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94話 最強という名

 ヨーゼルとハルファスを包む黒い竜巻、それが到着した場所は学園校舎の屋上だった。



「ワシらが十数年と共に過ごしたこの学び舎を戦場にしようとはな。例え教師がお主の仮りそめの姿だったとしても、情は残っておらぬのか?」



「もちろん、楽しい充実した日々でしたよ。私とて想い出深いものに対して無益な破壊は好みません。学園(ここ)を我らが相まみえる場として選んだのは、貴方の墓標に相応しいと考えたまでのこと……」



 ハルファスがそう言ってから右手を掲げると、2人を包み込む巨大な四角形の結界が形成された。

 そうしていると2人を追って多くの教師や騎士たちが周りに駆けつけたが、強固な結界に対して手も足も出ない。



「……さて、始めましょうか。ヨーゼル校長」



「随分と固い結界じゃな。これでは応援も入ってこれんわい」



「はは! 御冗談を。余計な輩に入ってこられる方がお邪魔でしょう?」



 ハルファスは口調こそ丁寧だが、普段教鞭をとっている姿とは違い、邪悪な雰囲気を漂わせていた。

 灰色の髪と紫の瞳に白を基調とした軍服は普段通りの姿であり、それが逆に不気味さと恐ろしさを強調している。

 しかしそれに対してもヨーゼル校長は全く怯んでおらず、むしろ不敵な笑みを浮かべてさえいる。



「くそっ、まさかハルファス教頭が王国に仇なす者だったなんて……」



「しかしヨーゼル校長は未だ王国最強の魔法騎士だ。誰が相手であっても負けることなどない」



 結界の周りにいる騎士たちが口々に話す。

 彼らはまだ秘密結社(アルカナ)のことをハッキリと知らない下級の騎士たちだ。

 しかしある程度の情報を得ている上級騎士たちはむしろ黙って結界内部の2人を見つめている。



「ワシももう若くはない。早く終わらせるとしようかの」



「それはもったいないですね、アナタとこうして戦える機会など最初で最後だというのに」



 2人は互いに顔を見合わせ、臨戦態勢をとった。

 普段は優しげなヨーゼル校長も白くなった髪と長い髭の先端からすらも威圧感を放つ。



 戦いの嚆矢、先に仕掛けたのはハルファスだった。



深海鮫牙(プレッシャーバイト)!』



 ハルファスの身体を覆うようにして水が形を成し、鮫を模した高圧の水流が襲いかかる。

 水属性魔法の中でも第四位階に相当する高度な攻撃魔法である。



焔竜乱舞(クリムゾン)!』



 対してヨーゼル校長の右手の杖から瞬時に巨大な火竜が生まれ、ハルファスに向かって放たれた。

 猛烈な勢いの炎は鮫を象った高圧水流に真っ直ぐ向かっていく。



 ヨーゼルの杖先から噴出する炎は青く色を変えており、それが通常のものより遥かに高温であり強力であることを示していた。

 しかしハルファスの放った水流も負けてはいない、互いの魔法はぶつかり合って打ち消された。



(互角、ですか……しかし水属性魔法に対して相性の悪い火属性魔法で迎撃とは。水蒸気で視界を奪うのが目的ですね……)



 ハルファスの予測通り水蒸気が辺りを包み視界を奪う。

 だが次の手に2人とも動いていた。



千本(サウザンド)ナイフ!!』



 ヨーゼル校長は一瞬で召喚魔法陣を描き、ナイフを喚び出す。

 そのナイフを魔力でコントロールして浮遊させ、さらに数を増やして巨大化させ、大量のそれを飛ばした。



(ククク……この気配、来ますね)



颱風圧(エアロストーム)!』



 ハルファスは飛んでくるナイフを圧縮された暴風の塊で水蒸気ごと吹き飛ばした。

 視界の晴れた戦場にナイフが音を立てて落ちる。



「やるなハルファス。流石よの」



「クククク……心にもない。召喚魔法と複製(コピー)巨大化(インラージ)を一瞬のうちに掛け合わせるなど人間技ではありませんよ」



 この戦いの様子を見ていた者たちは結界を破ることも忘れ、思わず見入っていた。



「こ、これが……ヨーゼル校長の戦い……なんて高度な魔法の応酬なんだ……。こ、こんなものに割って入れる訳がない……」



 1人の騎士が驚嘆して漏らす。

 戦いはもはやその場の誰にも予測できない段階へと向かっていく。








 聖列選争(プロエリウム)、ようやくジーナを倒して決勝に進めるかというところ。

 いきなり爆発や怪物の出現、大混乱の中で俺の目の前に2人の黒コートが近づいていた。



「お前たちは……? どうして俺を狙ってる」



「貴様の質問に答えている時間は無いな。黙って俺たちと共に来てもらう」



「……」



 背の高い方の男が傲慢かつ冷徹に言い放つ。

 フードを被っているので顔は分からないが、かなり若い男のようだ。



「まぁ別に抵抗したって構わねェけどな。そっちの方が俺としちゃ好みだ」



 背の低い方は軽薄な物言いである。

 やはり顔は分からないが、声からしてこちらもかなり若い。



「お前がレラジェを倒したってんだろ? さっきのアレもそうだが、お前の魔法は中々興味深ェ」



「!」



 レラジェ―あの紫の髪に彫刻のような白い肌、紺碧の瞳を持つ男。

 秘密結社(アルカナ)の幹部クラス、奴のことを知っているということはこの2人も秘密結社(アルカナ)の手の者に違いない。



「……これ以上この馬鹿がペラペラと喋る前に貴様を連れて行く、覚悟はいいな」



「んだとテメェアスタロト!」



 アスタロトと呼ばれた方の男がこちらに右手をかざす、その瞬間俺に向かって真空の刃が放たれた。



『2連地動壁(パワーウォール)!』



「……!」



 真空の刃は俺に当たるより先に、眼前に現れた岩の壁によって防がれる。



「まだ無事のようだな我が好敵手(ライバル)!」



「この連中の相手は俺たちがする、お前は下っていろ」



「……皆!」



 上から降りてきたのはハルクにアリウス、そして俺の隣にいつの間にかシオンもいた。



「ったく、そのボロボロの身体でこれ以上戦えるわけないでしょ?」



 確かにジーナとの戦いを終えて消耗しきっていた今、この未知の2人を相手取ることはとても出来なかった。

 この援軍たちは心強い。



「おーおーゾロゾロと。お前らに用はねェが邪魔するなら容赦できないぜ?」



「よく言うな。戦いたくて仕方がないという雰囲気だぞ? 我が好敵手(ライバル)に手を出す前にこのハルク・レオギルスと戦ってもらおうか」



「いいよな? アスタロト、ああ言ってんだぜ」



「……さっさと排除するぞ」



「よし。いつもの(・・・・)で行くかね」







 ―学園屋上の戦い



「さぁまだまだこれからですよ」



 ハルファスが笑みを浮かべて構える。

 すると再び大水が彼の周りを覆い、それは波となってヨーゼルに襲いかかった。



(本来は防御用に使う大波濤(シュトローム)の攻撃転用か……器用なものじゃな)



大地城壁(フォートレス)!』



 ヨーゼルは地面に手を付き、眼前に巨大な土の壁を作り出した。

 まるで城壁のようにそびえ立つそれが大波からヨーゼルの身体を守る。



 やがて水の勢いがなくなると、ヨーゼルはハルファスの位置を確認するために壁の上へと駆け登った。

 だがその瞬間―



疾風連斬(スラッシュガスト)!!』



「!!!」



 そのタイミングを見計らったかのように、ハルファスは何発もの真空の刃を放った。

 人の身長くらいの風の刃は切れ味鋭く、土の壁を次々に切り刻む。



 真空の刃を避け、ガラガラと崩れる城壁から降りたヨーゼル。

 そこにハルファスが腰に差したレイピアを抜いて接近する。



「体術はどれほどですかね?」



 レイピアを杖で防ぐヨーゼル。

 ハルファスは強化(ライズ)を使い、猛烈に攻め立てた。

 だがこの打ち合いを不利と見たヨーゼルは一旦距離をとる。



「…………流石に……老体には堪えるの……」



 ゼェゼェと肩で息をするヨーゼル、如何に王国最強と称される彼と言えどもその齢は78。

 肉体的には衰えが隠せない。



「老いましたね校長。かつて最強の騎士と呼ばれたアナタとて寄る年波には勝てない、このレイピアで串刺しにして差し上げますよ」



 好機と考えたハルファスはさらに肉体強化をかけ、ヨーゼルの元へ一気に詰め寄った。

 勝負ありかと思われたその時。



(……!? これは……!)



「確かにワシの身体は衰えたかもしれん。じゃが勝敗には関係がないのう」



 ハルファスの身体を光の鎖が縛りつけ、動きを止めた。



(くっ……! 何だこの拘束魔法は……いつの間に)



「先ほどの打ち合いでかけておいた。……そろそろ幕引きとしようか」



(馬鹿な……あの僅かな時に? そんなことが……!)



 ヨーゼルは再び距離をとって詠唱を始めた。

 すると彼の周りに火属性、水属性、地属性、風属性の4つの魔法陣が現れた。



『これで終いじゃ。四魔殲滅弾フォースカタストロフィー!!!』

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