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92話 激闘の終止符

「待たせたな、ジーナ・エルローズ。決着をつけようぜ」



 見ているだけで凍りつきそうな冷たさを宿す零華を手に、ユーズは立ち上がった。

 一方のジーナはまるで違う様子の彼に対して訝しんでいる。



(立ち上がった……? 一体何がどうなってるの、それにこの寒さは……!)



 吐く息が白い。

 凍えるどころか、痛みすら伴うような冷気が競技場全体を包み込んでいた。



「こ、これは一体何なのでしょうか!? き、競技場内がさっきから……クシュッ!!」



 司会者もくしゃみをしながらガチガチと歯を鳴らしている。

 そしてそれは観客席も含め、皆があまりの寒さに身体を強張らせていた。







「こ、これって……な、な、何なの……? ユーズ君ってこんなもの凄い魔法が使えたの……?」



「大気中の水分が昇華してます……つまり氷点下10℃以下の極めて低い気温。一体これは……」



(ユーズ……君は一体どこまで力を秘めているのか。何者(・・)なんだ? 君は……)



 フエルとローディ、そしてアルゼラも驚愕する。

 環境にすら影響を及ぼす魔法。

 これまでユーズが見せたものと比べても桁外れの効果だ。



「校長はこの状況をどう見ますか?」



「……」



 ハルファスがヨーゼルに問う。

 しかし彼は考え込むような表情のまま答えない。



「なっ、何なんだこれは……さ、寒……」



 ガチガチと歯を鳴らして、身体を高速で擦っているハルク。



「アイツ、こんな芸当が出来たの? それにしたって競技場丸ごとなんて……」



 暖を取るべく手のひらに火を灯すシオン。

 その表情はいつもと違い、余裕のない驚きの色を帯びている。



「遂には自然すらもその手に従える、か」



 アリウスは誰に聞こえるでもない声量で呟いた。



(お前は一体どこまで強くなる? もはや恐怖すら、感じる)







 深呼吸もおいそれとできない環境下。

 ジーナ・エルローズはなるべく落ち着き払った態度と呼吸のまま身体を構える。



(大丈夫よ。次にどんな攻撃を繰り出してこようとも―)



 ジーナの目に映る未来、それはユーズが氷の魔法で氷柱を放ってくるというもの。



氷柱槍アクティ・クリスタロス!』



 予知通り、飛んでくるのは3本の氷の槍。

 だが……。



「……ッ!!」



 氷の槍がジーナの脇腹を掠め、血が吹き出る。

 この試合において初めて攻撃が当たった。



「!!? 当たったぞ!」



 観客席からも驚きの声が上がる。

 さらにユーズは追撃のため零華を手に一太刀浴びせにかかった。



「……!」



 ジーナはユーズの斬撃を受けるために岩石を腕に纏わせる。

 石装衣(ストーンクロス)の強化版、彼も零華の一太刀をまともに浴びれば終わりだということに気づいていた。



「ウフフ、まさかこんな奥の手があったとはね……やるじゃない」



「俺にも理屈はよく分からないんだけどな」



「……!!!」



 ユーズが繰り出す斬撃のスピードは以前より遥かに増していた。

 ジーナはそれを防ぐのがやっとの状態、次第に岩石の防具も凍りついていく。



「身体が熱い」



「これはユーズ選手! まるで別人のような動きです、それに対してジーナ選手の動きは鈍くなっております!!」



 一気に戦況が変わった。

 急速にユーズがジーナを追い詰める形となっている。



「ハァ……ハァ……この急激な寒さでアタシの筋肉は硬直してる。普段通りの動きとは、まるで違うわね……」



 ジーナはこの超低温下で行動することが半ばできない状態でいる。

 如何に未来を読めていても、身体が思うように動かず回避行動が取れないのだ。







「ユーズ……凄いぞ。これなら……」



 医務室で観戦していたヴェルも食い入るように画面を見つめる。

 これなら本当にジーナ・エルローズを倒せるかもしれない。

 そしてそう感じていたのはヴェルだけではなかった。



「ハルファスよ。何が起こったのか、それはワシにも分からぬが……一つ言えることがある」



「?」



あの少年(ユーズ)は常にワシらの想像を超えてゆく。この勝負、最後まで瞬きも出来んじゃろう」







 接近戦は明らかにユーズの優勢。

 彼は試合中、ジーナに言われたことを想起していた。



「最高の緊張感(スリル)、だったか。今なら十分に味わえるかもな」



「! ウフ……ウフフ……」



 ユーズの発言にジーナがわなわなと身体を震わせる。

 そして顔を上げたかと思うと、これまて見たこともない興奮した目つきになっていた。



「そう、そうよ……アタシが求めてたのはこれなのよ。さぁ……最高のフィナーレで飾りましょう!!」



 どっとジーナの身体から魔力が溢れる。

 遂に彼は本気を出したのだ。



(……何だ、岩石が?)



 ジーナの肉体に覆うようにして多量の岩が集まってくる。

 それは腕や脚、さらに身体全体を覆って巨大化していく。



岩魔人(ジャイアント)



 形成されたそれはまるで巨大なゴーレム。

 しかしジーナが操ることで、本物のそれより遥かに強化されている。



「見せてあげるわ、地属性魔法の真骨頂」



(岩を纏って巨大化。攻撃力も防御力も増し、しかも低温で筋肉が動かなかろうが関係なしってことか)



 巨大な体躯を動かすジーナ。

 進撃を始めるかの如く地面を殴りつけると石畳が真っ二つに割れた。



(何て破壊力だ……!)



 ただのパンチですらこの威力。

 喰らってしまえば一撃でノックダウンであろうことは想像に難くない。



強化(ライズ)



 ユーズは脚を瞬間的に強化し、駆けた。

 その狙いは唯一つ、唯一露出しているジーナの顔付近だ。



「その狙いは分かってるわ」



「!!」



 斬撃をシャットアウトするかのようにジーナの顔を周りから流動する岩が守る。

 彼が魔力を流し込んで操る岩は形すら自由自在なのだ。

 さらに岩は多少傷ついても即座に欠片から再生していく。



「ッ……!」



 そして接近してきたユーズを襲うように岩の鎧から石槍が突き出す。

 これもジーナの意図によって形を変える効果だ。



「まさに攻防一体。最強の矛となり盾となるのよ」



(くそっ……一分の隙もない。どうする)



 天牢雪獄(フリギ・コキュートス)を撃っても大地城壁(フォートレス)によって防御されてしまう。

 そうなると接近戦しか手はないのだが先ほどのようにジーナは対処法を心得ている。



(待てよ、そうか……)



 何かを思いついたユーズ。

 しかしジーナは再び進撃を始める。



「さぁ、何を見せてくれるのかしら!?」



 フィールドを破壊しながら進む岩の巨人。

 そのままでは生身の人間など敵うはずもない。



(……ここだ!)



 ユーズは零華の出力を上げ、斬りかかった。

 狙いはあの技―



「……ッッ!!!」



晦冥(かいめい)!!』



 ジーナの身体を覆うのは高密度の魔力によって生み出された物質。

 晦冥(かいめい)を放てる条件には合致していた。



「くっ……ウフフフ、無駄よ……アタシの岩の鎧を崩し切ることは不可能……!!」



 しかし晦冥(かいめい)を受けてなおジーナの岩石の守りは完全には破壊されていなかった。

 つまり本体の受けるダメージは倒れるほどのものへは至らない。



「馬鹿な……あの攻撃を受けても倒れんだと!?」



「いや違う……ここからだ」



 観客席にてハルクはジーナの防御力に驚いていたが、アリウスはさらなる狙いがあることを見抜いていた。



「そしてアタシの鎧は砕けた岩を元にして再生する……残念だったわね。これで終幕よ!」



 完全に再生した岩の巨人が拳を振り上げる。

 だが、その時だった。



「……!!?」



 突如岩の巨人は動きを止めた。

 操るジーナも困惑を隠せない。



(何が起こってるの……? 自由が……効かない!?)



 一方のユーズは左手から氷の欠片を生み出し、余裕気に立っていた。

 まるでもう決着はついたと言わんばかりに。



「ま、まさか……!!」



「そうだ。さっきの衝撃で砕けた岩に俺の氷を混ぜ込んだ、再生して出来たその鎧はもう自由に動かせない」



「そこまで見越して……!」



 驚愕の表情を浮かべるジーナだったが、魔法を解除したかと思うと満足そうに笑う。



「本当に信じられないわね……アタシより強いのがこの学園にいたなんて」



「アタシの負けよ」



 両手を挙げて降参を宣言、そのまま力を使い果たしたジーナは気を失って倒れた。

 遂にユーズは聖列選争(プロエリウム)優勝まで王手をかけた。



「し、勝者はユーズ選手!! 決勝戦進出です!」



 会場はどよめきと驚きに包まれる。

 平民たるユーズが決勝に進んだということもそうだが、何よりジーナ・エルローズの敗北は全生徒に衝撃を与えるものだった。







 しかし観客席のある一角、そこに立っていた二人の黒コートが不穏な動きを見せる。



「中々の見せもんだったな。あのガキ、魔剣の力もあるとはいえ、とんでもない魔法を使いやがった」



「我々も見くびり過ぎたかもしれん。だが……機は熟した、合図が来ている」



「……よし。いいぜ、さっさと始めるか」



「作戦開始だ」

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