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翌日、エズは集落の前の野原で従者たちを集め、ある作業にいそしんでいた。

集めてきた水晶を彫る作業である。

それも限りなく薄く、手のひら程の雪華の形にしようというのだ。


「レッセイ・ギルドが使う武器は見た目は雪の結晶だ。それを媒介に何かの作用を起こしているようだが……眺めているだけでは始まらない。教えを享受してもらえないのなら真似ることから始めようではないか。彼らは凄腕だが我々と同じ人間。やってやれないこともない」

そういってエズは朝から複数人と共に水晶を削っている。

「ふう」

エズは額を拭った。中々に骨の折れる作業だ。他の者たちも苦戦している。なにせ雪の結晶など、見たことのあるものは少ない。エズが描いた図だけが頼りだ。そこへヴァルルがやってきた。日が昇ってからまだ間もない。ロサはもうすぐ朝飯が配られる時間になる。

「話は聞きましたけど……エズ様、本気なんですかそれ」

「言っただろう、やってみるしかあるまいと。……ところでロサの様子は?」

「横になっているものが増えてます。正直このままだと結晶化の流行が人々に知れるのは時間の問題ですよ。参ったな……僕もちょっと怖いです。なんか、だるさを少し感じるんですよ」

「ヴァルル……」

「気のせいですよ、多分。それよりアルタ様の方が心配です」

そう言って神妙な顔した。アルタは今朝から高熱を発して寝込んでいる。

「結晶化は普通、突然罹ります。だるさや熱などの症状は全く現れない。妙ですよ」

「……皆には足の怪我のためしばらく安静にしておられると説明したが……」


いつまで持つか。アルタの結晶化を知っているのはこの二人だけなのだ。


「我々がどうなるか、それは――結晶世界のみぞ知ることだ。今はできることをやるだけ」

そういってエズはコツコツと水晶を彫る。

「雪の結晶なら僕も小さい頃見たことがありますが……水晶(クォーツ)より雪花石膏(アラバスター)のほうが柔らかくて彫りやすかったかもしれませんね。探してきましょうか?」

「いや……あれは不透明だからな。レッセイたちが使うのは透明な雪の結晶の姿……やはりそれに近いものを作りたい。石英(せきえい)も持ってきてくれたようだが、そういうわけで使えん」


石英と水晶はどちらも同じ鉱石だ。ただ、不透明なのを石英、透明度の高いものを水晶として区別している。エズはこりこりと結晶の細部を彫っていく。


「これがクリスタリスを倒せる「なにか」になれば……しかし不格好だな」

エズは彫り上げた水晶の雪花を見てため息をついた。レッセイたちのものには遠く及ばない。

「やはり見本が欲しいな」


「ならあげるよ」


驚いてエズとヴァルルが振り向くと、音もなくいつの間にか九十九が立っていた。

「これ、お古で悪いけど回路の模型。これを見て作ればいいよ」

そういって腰を下ろして彫りを進めていたエズに、九十九は幼い頃使った水晶でできた雪の結晶の模型をじゃらじゃらと何枚も渡す。

エズは茫然として受け取った。

「それと、六花を作るならちゃんとその構造を理解しなけりゃ駄目だ。ここが側枝で……」

九十九はすらすらと回路構造について説明しだす。最初、呆けていたエズだが、姿勢を改めると九十九の説明に熱心に耳を傾けはじめた。ヴァルルもごくりと息を飲み、聞き入っている。

「つまりあなた方が使っている武器は「回路」といい、雪の結晶の姿をしているのですね」

「本当に雪の結晶なんだけど。俺たちはそれを武器にできる。理由は聞かないで欲しい。俺が教えられるのは回路の構造と使い方だけだ。……あんたたちは多分使えないと思うけど」

「使うにはなにか特殊な要素が必要?」

「それもパス。……悪いな」

「いいえ」

エズは顔を赤く興奮させ、立ち上がり九十九の手を取った。

「有難き幸せ……! 少しでもあなた方の技術を教えてもらえるならこれに越したことはない! 本当に恩にきりますぞレッセイ・ギルド! 教えを許していただけるとは……!」

そういうと今度は地面に膝をつき、土下座した。周囲がどよめく。九十九は慌てて、

「これは俺が勝手にやってるんだ。師匠たちから許しを得ていない」

「! それは……いいのですか」

エズは顔をあげて心配そうに九十九を見つめる。

「いいんだ。とにかくあの模型通りに作って。そしたらまた別の話をする。あれが回路の基本形だ。ホントは数えきれないくらいの形があるけど、とりあえずあれだけから始める」

「わかりました。しかしツクモ殿、なぜ我々を助けてくれるのですか?」 

「別に。理由なんてない。俺がそうしようと思ったから。嫌だった?」

まさか、とエズは笑った。九十九はまた明日来る、といって去っていった。

「エズ様、額が汚れて」

「なあに、こんな汚れなど……それよりこの模型を見ろ! なんと精巧であることか……」


それは本当に人の手で彫られたのかと思うほど、精緻な雪の結晶の姿であった。


「皆よ! これが見本だ。レッセイ・ギルドがお与えになってくださったものだぞ!」

ざわざわと作業をしていた従者たちが集まり、それを手に取って感嘆の声をあげた。

「さあ、難しかろうがこの通りなんとか作ってみるのだ。なに、材料はいくらでもある!」

そういってエズは、再度水晶を彫り始めた。他の者たちも模型を手に取り、眺めながら改めて彫刻を続ける。その様子を満足げに見渡しながらヴァルルはロサの中に戻った。

(ついにレッセイが味方になってくれた……! 一人だけとはいえ、本当に有難い)

ヴァルルは朝食の配給のためにテントに向かった。だが……そこをふらりと何人かのロサたちが前をふさいだ。皆、表情が土気色だ。

「ヴァルル様……」

「ど、どうした」

「体がだるくて……俺のばあさんは結晶化したってわかりました。他にも、結晶化した連中がいる。変じゃないですかい……この頃、寝つくものが多い。そのあと……結晶化してる奴がほとんどだって他の村から話が聞こえてきやした」

「私の村もです……もしかして結晶化が……流行っているんじゃないですか」

「うちの村じゃ眠ったまま中々起きない奴も出てきてる。どうなってるって言うんだ!」

「皆、落ち着け!」

ヴァルルは人々の勢いに押されながらも、

「結晶化は突然おこるもので、流行るという事はないんだ。確かに今結晶化が増えているのは認識している。しかしそれは今までもあったこと。どうか落ち着いてほしい」

「……」

「眠ったまま起きないというのは気になる。結晶化とは違う、何か別の病かもしれない。お前たちのいう事はよくわかった! 僕がちゃんとアルタ様や騎士長に伝える。安心してくれ」

「……わかりました」

そういって人々は下を向いたまま散っていった。ヴァルルは額の汗をぬぐう。

他にもおかしな症状がでてきているのか……。

ヴァルルはテントに向かい、配給を始めながら、


(アルタ様といい……一体ロサに何が起きているんだ?)


お読みいただきありがとうございます!

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