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88話 天を穿つ

「それでは第三試合を開始します! 深淵の海精(ブルーセイレーン)1年―アリウス・ハイランド対大地の巨獣(イエローベヒモス)1年―ハルク・レオギルス!!!」



 歓声と共に2人の選手が入場する。

 どちらも俺にとってこの学園で出来た同性の友人、だがどっちが強いのか。

 それはまだ確かめたことが無かった。



 先ほどの第二試合終了直後―



「……?」



 俺は観客席に戻るとハルクにポンと肩を叩かれた。

 だが俺が振り向いても彼は無言でこっちを見ている。



「今は気になるだろうが、お前はお前の戦いに集中しろ。それにお前の優勝を阻むのはあの男(ジーナ)だけじゃないからな」



 しかしハルクの言葉を代弁するかのようにアリウスが口を開いた。



「そういうことだ我が好敵手(ライバル)。今は打倒ジーナ・エルローズに燃えているかもしれんが、奴より厄介なのは俺たちだからな! ワハハ!」



 そうだ、彼らだって当然ながらこの聖列選争(プロエリウム)のために鍛えてきてここまで残ったのだ。

 今の俺はヴェルに勝ったジーナ・エルローズのことしか考えていなかったが、彼らのお陰で少し頭が冷静さを取り戻した。



「さて、行くぞ。我が好敵手(ライバル)に最高の戦いを見せてやる」



「あぁ。……こういう組み合わせとはな」



 次の試合は2人だった。

 友人同士の初対決。



 俺はそんなさっきのやり取りを思い出しながら、競技場内を眺めていた。



「中々興味深いじゃない? あの組み合わせ」



 近くにいたシオンがズイッと身を乗り出す。

 彼女の言う通り、どっちが強いのか気になるのは確かだった。



「お前とは一度相まみえたかったぞ。アリウス・ハイランド」



「言っておくが手加減はできないぞ」



「当たり前だ。互いに全力でぶつかろうじゃないか!!」



 相対する2人の男。

 一方は坊主頭で筋骨隆々の逞しい偉丈夫、もう一方は美しい金髪に澄ました翠眼の光る美男子。

 観客の貴族たちは皆アリウスを応援しているような印象だが、既にあの2人は周りのことなど眼中にはない。



「では第三試合、開始!!」



 いきなり静寂は破られた。

 ハルクが強化(ライズ)した脚力を武器にアリウスに拳を振るう。



『地砕き!!』



 アリウスが回避したハルクの拳。

 それは競技場の石畳を貫く破壊力だ。



「相変わらずの馬鹿力め」



「馬鹿力は当たれば必殺だ。違うか?」



光弾(フォトン)!』



 反撃とばかりにアリウスの剣から光球が放たれ、それを回避するハルク。

 だが距離を取ったハルクの動きは予測済みだった。



(イカヅチ)よ、刃となりて(あめ)より来たれ 雷鳴剣(ライトニング)!』



 雷の如き光の剣がハルクに向かって落ちる。

 それに対して彼は地面を思い切り殴りつける。



『3連地動壁(パワーウォール)!』



 地属性のメジャーな防御魔法。

 だが通常のそれと違って壁の数は3枚、たとえ2枚が破壊されても攻撃はハルクに届かない。



(……地動壁(パワーウォール)を3枚。体術のみならず魔法の腕も鍛えてきたようだな)



 雷鳴剣(ライトニング)を防がれたアリウスは次なる手に出る。



『咎を滅ぼす七つの光、仇なす者に洗礼を与えん! 虹光槍(プリズムランサー)!』



 アリウスの詠唱と共に、幾つもの七色に光る槍が空中から降り注いだ。

 光属性の中でも第四位階に列する高度な攻撃魔法である。



(……!!)



 ハルクは両腕を構えて防御体勢を取り、石装衣(ストーンクロス)で身体を硬化させる。



「ぬうううっっっ!!」



 次々と襲い来る光の槍を受けて仰け反りつつも体勢を崩さないハルク。

 そこにアリウスは容赦なく攻め立てる。



「はああっ!」



 斬撃が硬化した身体に当たり、金属音にも似た音が響く。



(防がれた……だと……!)



「捉えたぞアリウス・ハイランド」



(来る……!)



 アリウスの剣を右腕で受けていたハルクが構える。

 鍛え上げられた両腕から繰り出されるラッシュ。



『篠突き!!』



「……ッッ!」



 かつてハルクが中間試験で戦ったマックス・レイヴルズの百烈突きを彷彿とさせる連打技。

 研ぎ澄まされた拳一発一発が徐々にアリウスを追い詰めていく。

 彼からすれば剣で強烈な連打を受け続け、防戦一方という状態だ。



(貴様ほどの実力なら高度な強化(ライズ)のもとでハイレベルな体術を繰り出す速攻戦闘を遂行してくると思っていたが……俺もついていかせてもらおうか!)



「……!!?」



 果敢に攻め立てていたハルクの旗色が変わる。

 アリウスが彼を上回る速度で高速の斬撃を繰り出し始めた。



「アリウスの奴……相当な強化(ライズ)ね。今まで出し惜しんでたってとこかしら」



 隣りに観戦しているシオンが言う。

 だがハルクを上回る肉体活性とは、流石天才と呼ばれるだけの実力者だ。



「決まりなんじゃない。このまま行けば地力の差でアリウスの勝ちよ」



 確かにシオンの予測は当たっているように思う。

 ハルクは体術でこそアリウスを超えているが魔法の実力では劣ると言わざるを得ない。

 もちろんハルクが弱いなどということはなく、アリウスの実力の高さ故なのだが……。



「……?」



 そんなことを考えているいきなりワアアアアと歓声が上がる。

 一体何が起きたのか、隣りのシオンの方を向くと彼女は興味深げに笑みを浮かべていた。



「一体何があったんだ?」



「……面白くなってきたわね。さっきあんなこと言っといて何だけど、分からなくなってきたわ」



 競技場内を見るとどうやらアリウスが吹き飛ばされたようで、ハルクがファイティングポーズを構えている。



「……今のは、何だ?」



「遠慮するな、アリウス・ハイランド。本気で来い」



 その身に纏うは高速の力、ハルクは新たな力を身に着けていた。







 一方、聖列選争(プロエリウム)の会場に2つの人影が近づいていた。

 大木のシンボルがあしらわれた黒い装束の若い男たち。

 その不審な2人を通さないとばかりに競技場周辺にいた騎士が止める。



「何者だ? 招待客ならば招待状を提示……」



 だが黒コートの内の1人が騎士の頭に右手をかざすと、騎士は180度態度を翻した。



「相変わらず陰険な小細工だな?」



「ただの幻覚だ。この程度で意識を操られるこの国の騎士のレベルが知れる」



 こうして黒コートの2人は競技場の警備をすり抜けた。

 競技場からは歓声が聞こえる。



「こいつは盛り上がってんなぁ……。よし、俺の任務遂行への情熱も歓声聞いてたら盛り上がってきたぜ」



「軽口を叩いてる場合か? 失敗は許されない、行くぞダンタリオン」



「相変わらずノリの悪いヤローだぜ。いいトコに水を差すってのはこのことだな」



 互いに悪態をつきながら会場へと歩を進める2人。

 気配を隠してはいるが、その強大な魔力はビリビリと周辺の空気を震わせていた。



「よし、これから数時間後? だっけか。 最高のショーを俺たちが見せてやろうじゃねェか」

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