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「クリスタリスを倒すことができる……!?」


ロサ・エスファナでは緊急の集会が行われていた。

アルタにエズやヴァルル達騎士、そして長達がロサのテントに急ぎ集められたのである。


「俄かには信じられません」

ヴァルルが戸惑いの表情(かお)で言った。

「クリスタリスを人間が倒すなんて……」

「だがしかしこの目で確かに見たのだ」

エズは腕を組んで簡易な椅子……ロサの彼らにとっては玉座————に座っているアルタの横に立ち、真剣なまなざしで皆に訴えるようにして答えた。

「その様子はアルタ様も見ておられる」

その通りです、とアルタは指導者の顔で言った。

「彼らは天を貫けと言わんばかりの巨大なクリスタリスを倒し、砂にしてしまいました。それだけでなく、獣形のクリスタリスもあっさりと」


場は鎮まっている。それぞれ顔を見合わせて……大半は――信じられないと言った顔だ。

ヴァルルはおずおずと、

「それでその――「レッセイ・ギルド」とかいう彼らをどうしようと」

「彼らはクリスタリスに対抗できる不思議な技術を持っています。まるで雪の花でもって相手を圧倒するような……私達はその技術を伝授してもらえないかと乞い願いました。しかし拒否されてしまった。彼らはとても頑ななのです。彼らは独自の絶対の掟に従って生きている。他人と関わることはしないと――それが掟だからと。私が思うに彼らは何らかの技術集団なのではないかと思っています。たった五人ですが……」

「どうしても彼らの技術を知る必要がある」

エズがアルタの言葉を継ぐ。

「クリスタリスを倒すことができるほどの技術を得れば、我々は生き延びることができる。結晶世界をもっとずっと易しく生きていくことができるのだ。彼らに会った時、たまたま彼らの食料と水はつきかけていた。だから食料と水を提供する代わりにここまで来てもらった」

「技術を渡してくれるわけではないのに?」

「そう言うなヴァルル。時間をかけて彼らと交渉するためだ。すぐに(すべ)を教えてもらえるとは思えない。だから……悪い言い方をすれば彼らを手なずける必要がある。どうにかして我々ロサと交流を持ち、技術を伝承してくれるように仕向ける必要があるのだ」

「……我々の宿営地にもやってこない連中を、ですか?」

「彼らはクリスタリスを倒した。それは絶対だ。結晶世界の希望の光だと私は信じている」

「人類の救世主といっても過言ではありません」

アルタは騎士や長達に話しかける。

「しばらく彼らに食料と水を渡しながら、心の交流をはかりたい……私はいずれ彼らをロサに招きたいと思っています。たった五人、結晶世界で生きていくには過酷なはず。技術うんぬんだけではなく、共に結晶世界を生きて行けたならば心強い。互いに良い結果を生みましょう」

「……」

ヴァルルは半信半疑の表情を崩さない。長達も皆それぞれ微妙な顔をしている。

「とりあえず長達には彼らの存在を皆に説明してほしいのです。食料と水を分ける以上、それなりの理由がないと納得しない者もいるでしょう。これは私の言であることを広く周知してください。くれぐれもよろしく頼みます」

「では、とりあえず食料と水ですね」

少し諦めたかのようにヴァルルがエズに伺いを立てた。

「まずはどれほど?」

「夕食ぶんを。今は昼を過ぎている。準備がかかるからと、それだけ渡す。明日は朝食分と昼食分を。明後日は一日分を。できるだけこの地につなぎとめねば……」

「去ってしまうのでは?」

「彼らもこの緑の大地を捨てるのは惜しかろう。しばらく滞在すると見た。そういう意味では……雪解け水の川が枯れて緑の恩恵がなくなるまでが、タイムリミットと言えるな」

「わかりました。すぐに用意して届けますよ。少し先に宿営しているんですよね?」

「彼らの元に食料を届ける際は私も同行します」

アルタはヴァルルの目を見ながら続ける。

「彼らは最上の客人です。私が動くことで皆に彼らが特殊な存在であることを信用させねば。事実、彼ら……レッセイ・ギルドはクリスタリスを倒せるのですから」

「これから我々の運命が、ロサ・エスファナの行く末が大きく変わるかもしれないのだ。覚悟のしどころだと思ってほしい」

エズは拳を振り、集まった人々に強く訴える。長達はアルタに従うと言い、会議は終わった。

皆がロサのテントからぞろぞろと出て行く。なにやら重要なことが話されたようだと感じたロサの民たちがその様子を横目でチラチラと見、興味津々の顔でそれぞれの村の長たちを追っていく。

ヴァルルは従者たちと共に食料庫用のテントに向かい、干し肉や濾過した水など五人分の食料をまとめた。彼らは一日二食が基本だ。旅をしている間は糧も豊富ではない。一食しかとれないときもある。だがこうして豊かな出会いがあるときは一日三食とっている。

(結晶世界は一日一日を生き延びられるだけで奇跡)

荷物をラクダに乗せながらヴァルルは思う。

(そのための糧をロサに入るわけでもない連中にわざわざ分けるというのはやはり納得いかない。けれど……アルタ様の御命令だ。騎士である以上、王のいう事は、きくさ)

ヴァルルは入り口で待て、と言って従者を送り出した。そのままロサのテントに戻ってアルタに準備ができたことを告げる。

「門で待たせてます。いつでも行けますよ。ほかに何か必要なものは?」

「ありがとうヴァルル。ついでにテントの用意を。あの木陰だけでは心もとない」

エズと何か話していたアルタはヴァルルをねぎらって、では行きますと玉座を立った。

「私も行きます。アルタ様をお守りせねば」

エズも椅子から立ち上がった。

「あ、あの」

「どうしたのヴァルル」

「あの……僕もついていっていいですか?」


クリスタリスを倒せるという人間がどんな連中なのか見てみたい。


「それは構いませんが、失礼のないように」

「もちろんです」

三人はテントを出て、集落の出入り口――門に向かった。

ヴァルルの従者のレナスやエズの従者たちが三人、ラクダに荷をのせて待っている。

「ご苦労様です。行きましょう」

全部で六人、ラクダのほかに鳩の入った鳥籠も念のため連れ、アルタ達はロサから百メートルほど離れた場所に宿営しているレッセイ・ギルド達の元へ向かった。

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