣子に迫ってくる。


「ど、どうするのよ!」

(どうにかしてみてはいかが? ロングスカートの下に仕込みナイフが沢山ありますわ)

「なんかやたらとカチャカチャ音がすると思ったら……!!」


 芽衣子は言われた通りスカートをまくり、太ももに仕込まれていたナイフを1本取り出す。


「えい!!」


 男の身体のどこかに刺されば良い、そう思って投げたナイフだったが――。


 キンッ!!

 あっさりと男に弾かれ、やれやれと頭に手を当てるメリッサ。


「どうした、そんなんじゃ動物も殺せないぜ?」


 素人が投げたナイフ、その速度は40キロほどで男が目で追うには随分と容易かった。

 剣聖で最強のメリッサだが、今は芽衣子が身体を動かしている。


 当然、他に仕込んでいた長剣も抜いてはみるものの。


「えい! たあっ!!」


 形も何もめちゃくちゃの剣技に、男達を含めメリッサも呆れていた。


(素人丸出しですわねー)

「うる、さい!! いたっ!!」


 リボンのついた赤いロリータ靴、激しい動きに足がもつれ、グキリとくじくと芽衣子は転んだ。


 それを見てゲラゲラと笑う男達、さらに1歩近寄ってくるのに恐怖した芽衣子は、地面に尻餅をつきながら後ずさりする。


「いや……誰か!! メリッサー!!」


 芽衣子がメリッサに助けを願った時、1人の男が悲鳴をあげた。


「ぐ、ぐあああああああ!! いてえ!! いてえよお!!」

(出ましたわね……)


 メリッサの呟きに、思わず何が起きたのかと芽衣子は目を開けた。

 そこへ映ったのは関節を極められ、痛がる男の後ろで立っていたのは――。


「君達、その者に手を出す事がどういう事かわかっているのかな?」


 金髪の好青年は自身が貴族の出で立ちである事を示すかのようなジャボと紳士の服を身に纏っていた。

 鼻も口も全てが整っており、その面の良さに芽衣子は呆然としたまま「かっこいい」と頭の中で思う。

 

「て、テメェは誰だよ!!」

「レオン、レオン・ギルバートという者です、覚えておく必要はありません、なぜなら――」

「うるせえこの野郎!! ……ぐおっ」


 レオンと名乗る男の実力は芽衣子の倍以上だった。

 男のナイフを最小限の動きだけでかわし、膝を曲げてみぞおちに喰らわせるとガクリと崩れる1人の男。


「――貴方達に名乗っても、どうせ関わりたくないと思うはずですので」

「「ひ、ひい!!」」


 あっさりと戦意喪失した男はナイフを捨てて逃げると、その仲間達も背を向けて一目散に逃げ出した。

 膝の方を手で払い、倒れた芽衣子にレオンは手を差し伸べる。


「大丈夫ですか? しかしアストライア家の貴方が尻餅をつくなんて事があるんですね」


 口元を隠してレオンはクスリと笑う、それをポカンと見ながら芽衣子は差し伸べられた腕に手を伸ばし、身体を起こされた後に頭の中のメリッサに尋ねた。


(……レオン・ギルバート、ワタクシの許嫁ですわ、まあ、ある意味一番イカれてますの)


 イカれてる、その言葉について芽衣子は尋ねてみたが、急に機嫌を悪くしたメリッサは返事を返さない。

 そもそもどういう関係なのかわからなかったが、助かった事に芽衣子はお礼を伝えた。


「あの、ありがとうございます」


 その一言に驚くと一瞬、顎に手を当てて考え始めるレオン。


「……どこか頭でも打ったんです?」


 今レオンが見ているのはメリッサ、気付いた芽衣子は慌ててメリッサのフリをした。


「あ、えっと、助かりましたわ、とても」

「演技なのかわかりませんが、メリッサお嬢様、汚らしい下々の民と関わるのもこれっきりにして頂きたいものですね」

「き、汚らしい?」

「ええ、このような野蛮な者達、危ないに決まっているでしょう?」


 一方的に厳しくレオンは忠告すると、大通りにて待機していた馬車に乗るよう芽衣子をエスコートをした。


「さ、乗ってください」



 ――。

 ――――。



(はあ、散歩もここまでですわね)


 馬へまたがるレオン、芽衣子は後ろへ乗るようレオンに指示をされると、大人しく従い中へと乗り込んだ。


「はっ!」


 レオンのかけ声が聞こえ、その後にムチの音が1回聞こえると、少し揺れながら馬車は動き出した。


「ねえメリッサ、さっきの話の続きなんだけど」


 中は1人しかいなかった為、ここなら2人きりで話せると思った芽衣子は幽霊のように対面に座るメリッサに問いかける。


(なんですの? ワタクシ、今家に帰らされて気分が最悪でしてよ)

「なら話して紛らわせましょう、さっき言ってた私がアストライア家の娘なら当然のことってなによ?」

(この街を牛耳っているのはアストライア一家ですの、事実国王に数え切れない貢献をしたワタクシのお父様は、裏の国王として君臨しておりますわ)


 窓枠に肘をつき、景色をつまらなさそうな顔で見ながらメリッサは話をする。


「それで世間の恨みを買ってるってこと?」

(そうですわ、ワタクシやお父様を殺したい者はこの街で沢山いましてよ?)

「いましてよって……あんた自分が憎まれてる事を気にしてないの?」

(ええ、ワタクシは自分の事以外、あまり興味がないもので)


 なんと傲慢でワガママな女性なのだろうと芽衣子は思った。


「じゃあなんで身体を私に譲ったのよ」

(先ほど言いませんでしたこと? ワタクシは面白いモノが見たいんですの、先ほどは多少楽しめましたわ)

「自分が安全なところにいるからって好き放題言って……とにかく今は私の身体になっているんだから、その汚名を払拭させてもらうわよ」

(ご勝手にどうぞ)


 そんな事は出来るはずがないとせせら笑うメリッサ、そんな話をしていると馬車はピタリと止まる。


「薄汚い格好で、この馬車に近づくな!!」


 レオンの叫び声が聞こえ、思わず馬車から身を乗り出す芽衣子。


「い、いたい!!」


 すると、馬を下りてレオンはボロボロの服を着た男の子を何度も踏みつけるように蹴っていた。


「ど、どうして!? 何をしているのレオン!!」

「……おや? これはすみません、薄汚い少年が馬車に近づいたもので」

「そんな理由で、その子を蹴っているの?」

「ええ、何か不満でも?」


 貴族は本来庶民とは関わる事も交わる事もない、この街の貴族達は庶民を基本道ばたに落ちているゴミとしか見ていなかった。


 ではなぜこの格差がある状態を街は受け入れているのか?

 それはアストライア家の名誉を保つ為であり、逆らえないほどの力を持っていたからだ。


 その許嫁でもあるレオン・ギルバートの家も例外ではなく、権力と下々の民達を従えさせる力を持っている。

 国王も民も誰も逆らう事が出来ない、独裁政治のような体制を保っていた。


(……芽衣子?)


 芽衣子はこの世界の人間ではない、だからこそこの状況が「おかしい」としか思えなかった。


「私はアストライア家なんかどうでもいい、一番気になるのはこの街はクズしかいないって事」

(ちょ、ちょっと芽衣子!?)

「全てぶっ壊してやるの!! あんたの周りも……って、あいたっ!!」


 芽衣子は怒りのまま馬車から飛び出し、意外なほどあった地面との距離に身体を取られ顔から転んでしまう。


(貴方、毎回格好がつきませんわねー)

「う、うるさいわね!」


 恥ずかしながらも芽衣子はハンカチで頬についた汚れを拭いた。

 なぜ止めたのかと、レオンの標的は芽衣子に移る。


「先ほどから何かおかしいと思っていましたが……貴方、メリッサではありませんね?」

「め、メリッサですわよ」

「金を渡し、代役を立ててまだ本人は街を彷徨いている……と考えるのが自然でしょう」

「いや、話を聞いてよ!」


 耐えられなくなったメリッサは笑い声をあげた。


(ね? イカれてるでしょ?)

「あんたの知り合いって基本変な奴ばっかじゃない!!」

(アストライアの話を聞いて、おかしい人はいないと思わない者はいませんわ)

「ああ、もう!!」


 話している間にレオンは腰に身につけていた剣を素早く抜き、芽衣子に向かって斬りつけると、銀色の縦ロールが片方パサリと落ちた。


「偽物さん、最後に言い残す事はありませんか?」


 少しの間黙っていた芽衣子は、親指を下に向けてレオンに不満を表した。


「……あるわよ、貴族なんて、クソ喰らえですわ」


 ああもう、あいつの口癖が移ったと、芽衣子は最後に思った。


「そうですか」


 死を悟る芽衣子、不思議と後悔はない、レオンに斬りつけられた痛みすらも感じず、すぐに意識は暗闇の底へと沈んでいく。


 深く、まるで眠るかのように意識を失った。

 まさに死に近い感覚――。


「おや……? 仕留め損ないましたか」


 芽衣子はなぜか立ち上がった、正確には芽衣子が『死を悟った』事により、頭の中のメリッサに肉体は切り替わっていたのだった。


「なるほど、こういう形でもワタクシは戻ったりするんですのね」


 明らかに違う圧を感じたレオンは、一瞬メリッサ本人なのかと疑う。


「貴方は一体……?」

「あら、その剣で確認してみてはいかが?」


 血のついた剣をもう一度メリッサに振るったレオンだったが、あっさりと斬られる事もなく、しっかりと攻撃を受け流すようにスカートから抜いた長剣で弾いた。


「これはこれは……間違いなくメリッサの剣技ですね」

「わかって頂けて光栄ですわ、目覚めるのを待っているとまた入れ替わりそうですので……」


 クルリ、と剣を回してぎゅっと握ると、上段に構えるメリッサ。


「一撃で決めさせて頂きますわ」


 相手の打ち込みを待って返す刀で仕留める、まさに剣道の霞の構えとよく似ていた。


「目覚める? 何の話かはわかりませんが……貴方と殺し合うのは、何度やっても楽しいですね!!」


 カカトに力入れ、火花を散らしながら剣を引きずり前へ駆けるレオン。

 振りかぶられたその一撃を見切ったメリッサは――。


「ぐっ……はっ!」


 綺麗にカウンターで返し、刀の背を使ってレオンの腹へと思い切り叩きつけた。


「ねえレオン、ワタクシ縦ロール、少し気に入っていましたの」


 そう言って倒れ込んだレオンを見ると、出血の影響かメリッサは意識を落とした。



 ――。

 ――――。



「よかった、目を覚ましてくれたのね」


 芽衣子が目を開けると、木で組まれた家の天井が見えた。


「ここは?」

「私の家よ、あなたはメリッサ・アストライアさん?」


 大きなリボンをつけ、健気そうな女性、すぐ奥では退屈そうに椅子に座り、窓を見ていたメリッサの姿が見えた。


 あの後なにが起きたのかは芽衣子にはよくわかっておらず、まずは女性の返事にメリッサとして応対する事にした。


「え、ええ。そうですわ」

「弟から聞いたの、貴族の人に踏まれていたところを助けてくれたって」


 芽衣子はメリッサを見て「どうして私と少年を助けたの」と頭の中で尋ねた。


(……あれだけの事をするのならお父様はお怒りだし、感情に任せてギルバート家の結婚の話も当然無しで進んでいくはずですわ、それに貴方、ワタクシにその面白そうな出来事の続きを見せてくれるではなくて?)


 このアストライアについた汚名を払拭する、そう言ったのは芽衣子だとメリッサは言った。


「どうしたの?」


 リボンの女性は心配そうに芽衣子に尋ねる。


「ああえっと、何でもありませんわ、貴方、お名前は?」

「フィオナです、フィオナ・レジドールと申します」

「フィオナ……その、私と協力してくれないかしら?」


 芽衣子はフィオナの両手を握って真剣な眼差しで見つめる、それに対し唐突に迫ってきた事に目をパチパチとさせるフィオナ。


「な、何をですか?」

「アストライア家、いやその関連の貴族を失墜させるの」



 芽衣子はこの身体に宿ってしまっている以上、せめて今自分に出来る事を探していた。



 ――。

 ――――。



 夜、寝静まった暗い家々を眺めながら、フィオナの家に泊めてもらった芽衣子は起こしてしまわぬよう、屋根に座ってメリッサと話し込んでいた。


「いたか!?」

「いえ、見つかりません!!」

「レオン様はここでメリッサ様と戦ったと仰っていたのだ、日が昇るまでに探せ!!」

「はっ!!」


 下の道ではランプを持ち、兵士達が隈無くメリッサを探していた。


(こんな暗い状態では見つかる訳ないですわ、今抱いてる不満をそのままフィオナに話し、家に入れてもらったのは正解でしたわね)

「私はそんなつもりでフィオナの家に泊めてもらった訳じゃない、ただ……」


 言葉が詰まる芽衣子に、メリッサは尋ねた。


(ただ何ですの?)

「同意してくれると思う? 私、危ない道に進ませちゃってるのかなって……」

(他人の事を思いやる、それが貴方の一番よくわからないところですわ)

「貴方だってお父さんがここの平民に殺されたら、恨むでしょ」

(いえ、お父様はそれ相応の事をしておりますし、当然ではなくて?)


 話をしても無駄だな、と芽衣子はため息を吐いて話題を変えた。


「はあ……ところでさ、これからどうしたらいいと思う? 私」

(そうですわね……。そもそも結婚自体をフィオナに押しつけるという考えもあったはずですわ)

「あんなサイコ野郎に純真無垢な子を渡せる訳ないでしょ」


 上を向き、ぼんやりと夜空を眺める芽衣子、しばらく時間が空き、立っていたメリッサも横に並ぶように座った。


(ふふ、芽衣子?)

「なによ気持ち悪い」

(貴方に身体を渡して正解でしたわ、今日はとても面白かったですもの)


 嬉々として笑顔で感想を述べるメリッサを見ながら――。


「……そりゃどうも、こっちは最悪の1日よ」



 芽衣子はアストライア家に帰ったとき、どんな言い訳すれば生き残れるかを考えていた……。





【異世界転生した私は悪役令嬢の身体に押し込められ、1人に2人魂が宿っているというとんでもない状態になったまま、降りかかる死亡フラグを回避していかなければいけない】


 おわり。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

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