④
「……!」
アルタは妙な痛みを感じて目を覚まし、身を起こした。
「つっ……なに?」
足のかかと部分がチクチクと痛む。なにか踏んだかしら? そう思って毛布をどけるとアルタはかかとを寄せた。
「……!」
手で触ると固いこわばりがあった。
強く押すとごつごつとした感触が中にある。
アルタは息を飲んだ。この感触、嫌でも覚えがある……。弟の足も最初こうだった。
(結晶症候群……!)
アルタはばっと辺りを見回した。誰もいない。ホッと息をつく。今この状況を知る者はアルタ以外誰もいない。
(……)
最初に頭をよぎったのは棺に納められた弟のヴランシュ。それからエズ、ヴァルル、ロサの人々……。
ついに来る時が来てしまった。
アルタは両手で口を覆った。叫んでしまいそう――結晶化は治らない。いずれ近いうちに――死ぬ。
死、死、死。
アルタは半笑いに顔を歪める。今までどれだけ人々が結晶化で苦しもうと、亡くなろうと、強くいましょう、希望を持ちましょうと先頭に立って言ってきたのは自分ではないか。それはロサの惣領として当然の行動だったが――なのに我が身に災いがふりかかって初めてその絶望を知った。身体が冷たい石になっていく恐怖。やがて訪れる絶対の死。
(私が死んだらロサはどうなってしまうの)
アルタが死ねばロサ家は途絶える。騎士たちがその代わりを――担えるだろうか?
国民達はアルタのカリスマ性で引っ張られていると言っても過言ではない。そのアルタがいなくなればロサ・エスファナは瓦解するかもしれない。アルタはロサ・エスファナそのものなのだから。
(……とにかく今は内緒にしないと)
事が露見すればロサに動揺が走る。幸い、今はまだ足の違和感があるくらいだ。
(隠し通してみせるわ。でも)
エズ達騎士にはいずれ――話さなければなるまい。ロサを託すことになるのだから。
アルタの脳裏に、結晶に侵され声が出なくなる前の弟の静かな表情がよみがえった。
姉上
もう僕は何も怖いものはありません
だけど心配なのはみんなと姉上のことです
姉上なら大丈夫、どうかロサをお願いします
(ああ)
アルタは枕に顔を押し付けた。シーツを握る手が震える。
(ヴランシュ……あなたは一度も恐れを見せなかった。なんて強い子。いつでも笑顔で、最期まで微笑んだまま生を終えた。でも……私は、怖い! お願い、姉さんの傍にいて……!)
アルタの目から涙がこぼれる。ふと、脳裏に浮かぶ人物の姿があった――それは、
(九十九)
九十九に会いたい。アルタは無性に彼に会いたくて仕方なくなった。布団から飛び出し、靴を履くとテントから急いで出た。
「アルタ様? もうお加減は良いのですか」
テントの前に待機していたレナスが声をかける。外は既にもう夜だった。
「あ、あのちょっと外に行きたいの」
「アルタ様、今はもう夜半でございます。門は締めてございますから」
「……そ、そうね」
「どうかしましたか」
アルタに近づいてくる人物がいた。エズだ。
「その……いえ、なんでもないわエズ。今はいいわ。このまま寝るわね。あとを任せていい?」
「もちろんです。……女官を呼びますか?」
「人はいらないわ。本当にすぐ、寝るだけだから」
そう言ってアルタはおやすみなさいとロサのテントに戻った。エズは少し首をかしげながら、
「……レナス、引き続き待機していてくれ」
「御意」
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