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プロローグ

 それは何てことない1日のはずだった。

 母親に決められた会社の就職説明会に出席するために、私は最寄り駅のホームに立っていた。

「はぁ」

 子供の頃から逆らうと尋常じゃなく怒り狂う母親の指示に従ってきた。物心ついたときから言われていた大学に進学すれば、きっと自由になると信じて。・・・だめだったけど。でも、大学を卒業して就職すればもうこれ以上指示されないはず。今度こそ自由になる。

 そう自分に言い聞かせて就職活動をしてきたけど、本当にそうなのかな。最近不安になってきている。大学に入ったのに取る単位に口を出され入るサークルを制限され、挙句に今は就職先を決められそうになっている。

「はぁ」

ため息が止まらない。

 とはいえとりあえず就職をして家を出るためには、就職先を見つけなければ。

「え?」

乗る予定の電車が近づいてきていることを告げるアナウンスに、気を取り直して視線を上げた私の視界にホームの端をふらふらと歩いている女性の姿が入った。危ないなぁ。

 この駅にはまだホームドアが設置されていないのだ。見ているだけでとっても危なっかしい。思わず視線を逸らせないでいると、

「あ!」

踏み外してしまう!

 とっさに私は、その人のほうへと踏み出して、手を差し伸べた。

「ああっ!」

だけど、支えきれない・・・!

「痛っ」

支えきれないまま、私も一緒にホームから転落してしまった。

 目の前に迫る電車。

 間に合わない。

 こんなに早く死んでしまうなんて。だったら、もっと自由に生きればよかった・・・!

 それが最後に浮かんだ気持ちだった。はずなのだけど。

「ここはどこ・・・?」

次に目覚めると、そこは何もかもが真っ白な場所だった。上も下も右も左も。

 そして、

「いや~、まいっちゃったよ」

私の心境とは全くあわない呑気な声が聞こえた。

 声のほうに視線を向けると、そこにいたのは、銀色の髪と碧色の瞳の人だった。・・・あ、人じゃないかも。とっさに何の反応もできないままでただぼんやりと見返しただけの私でも気が付く大きな羽根がその背中にはあった。

「天使・・・?」

「あ~、天使というわけでもないんだけど」

やっぱり私の心境とは全くあわない呑気な声が言う。

「じゃあ、一体何・・・?」

思わず私も緊迫感に欠けた声で突っ込んでしまう。

「そうだな~、創造神てやつ?」

やべー奴きた。

「あ、今ヤバい奴がきたって思ったでしょ」

「いえ、そんなことは・・・」

もにょもにょと誤魔化していると、

「まあ、いいけど」

その人?その何か?は1人で納得してくれた。

「それで君に謝らなきゃいけないんだよね」

「え?」

「いや~、あのとき本来は君は死ぬはずじゃなかったんだよ」

あの女性だけが事故で死ぬ予定だったんだよね。

とあっけらかんと言い放たれて、言葉を失う。

「ちょっと調整がうまくいかなくて、巻き込んじゃった」

ごめんごめん。

なんて。

軽く言われましても。

「そんな酷い・・・」

何だかじわじわと怒りがこみあげてくる。

 その私の怒りを感じ取ったのか、創造主を名乗るそれ(でもう十分だ!)は慌てて言い出した。

「そんな不運なあなたに今だけの特典が!」

「は?」

またもやそんな軽く言われましても。

「私の管理する別の世界にお望みの条件で転生をお約束します!」

「転生?」

「どんな条件でもかまいませんよ!」

……こうなったら。

「じゃあ、転生させて」

「条件は?」

「自由に生きられること!」

 私は迷わず言った。現実味がないこの場所でやけになってるのかもしれないけど、迷いは全くなかった。

「ふむ。なるほど」

私を見極めるようにみた後、納得したようにうなずいたそれは、

「じゃあ、自由に生きられる環境と力をあげるね」

とすんなりと続けて請け合った。

 最後まで軽いわと私が思ったところで、意識がぼやけていきはじめる。・・・このまま次の世界に行くのかな。

「・・・次の人生での幸運を」

静かな声で紡がれた言葉が聞こえた気がしたけど、定かではない。

 私が最後にはっきりと覚えているのは、絶対に今度は欠片の悔いもなく自由に生きる!そう誓ったことだった。

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