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「おほ、干し肉にドライフルーツ、茶、それにこれは魚の干物だな。どこで手に入れたのか……豪勢なもんだ!」


六十九は焚き火を目の前にアルタ達が持ってきた食料を並べて手を叩いた。

「それに水! カブカブ飲めるのは何日ぶりか!」

「六十九」

「わーかってら、一二三。奴らの術中には嵌まらん。しかし有難いものは有難い」

そういって六十九は干し肉を噛みちぎった。うん、うまいと咀嚼する。

「みたことない果物だな」

九十九は飴色の干した果実を口にする。ほんのり甘酸っぱさが広がった。

「果物なんて滅多にお目にかけないからなあ。大事に食えよ九十九」

「茶を入れてみました」

九十五が湧かせた水に茶葉を入れる。湯の中で茶葉が広がってしばらくすると琥珀色へと変わった。九十五はそれぞれのコップに茶を入れていく。

「どうぞ師姉上(あねうえ)

「ありがとう、九十五」

七十七はコップを受け取ると匂いをかぎ、一口、口に含んだ。

「あらおいしい」

「茶を作る製法を知ってるとは。我々はせいぜい根を干したものを煎じて飲むくらいだ」

「あれほどの大集団ならそういう技術を培っていたとしてもおかしくはないわね」

そういって七十七は遠く、ロサの方面を見ながら言った。


ロサの宿営地には点々と明かりが燈っている。もう夜だ。空には宝石箱をひっくり返したような星空が広がっているが、ロサの暖かい営みの光はその一部の様だった。

天の星と、地の星。

レッセイたちはこれほど大規模な「他人」の群れと出会うのは初めてだった。もしかしたらもっと昔に亡きレッセイ達が出会っていたかもしれないが……六十八たちにとっては未知の出会いである。


「まあしばらくは九十五の言う通り、いただける物はいただくさ。どうせ奴らは回路を使えないんだし」

「……それ、どういう事?」

肉を口にしていた九十九がふと疑問に思って六十九に尋ねた。

「修行するには遅いってこと?」

六十九がいぶかし気な顔をし、六十八へと視線を移す。

「お前なあ」

「話すつもりはある」

「言いたくねえんなら俺が言うぜ」

「いや……」

六十九はため息をついて、茶をすすった。九十九は納得できず、

「なんだよ師匠たちだけの隠し事かよ」

「そうじゃねえ。六十八が思いのほかセンチだったってだけだよ。そのうちわかる。さあ食おうぜ。これ今夜の分だろ。明日も持ってきてくれるってなら全部平らげちまおうぜ」

「干し魚をあぶると美味いですよ。ほら九十九」

「ありがと師兄上(あにうえ)

木の枝に刺さった干し魚をくわえて九十九はもしゃもしゃと食べた。先ほどの話題は気になるが、久々の豪勢な食事に思考はかき消される。

「ロサとやら、いつもこんなの食べてんのかね」

「今回は特別だろう。我々に恩を売っておきたいだろうからな」

レッセイ達は食事を楽しみ、たわいない会話をしながらやがてごろりと横になった。それぞれ、好きなように寝るまでの時間を持て余す。

九十九は頭の鉢巻きをほどき、刺繍をしている七十七の傍によってその様子を眺めた。七十七の鉢巻きは黒。そこに露草の刺繍が施してある。

「七十七姉はうまいなあ。また手を加えてるの?」

「前面だけだったから、今は側面に入れてるの。九十九も上手いわ。布地を織るのもすぐ上達したし、……あなたは器用ね。私は師匠にお尻を叩かれながら猛特訓の末の賜物なのよ」

そういっていたずらっぽく七十七は笑う。九十九は表情を崩し、

「俺に織りと刺繍を教えてくれたのは師姉上(あねうえ)だよ。始めは師匠が教えてくれたけどさ、上手いから師姉上(あねうえ)に教えてもらえって。それで正解だったって思ってる。俺は刺すより織るほうが得意なんだけど……そういえば師匠もそうだったっけな」

「一二三の……六十八の藍色の鉢巻きは四十の師伯父上(おじうえ)の鉢巻きを裂いて、他の布とあわせて織ったものなのよ。顔料でさらに染めたみたいだけど」

「……師匠の、師だよね。前の一二三」

「そうよ。託されたものをつないで、織ったもの。元が藍色に近い色だったからそれと似た色を混ぜて……新たに露草の刺繍を入れたのだわ」

「師匠にも師匠がいたんだってなんだか想像つかないや」

「あなたと入れ違いになったの。九十九を弟子としたとき、前の一二三は結晶化で身体を蝕まれていたから置いていけと言った。そして六十八の師兄上(あにうえ)はその通りにしたの……。師兄上(あにうえ)を最高のレッセイ・ギルドに育てた人だった」

「……」


九十九は想像してみる。

自分を、赤ん坊の頃から慈しんで育てた師を、なす術もなく置いていく六十八の姿を。

きっと無表情で感情をあらわすことも無く、命令通りに去っていったであろう六十八の心を。

六十八は厳しく九十九を育てたが、単なるスパルタではなく一人前にするだけの愛情をかけてくれた。六十八もそう、育てられたはずだ。大事な師を置いていった六十八を想い、九十九はちくりと心が痛んだ。


いつか――自分も師を、六十八をどこかへ置いていく日が来るのだろうか。

いや、結晶世界に生きている限りその可能性は十分にある。


(いやだ)


九十九は頭を振った。

(俺は置いていかない。師匠を見捨てるなんてできない)

だが六十八が命じたなら逆らえない。掟に反するから。師の命は絶対だ。

(掟)

九十九は七十七が布に糸を通す所作を見つめながら思う。


(掟って――なんだろう)


今までただレッセイの掟だからと従ってきたが、ふと九十九の心の中で疑問が湧いた。

(アルタ達と関わってはいけない、それも掟だ。なぜなんだろう)

「九十九、これを」

九十五が刺繍の入った厚手の布を渡した。

「そろそろ眠いんじゃないですか、そんなにじっと師姉上(あねうえ)の手元を見つめて。昔はよくそのまま眠ってしまったものだ」

「子ども扱いしないでくれよ、師兄上(あにうえ)。でもそうだな……そろそろ寝ようかな」

そういって九十九は一度起き上がるとうんと伸びをして布を地面に敷き、横になるともう一枚を胸までかけ、そしてパチパチとはぜる焚き火の音を聞きながらやがて眠りに落ちた。

「七十七、お前もそろそろ切り上げて寝ろよ」

六十九が言うとはあいと、七十七が針をしまう。九十五はすでに眠ってしまったようだ。

「今日は見張りはいらんだろ。なにかありゃ、ロサ(あっち)が反応してくれるさ」

「うむ、だが油断はできん。例え緑生い茂る場所と言えども、ここには「我々」がいるのだから」

六十八は苦い顔をして言った。


そしてその予感は的中したのである。


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