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97話 炎獄の魔剣使い

 ヨーゼルが人の背丈ほどもある分厚い刃の大剣―金剛を手にすると、場の雰囲気は一変した。



(あれが……若き日のヨーゼル・セフィラスが振るっていたという……)



 黄金色に輝く金剛の斬撃はまるで斬った闇を浄化していくかのように、漆黒の霧を払っていく。



「な、何だあれは……ヨーゼル校長はあんな大剣を……?」



「いや、そういえば聞いたことがある。若い頃の校長が騎士として名を上げていた時に伝説の"聖剣"を手にしていたと……」



 驚嘆する周りの騎士たち。

 年老いたヨーゼルは杖による魔法を中心としているが、彼が最強の魔法騎士として名を馳せた時は金剛を武器として振るっていたのだ。



「我が聖剣、金剛はあらゆるものを断ち切る。お主の闇の魔法とて例外ではない」



 そう言うとヨーゼルは全身に強化(ライズ)をかけ、金剛を手に接近した。

 ハルファスの対抗するべくレイピアを手にする。



「ぬぅえぃ!!」



「う……ぐっ……!!」



 強烈な斬撃が次々に繰り出され、ハルファスが押されていく。

 魔法同士の対決なら彼の使う闇の魔法に分があったものの、この剣による接近戦はヨーゼルの方が優勢だ。



(これほどのパワーを持っていたとは……!)



「はあああっっっ!!」



「ッッ……!!?」



 金剛による一撃がハルファスのレイピアを遂に叩き折った。

 さらにヨーゼルは追撃を備える。



(……! これを喰らうのはマズい……!!)



 恐れを抱いたハルファスは翼をはためかせ、上空へと退避した。



(上に逃げおったか……しかしどうするつもりじゃ?)



闇乱弾(ダーククラスター)!』



 球状になった闇のガスを生み出したハルファス。

 その闇が弾け、いくつもの球になってヨーゼルのもとへと降り注ぐ。



 しかしヨーゼルはそれを物ともせず、一つ一つの球を的確に斬り裂いて浄化していった。



(ぐぅっ……小癪な……!!)



 さらに金剛を両手に持ったヨーゼルは全力の突き技を放つ。



聖砲天翔墜せいほうてんしょうつい!』



「!!」



 放たれた突きの一撃は天へ昇っていく龍のようで、猛烈な破壊力を伴っていた。

 そしてハルファスの翼の片翼に風穴を開ける。



「がっ……!」



 2つある翼の内の1つを破壊されてはハルファスも飛ぶことが出来ない。

 バランスを崩して落下した。



「あれがヨーゼル校長の本気なのか……」



「強い……全てを、全てを超越してる……!」



 騎士たちはヨーゼルの圧倒的な強さを目の当たりにし戦慄すらも覚えていた。

 そして彼はハルファスにトドメを刺すべく近づいていく。



「ここらで終わりにしようぞ、ハルファス」



(馬鹿な……この私が、敗れるというのか……!?)







 まるでガラスを破るようにして空にヒビが入る。

 競技場で戦っていた者たちの目はそこに釘付けになっていた。



(何なんだよ……これ……)



 しかしユーズはそれどころでなく、加速度的に早まる心臓の鼓動とまるで全身の血が逆流するかのような不快感に苛まれていた。

 さっきジーナ・エルローズとの戦いの最中と同じ、いやそれ以上の……。



 そして空が勢いよく割れると、突如としてそこから黒い人影が地面に降り立つ。



「一体何者だ……秘密結社(アルカナ)の援軍か」



 アルゼラが身構える。

 現れた男はやはり秘密結社(アルカナ)のコートに身を包んでいたが肩に羽根が付いているデザインで、フードを深く被っているためその表情は全く伺えない。



「おいヴァレフォール(・・・・・・・)、テメェ一体何をしに来やがった。今回の作戦でテメェが参加するなんざ聞いてないぜ」



 ダンタリオンが忌々しげに男へと詰め寄った。



「俺はお前たちに己を委ねはせぬ。ようやく渇する同胞(はらから)を見つけたのだ」



 そう言うとヴァレフォールと呼ばれた男は剣を抜き上空へと掲げる。

 すると剣から赤黒く輝く炎が揺らめき始めた。



「チッ!」



 アスタロトと舌打ちしたダンタリオンは即座に近くを離れた。

 アルゼラもただならぬ気配を感じたのか、咄嗟に大波濤(シュトローム)で周りを囲う。



「……! 馬鹿な、どういうことだ……!?」



 剣より放たれた黒炎は次々と周りに着火していく。

 しかしそれはアルゼラの水の魔法による壁すらも灼き尽くし始めていた。



 本来火の魔法は水の魔法によって消化されるのが当然の摂理、しかし黒い炎は決して勢いを弱めることなく燃え続けていく。



「……くっ!」



 思わずアルゼラは大波濤(シュトローム)を解除する。

 このまま行けば水の壁ごと灼き尽くされかねない。

 しかしそれは防御を解いたということ、いきなり目の前に接近していたヴァレフォールに対応が出来なかった。



「!! ……ぐあっ!」



 ヴァレフォールによる膝蹴りが直撃、アルゼラは吹き飛ばされる。



「くそっ、あのイカレ野郎……!」



「余計な手出しをするな、死ぬぞ」



 怒り心頭という様子のダンタリオンをアスタロトが諌めた。

 どうやら2人すらもあの黒炎に対して恐れを抱いているらしい。



 邪魔者を排除したヴァレフォールはゆっくりと歩を進める。



「……探したぞ」



「ハァ……ハァ……何、だと……?」



 フードに覆い隠された顔がユーズを見下ろす。

 よくは見えないが、何か目的のものを得たと言わんばかりの笑みを浮かべている。



「この出会いは運命(さだめ)だ、兄弟。さぁ俺と共に来い」



「ふざけるな……訳の分からないことを……」



 間違いなく目の前の男は危険で邪悪、ユーズの本能がそう告げていた。

 彼は立ち上がり零華を抜く。



「それがお前の"氷"か。良いだろう、どれほどの力なのかここで示してくれ」



「フエル、すまない。ここは危険だ、離れていてくれ」



「ゆ、ユーズ君……」



 フエルはこちらを不安気な目で見ていたがゆっくりと後ずさるようにしてユーズたちから離れる。

 それを見届けたからなのか、ヴァレフォールは突如斬りかかってきた。



「ぐうッ……!」



 至近距離で鍔迫り合う斬撃。

 だがヴァレフォールの剣が纏う魔力がどんどんと強くなり、零華の氷が飲み込まれそうになる。



(このままじゃ……くそっ……!!)



 しかしユーズの意思にまるで応えるかのようにして鼓動が大きくなっていった。

 さっきジーナに追い詰められた時、いやそれ以上だ。

 身体の奥底から何かが溢れてくるような感覚。



「うああぁぁっ……!!」



 まるで雷のようにユーズの身体から魔力が迸る。

 それを見ているヴァレフォールは目を見開き、不敵に笑った。



「そうだ、その力(・・・)だ。お前に秘められし"器"たるその証を解放しろ……!」



「うおおおおっっっ……!!!」



 その言葉が何なのか、今のユーズには意味を理解できなかった。

 しかし戦って皆を守るためにはこの力が必要なのだということは分かっていた。



(……あれは、一体……ユーズ……君は……!)



 アルゼラは再び驚愕していた。

 感じる圧倒的な魔力、何より畏怖という感情すら感じざるを得ない。



 零華から放たれる凄まじい冷気、青白く輝く魔力が刀身を覆っていき、黒炎すら凍てつかせていく。

 しかし何よりユーズの身体に変化が起きていた。



 左胸に刻まれた雪の結晶を模したような黒い紋章、それを起点にして紋様が半身に広がっている。

 それはユーズの左眼を貫くようにして額まで届き、その瞳には胸のものと同じ形が浮かんでいた。

 加えて左眼は赤く変色し、それが異様な魔力による影響だということを強調する。



「はあああっ!」



 ユーズは力を大きく増した零華を振り抜き氷を伴った斬撃によってヴァレフォールを後ろへと下がらせた。

 そしてヴァレフォールのフードが衝撃によって飛ばされ、容姿が顕わになる。



(え……あれって……)



 傍から見ていたフエルが驚き、その顔を見つめる。

 ヴァレフォールは漆黒の如き深い黒髪と光の無い深紅の瞳を持ち、その容姿からは冷徹さと剥き出しの刃のような危うさを感じさせた。



(似てる……ような……)



「折角だ、愉しませてくれ。簡単には終わるなよ」



 ヴァレフォールはさっきまで力を出し惜しんでいたのか、右手の剣が赤黒い炎を纏っていく。

 さらに彼の右半身にもユーズのものと似たような黒い紋様が急速に広がり、それと共に魔力が強さを増す。



「我が魔剣"百禍(ひゃっか)"の黒炎とお前の氷……試してみようではないか」



(来る……!)



 ユーズの持つ零華から発される青白い氷の魔力、ヴァレフォールの持つ百禍から発される赤黒い炎の魔力。

 対極を思わせる2人の剣がそれぞれの光を纏いながら交錯した。

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