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84話 紅蓮の魔女

「手加減はしないわよ。この戦い」



「もちろん、俺もそのつもりだよ」



 聖列選争(プロエリウム)第三の試験、その最初の試合でシオンとユーズは相対した。

 ユーズは今まで彼女と直接戦った経験がないが、その実力の高さは知っている。



「始めるわ」



 試合開始と共に、いきなりシオンが先手を取る。

 左手に収束する炎は球状になって放たれた。



爆炎弾(フレイムバースト)



氷塊(フリギ・スクトゥム)



 身長ほどのサイズもある火球は氷の盾に阻まれる。

 だが互いに次の攻撃を仕掛けていた。



 ギィン!という衝撃音、さらにカチカチと金属が擦れ合う音。

 お互いの剣が真っ正面からぶつかり合う。



「剣の腕はほぼ互角……か」



 観戦しているアリウスが呟いた。



(そうなれば勝敗を分けるのは……)



連華球(ファイアブルーム)!』



「!」



 衝撃で2人ともが後ろに跳び退いた瞬間、シオンは5つの火の玉を見舞った。

 だが負けじとユーズも対応していく。



氷柱槍アクティ・クリスタロス



「……!」



 氷の槍と火球はぶつかって打ち消し合う。

 そして2人は同時に駆けた。



「……やるわねアンタ、やっぱ」



「そっちこそ」



 ユーズとシオンがすれ違いざまに放った斬撃は互いの頬を掠める。

 その凄まじいスピードで繰り広げられる高度な戦いに観客は度肝を抜かれた。



「す、凄い!! 一進一退の攻防です! ユーズ選手とシオン選手、ハイレベルな戦闘が続いております!!!」



 司会者も興奮したように上ずった声で話す。

 だが戦っている2人は未だ探り合いだ。



(あの剣を使わない……ってことはユーズはまだ本気じゃない。ナメられたもんね)



(ハッキリ言って火属性魔法との撃ち合いは不利だな。下手に長引けばこっちが負ける)



 ユーズの手が零華に伸びようとするその時、シオンはそれを好機と見たのか大技を仕掛ける。



『業火よ、竜となりて災いを灰に変えよ! 焔竜乱舞(クリムゾン)!!』



 膨大な量の魔力が炎となり、燃え上がる竜の形へと姿を変えた。



(あれは中間試験で披露したシオン・エルメージュの最強魔法。あの時と比べて発動までの時間も大幅に短縮されている、どうやら相当実力を上げたようだな)



 アリウスは観客席から分析する。

 彼の考えている通り、シオンの実力はかつてヴェルと戦った頃と比べて遥かに上がっていた。



(これを正面から防ぐには……これしかないか)



天牢雪獄(フリギ・コキュートス)!』



「!!」



 零華を抜いたユーズが振り抜く。

 雪崩のごとくに勢いづく氷の斬撃は燃える竜を飲み込んだ。



「な、何なんだあいつの魔法! 本当に学生か!?」



「このまま観客席で見てても安全なんだろうな……」



 強力極まる魔法の撃ち合いに対して観客たちは驚いたように騒ぎ出す。

 何より氷の魔法という異質の存在は余計に彼らの不安を掻き立てるものだった。

 しかし競技場内の2人はそんなものはどこ吹く風とばかり、互いの戦いに集中している。



(そうよね……私の焔竜乱舞(クリムゾン)を防ぐにはアンタだって大技を出すしかない。でもそれこそ私の狙い……!)



 シオンが剣を構えて追撃の準備をする。

 彼女の背後から5つの巨大な火球が浮かび上がった。



『爆ぜる怒りの炎、星の如く降り注がん! 流星炎群(フレイムシャワー)!』



「!」



 一発一発が爆炎弾(フレイムバースト)と同じ威力の火球、それが上空から降り注ぐ。

 範囲も弾の大きさも広く避けきれない。



(マズいな。消費は激しいが……)



天牢雪獄(フリギ・コキュートス)!』



 再び零華を振り抜いたユーズ。

 全ての火炎弾を氷漬けにして動きを止めた。



「あいつら飛ばしすぎじゃないのか? あれでは直ぐにバテるぞ」



 観戦していたハルクが思わず呟いた。

 彼の言っていることは正しく、2人はかなりの大技を連発する荒い戦闘を繰り広げている。



「恐らくそれがシオン・エルメージュの目的だろう」



「何だと? 一体どういう意味なんだ」



 ハルクの呟きを耳にしたアリウスが話し始める。



「先に仕掛けているのはシオンの方だ、目的はユーズの魔力の枯渇。だからこそ素早く強力な魔法で攻め立てている」



「!? だがその戦法では互いに魔力が枯れるんじゃないか?」



「シオンの使う魔法は主に第三もしくは第四位階のものだ。それに対しユーズの使う魔法は第五位階に相当する。威力ではユーズの方が上だが、仕留めきれなければ先に消耗し尽くす可能性が高い」



 焔竜乱舞(クリムゾン)流星炎群(フレイムシャワー)は火属性魔法において強力な部類として序列化されている。

 しかし天牢雪獄(フリギ・コキュートス)は序列化された場合、それらの上に相当する第五位階の規模の魔法だ。

 その分大量の魔力を使うことは誰が見ても明白であった。



(……零華によって多量の魔力を消費し、さらにシオンの魔法を防ぐため天牢雪獄(フリギ・コキュートス)の連発……ユーズ……!)



 ヴェルが珍しく物憂げな表情でユーズの戦闘を見つめていた。

 だが当然戦っているユーズはそのことに気づいている。



(はぁ……はぁ……やるな、シオン。こっちの手の内を見抜いた上で有効な戦い方をしてくる……強い!)



 息が荒くなるユーズ。

 消耗している彼を見るシオンは思い描いた戦いに持ち込めていると確信する。



(私か勝つ……そしてこの観衆の前で実力を見せつけ、国中に私の名を轟かせてやる……!)







 一方のヨーゼルとハルファス。



「どうやらシオン・エルメージュの方が一段上のようですね。あのままでは到底スタミナが持ちません」



「フォフォ……確かに」



「?」



 ユーズの劣勢に笑っているヨーゼルの姿を見て訝しむハルファス。



「いや、ワシはもちろんどちらが勝っても一向に構わぬよ。あの2人はどちらも有望な若き生徒たちじゃ、どちらが勝っても何らおかしくはない」



「では何故……?」



「見てみるのじゃ、彼の眼を。あれは気圧されている者の眼ではない」



(さてここからどんな戦いを見せてくれるのか……楽しみじゃぞユーズ)

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