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96話 風に導かれし邂逅

 フエルは叫んだ後、息を荒くしながらじっと男を見据えていた。

 彼が兄と呼んだ存在―アスタロトを。



(兄さん……? どういうことだ)



 俺は直ぐに状況を理解できなかった。

 秘密結社(アルカナ)の幹部がフエルの兄である筈などないと、そう思っていた。



「あんなこと言ってるぜ? 本当にテメェの弟なのか?」



「……」



 アスタロトは答えない。

 無言のまま、右手に魔力を収束させていた。



(! マズい……)



『終極をもたらす破滅の烈風、希望を引き裂き死への恐怖と慟哭を響かせよ! 響荒葬嵐(テンペスト)!!』



「!!」



 自然災害と見紛うほどの大規模な竜巻が発生してフエルに襲いかかる。

 こんなものを喰らえばまず命はない。



「危ないッ!」



 身体を強引に動かしてフエルのもとに。

 そしてとっさに氷塊(フリギ・スクトゥム)によってかまくらのように全方位を囲む。



「ユーズ君!」



「うっ、ぐああぁっ……!!!」



 僅かでも魔力を緩めれば遥か上空に巻き上げられ行き着く先は文字通りのボロ雑巾だ。

 凄まじい勢いで氷の盾は破壊されていくが、残る魔力全てを注ぎ込むつもりで再生していく。

 しかしこれだけの魔力放出は死の苦しみ。



「ゆ、ユーズ君……!」



「ハァ……ハァ……っう……くぅ……」



 どうにか耐えたようだが身体がもう言うことを聞かない。

 どちらにせよこのままでは……。



「に、兄さん! お願いだよもう止めて! 僕の友達なんだ!!」



「……」



 フエルが懸命に叫ぶ。

 だが鉄仮面を貼り付けたような冷徹さを携えたアスタロトは眉一つ動かなさい。



「兄さんは優しい人だった。絶対に人を無意味に傷つけるような人じゃない、だから……」



「俺はもうお前の知る人間じゃない。かつての俺は監獄の中で死んだ、俺は……秘密結社(アルカナ)のアスタロトだ!」



 しかしアスタロトは眼をカッと見開き、フエルに向かって再び右手を構えた。

 そして放たれたのは真空弾(ウィンドバレット)、幾つもの真空の弾丸がフエルの急所を狙って撃ち出される。



「そこまでだよ。ラファール(・・・・・)



「!」



 アスタロトが放った数と軌道、それと同じものが放たれ相殺する。

 青みがかった長い白髪とローブをはためかせながらアルゼラ先生が降り立った。



「アルゼラ先生!」



「上の方をティルディス殿下とブラッドが助けに来てくれてね。こっちの方がピンチみたいだったから」



 先生が倒れた3人とユーズを一瞥する。



(ユーズは激しく消耗していたとはいえ、あの3人がこうもアッサリと負けるとは……やはり秘密結社(アルカナ)の幹部となると実力は大いに水を開けられている)



 幹部2人を相手にして自分も勝てるかどうか、アルゼラは最悪刺し違えることも覚悟の上だったのだ。



「……久しぶりだねラファール。君のその力は未来ある生徒たちに向けるべきものじゃない、ここは僕を相手にしてもらおうか」



「ご無沙汰しています。しかし……未だに教師のような物言いとは、アルゼラ先生は状況を理解しておられないようです」



 アスタロトはより一層激しく魔力を発現させた。

 それを見たダンタリオンが近づく。



「ペラペラとお前らしくねェな。ま、何でもいいが邪魔なのは全員消しちまっていいんだよな?」



「……当然だ」







 他方、ヨーゼルとハルファスの戦いは遂にハルファスがその正体を現し、第二の局面に入っていた。



「だがそろそろお喋りはおしまいにしよう。私の力で今から貴様を殺す」



「……」



 恐らくその言葉に偽りはない、ヨーゼルは確実にさっきまでのハルファスと違うことを感じていた。



(多少身体への負担は大きいが、やむを得ん……!)



 もう一度ヨーゼルの周りには火属性、水属性、地属性、風属性の4つの魔法陣が現れた。

 再び最強の魔法攻撃を以て決着をつけるつもりなのだ。



四魔殲滅弾フォースカタストロフィー!!!』



「何度やろうと無駄だ。今の私に貴様の魔法など無力」



『暗黒招来。最果ての虚空よ、光届かぬ深遠の彼方へと万物を還し給え 無限虚無(ブラックホール)!』



 巨大な黒い渦がハルファスの前に現れ、ヨーゼルの放った魔法弾を全て飲み込んでいく。



「よ、ヨーゼル校長の魔法が吸収された!?」



「あれが闇の魔法……!」



(今のワシに出来る最強の攻撃を全て喰らうとはのう……やはりさっきまでとは比べ物にならぬ、か)



 ヨーゼルの額から一筋の汗が流れる。

 彼が戦場においてこれほどの緊張を覚えたのはいつの頃だっただろうか。

 自分自身でも忘れかけていた感覚が蘇る。



(じゃが闇属性魔法であれば対抗は出来る……!)



 ヨーゼルの杖先に光が集まっていく。

 例え如何に強力な闇の魔法でも相性によって超えられると踏んだ。



聖光一閃(ホーリィライン)!』



 凄まじい熱と威力の巨大なレーザーが発射される。

 だがハルファスは動じることなくその場から動かない。



「言った筈だぞ。無駄(・・)だとな」



(……!! 何じゃと……!?)



 ヨーゼルの放った聖光一閃(ホーリィライン)はハルファスの身体を覆う、流動する闇に飲まれて消滅した。



(ワシの唱えた魔法(もの)は決して低位階ではない……相性の良い闇属性魔法に対しては十分なほど効果がある筈……!)



「フッ、クク……貴様とて驚くのも無理はないか。闇は光によって消え去る、それが魔法の常識であり鉄則だからな」



「……!」



 ハルファスの妖眼(オッドアイ)が細まり、牙が覗く口元には笑みが浮かぶ。



「だが私は貴様らの想像など遥か上をゆく。闇の魔法の本質は……"喰らう"ことだ! 対象の魔力を喰らい尽くし、死に至らしめる。それが闇の最も強力な特性」



「確かに特定の闇属性魔法は魔力を吸収する性質を持っておる。じゃが……お主のそれは……」



 ヨーゼルが恐れすら抱くのはハルファスの周りを覆っている闇の魔力。

 高度な光属性魔法すらも吸収してしまうほどの力は彼とて見たことも聞いたこともない。



「私はその本質を極限まで引き出す(すべ)を得た。それは気高き()と私自身の研鑽によるもの、長年の追究によって到達した魔法の極致という訳だ」



「かつてお主があの研究(・・・・)に関わっていたのは、己の力のためだったということか……!」



「ふ、その過去を知っておきながら私を教職へと迎え入れた貴様の甘さには敬服さえ出来る。だが今はそれを呪うがいい、今から貴様自身の甘さが貴様を殺すのだ」



 そう言い放ったハルファスは自身を覆う闇を一気に増加させた。



「!!」



漆黒闇霧(シャドウミスト)



 一切の光を通さない黒い霧が結界中に立ち込める。



(これは……!)



 体内の魔力が急速に吸い取られている。

 この黒い霧に触れている影響だろうか。



「くっ……!」



 ヨーゼルは光の魔法によって霧をかき消そうと試みるが、全く効果がない。



「さぁこのまま闇に喰らい尽くされるつもりか? ヨーゼル・セフィラス」



 完全に漆黒の霧に包まれた結界内、しかし突如としてその霧が薙ぎ払われる。



「!!?」



「フォフォフォ……本当に久しぶりじゃのう。ワシがこれを握ることになろうとは」



「貴様……それは……」



 ヨーゼルは背丈をも超える巨大な大剣をその手に持っていた。

 薄く黄金色に輝くその剣は見るものに圧倒的な威圧感を与えている。



『聖剣―金剛』







 アルゼラ先生は息を切らしつつも、アスタロトとダンタリオンの2人を相手に粘りを見せていた。



「こいつはどうだ?」



 ダンタリオンが爆発する石を生み出し、それをアスタロトが風で飛ばす。



大波濤(シュトローム)!』



 水の壁を発生させてそれを遮断するアルゼラ先生。

 だが追撃の手を緩めないアスタロトが一気に距離を詰める。



雷閃断(サンダーヴォルト)!』



 それに対し先生は手から迸る青い電撃を鞭のようにしならせた。

 触れれば一瞬で焼き切れる攻撃に、アスタロトも一旦跳び去る。



(ふぅ……やはり厳しいな。2人ともまだまだ本気を出していない、長引けば確実に負けるのは僕だ)



「やはり実力は健在ですね、先生」



 傍目から見れば互角に見えるがアスタロトとダンタリオンが底をまだ見せていないのは俺にも理解できた。

 しかし満足に動けない今の俺が割って入ったところで足手まといになる可能性が高い。

 今はフエルに危険が及ばないよう気を配るしかないだろう。



「!」



 しかし次の瞬間、3人の動きがピタリと停止する。

 無論何か魔法によるものではない。

 何か強烈な気配と魔力、それが3人の意識を戦いとは別のものへ向かせたのだ。



(何だ……この気配と胸騒ぎ……!)



 それは俺も例外ではなかった。

 心臓の鼓動がやけに大きく、早い。



 それ(・・)はもうすぐそこまで迫っていた。



「おいおい……どうなってんだ? こんなの聞いてないぜ」



「作戦予定外だ。何故()がここに……」

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