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95話 大いなる闇

「俺の名はダンタリオン。お前らが死ぬ前、最後に覚える名前だぜ」



 背の低い方の黒コートが軽い調子で名乗る。

 だがハルクは両手をガッチリと合わせて臨戦態勢を取った。

 決して油断はしていない。



「じゃあ頼むぜアスタロト」



「……」



 ダンタリオンがそう言うと、背の高い方の男―アスタロトがダンタリオンの背中に手を当てる。

 さらにダンタリオンは右の腕を捲くった。



爆滅者(デストラクター)



(何を仕掛けてくるつもりだ? ここは先手必勝!)



 ここでハルクは脚に強化(ライズ)をかけ、正面から突っ込む。

 相手が何かの準備を終える前に主導権を握るつもりだった。

 しかし……。



(!? 疾っ……!!)



爆滅者(デストラクター)=四肢爆破(リム)



 ドォンという激しい爆音が響く。

 見るとハルクの顔面にダンタリオンの右腕がラリアットを放ったのだが、その右腕が爆弾のように爆発した。



「……かはっ……!!」



 その破壊力の前にハルクは一撃で倒れ込み、両腕を投げ出して動かなくなる。



「何だと……!?」



 自身と互角に戦ったハルクが一撃で伸されたことに驚きを隠せないアリウス。

 しかし即座に分析を始めた。



(今の奴のスピード……恐らくは後ろにいるもう1人による風の魔法と見ていい。だが今の爆発は……)



 人間の身体が爆発する魔法など見たことがない。

 しかし会場を連続爆破したのもあのダンタリオンの仕業であろうことは容易に想像できる。



『咎を滅ぼす七つの光、仇なす者に洗礼を与えん! 虹光槍(プリズムランサー)!』



 接近戦は危険、そう判断したアリウスが光の魔法を唱える。

 七色に光る槍が空中から勢いよく降り注いだ。



「!」



 広範囲への攻撃、光の槍が地面に次々と突き刺さっていったが、そこにあったのは黒いコートだけだった。



(何……! 何処へ!?)



 その後ろに回り込んだアスタロトが目にも留まらぬスピードを持ってアリウスへと蹴りを入れる。



「ぐはぁッ……!!」



 凄まじいスピードを乗せた蹴りはアリウスの身体を競技場の壁まで吹き飛ばした。



「おいおい、こんな程度か? 俺たちに挑むには一千万年早かったな」



「……これで残る障害は1つ」



 コートを脱ぎ捨てた2人の姿。

 ダンタリオンと名乗った男は目元まで覆う白の長髪と色黒の肌が特徴的な若い男だった。



 アスタロトの方は中性的な容姿であり、オレンジ色の髪を編んで後ろに束ね、右眼を囲むようにして鋭い流線型の赤い刺青が彫られていた。

 どことなく見覚えのある容姿のように思えたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。



「嘘……アイツらがあんな軽々と……?」



 俺に治癒魔法をかけていたシオンが驚愕する。

 試合で疲れが残っていたとはいえ、アリウスとハルクが一瞬にしてやられたのだ。

 普段は強気な彼女でも驚くのに無理はない。



「アンタ、動ける? ……いや、何でもないわ」



 シオンの唐紅色の瞳が俺を捉える。

 彼女の治癒魔法はまだ発展途上のようで、短時間ではそこまで身体を回復させることが出来ないようだった。



「言っとくけど私はそう簡単にやられないわよ」



 シオンが剣を構える。

 やはりあの2人と戦うつもりらしい。



「待ってくれシオン、奴らの狙いは俺だ。君がわざわざ戦うことは……」



「フン、くだらない理由でカッコつけたって無駄よ。……私は単にあの2人が気に食わない、理由はこれでOK?」



「シオン……!」



爆炎弾(フレイムバースト)!』



 挨拶代わりとばかりにシオンは火球を放つ。

 だが当たった手応えはない。



(また消えた……一体何処へ……)



「何度やろうとも同じだ。お前たち如きで俺の速度を捕らえることは出来ない」



「……!」



 いつの間にかシオンの真正面に立っていたアスタロトが右手で風の魔力を乗せた掌底を放つ。



「うっ……!」



 勢いよく吹き飛ばされて背中から瓦礫にぶつかったシオンはそのまま気を失う。

 あまりに早く3人がやられた。

 やはりこいつらの実力は尋常なものではない。



(くそっ……やるしかない……!)



 限界でも戦うしかない。

 俺は近づいてくる2人とまたしても1人で相対する。



「ま、まさか……いや、そんな筈……」



「フエル、どうしたんですか? 今気を抜いては……」



 観客席、白い怪物たちが湧いている場所でフエルがじっと競技場の方を見つめる。



「あの3人がやられるなんて……このままじゃユーズも……!」



 ローディはアリウスたちがやられことに驚き恐怖していたがフエルが競技場を凝視していた理由は別にあった。

 それを彼は小声でローディに伝える。



「! それは、本当なんですか……?」



「う、うん……もしかしたら……だけど。でも僕は……確かめなくちゃ……」



 だがそんな2人を狙って白い怪物が近づいてくる。

 アルゼラたち教師陣は終わりなき群れに囲まれており手が離せない。



「う、うわあ……! 来た……!」



『貪欲なる幽世(かくりよ)の扉、今開きて生者を喰らわん 魔空間(イービルドア)!』



 ローディが迎撃に闇の魔法を唱える。

 そして彼女は言った。



「今です。行ってきてください、ここは私が抑えます……!」



「ローディさん……うん、ありがとう!」



 フエルは慌てて階段を駆け下り、競技場の中へと転がり込んでいった。



「フエル! 何でここに……!」



 俺としてはこれ以上秘密結社(アルカナ)の幹部と戦って欲しくはない。

 恐らく勝てる生徒は存在しないだろうからだ。

 しかしフエルは俺の想像だにしない言葉を言い放った。



「兄さん……兄さんでしょ!?」







 ―学園屋上



 それぞれの魔法陣から、合わせて4つの属性攻撃が一斉に放たれた。

 凄まじい破壊力の魔法がハルファスを直撃し、誰もがヨーゼルの勝利を確信していた。



「あ、あの威力の攻撃……流石に生きてはいまい……」



「ヨーゼル校長の勝利だ!」



 しかし騒ぎ立てる者たちの間に、あることに気づいた者がいた。



「結界が……消えてない……!」



「!?」



 その言葉を聞いてざわざわと困惑の色を見せるギャラリーたち。



(その通りじゃな……ハルファスはまだ生きておる……!)



 その時、ハルファスの居た場所を覆っていた煙が突然晴れる。

 さらに鼓動のような、圧倒的な魔力がその場所からは迸っていた。



「流石だなヨーゼル・セフィラス。ここまで追い詰められることは私自身想定していたが、それでもいざとなると恐ろしさすら感じるものだ」



 話し口調の変わるハルファス。

 煙が晴れて視界に映る彼の姿は黒い霧に包まれ、まるで人間のようには見えない。



「……その姿、やはりお主……」



 何かを感じ取ったヨーゼルが続ける。



「歴史の彼方に消えた種族……如何に旧き世に君臨したとして……しかしこの時代ではお主のような者がそうした()を引き出すなど有り得ぬことじゃ」



「ククッ……クククク……フハハハハ!!! 白々しいぞヨーゼル!! 貴様ほどの者が知らぬ筈はあるまい!!?」



 そう……私は手にしたのだ。

 再び世に〈王〉として君臨し、己が血の気高さを人間どもに知らしめるため……!!!



「!!」



 ハルファスを覆っていた黒い霧が払われ、その真の姿が顕わになった。



「そうだ……畏れよ。これが〈王〉となる者の、気高き魔族の姿よ……!」



 青白い肌、見るものを魅力するとされる妖眼(オッドアイ)、時折覗く鋭い牙、天空を駆ける赤黒い大きな翼、そして何よりも全身から発される絶大な魔力。



(何たる禍々しさ……もはや)



「あ、あれは……何だ……?」



「まさか……魔族!?」



 結界の外にいた者たちはその人間離れした姿に驚愕していた。

 思わずその場から逃げ出す者まで現れる。



「数ある魔族の中でも最強と呼ばれた吸血鬼族。私はその血を引いているのだ、如何に貴様とて届かない。太陽が東から昇り西に沈むように……すなわち自然の摂理だ」



 ハルファスが勝ち誇ったように言う。



「人魔大戦の後に人間と交じることを決めた者が居たという。そして時が経った今、闇の魔法を使える者の中には魔族の血を色濃く引いた才覚ある者が居るとも確かに聞いたことはある。じゃがその力は……」



「私のこの魔力を訝しんでいるな? まぁ無理もない、普通ならば魔族の血を引いていたとしてこれ程の力を得るのは不可能だからな」



(まさか……いや……そんなことが出来る筈は……)



 ヨーゼルはハルファスがかつて優れた研究者だった過去を知っている、しかし具体的にどんなことをしていたか、その細部を知らなかった。

 今その頭に過ぎるものは……。



「だがそろそろお喋りはおしまいにしよう。私の力で今から貴様を殺す」

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