83話 選ばれし者たち
「さぁ2種類の鍵を手に入れた選手たちが続々と戻って来ました!!!」
競技場に集う選ばれし突破者。
その中には1年生が全員生き残っているという異様な事態だった。
「まさかヴェルエリーゼと組んで、有力候補を潰すとはな」
「別に最初はそんなつもり無かったけど。やっぱり流石はヴェルだよ」
俺もヴェルと共に戻ってきた後、競技場でアリウスに話しかけられる。
ファルクとの戦いで、まさかヴェルが助けに来るとは予想外だった。
「私は元々宝箱の方で対になる鍵を見つけていたが、近くにユーズの気配とただならない魔力を感じたんだ」
「やれやれ、随分な余裕ね」
シオンが呆れたように言い放つ。
まぁ確かに、普通ならば自分の分の鍵を手に入れれば他者の助けなどする必要はない。
「でもありがとうヴェル。俺は助かったし、嬉しかったよ」
そう告げるとヴェルは照れながらニコリと笑う。
後ろではシオンがあー暑い暑いとボヤいていた。
「8人全員が出揃いました! これにて第二の試験は終了です!」
競技場のどよめきと歓声。
8人の中に俺がいたことは驚愕と共に観客の怒りも買うことになるだろう、中々気がめいる。
「ウフフフ、盛り上がっているところ悪いけど。ご挨拶させて貰うわね」
俺の後ろから現れた大男。
そのビジュアルは黒の長髪に女性的な化粧、耳につけた5つのピアスと首輪、大柄な体格、鮮血のような口紅。
非常に威圧的な外見の青年だった。
「? あなたは確か3年の……」
「そう。ジーナ・エルローズよ、ヨロシクねユーズ」
「……はい。よろしくお願いします」
彼の差し出した手を握る。
見た目は不気味だが、悪い人では無いのだろうか。
「次の試験が楽しみね」
「次の試験? あぁ、どんなものなのか知ってるんですか?」
「直ぐに説明が始まるわ」
ジーナの言った通り、司会者は第三の試験について口を開いた。
「では選手の皆さん! いよいよ聖列選争最後の試験です!」
遂に最後の試験、これを勝ち抜けば聖選士の称号を獲得できる。
「第三の試験は一対一の対決です!! トーナメント方式となります!」
残っているのは8人、トーナメント方式となると3回勝てば優勝ということになる。
内容としては単純至極で良い。
「第三の試験は1時間後に開始いたします!」
こうして第三の試験に参加する俺たちは控え室へと向かった。
「いよいよ最後の試験ですね、校長」
「うむ。やはり、才能ある若者の切磋琢磨を見ると励まされるものじゃ。お主もそう思わんか? ハルファス」
「えぇ、彼らの才能には驚かされます。本当に秘密結社をも超えるのかもしれません」
ヨーゼル校長とハルファス教頭が話す。
特に校長は満足気に観戦している。
「今回の最有力候補はジーナ・エルローズと言われています。恐らくこの中では彼が最も聖選士に近いでしょう」
「ふむ……」
ハルファスが手元の資料を見やる。
そこには今回出場する生徒たちの詳細が書き記されていた。
「確かにジーナは学園始まって以来の類まれなる実力者。今の生徒の中では最も強いと言えるじゃろう……しかし」
「ワシはある予感があるのじゃよ。実力だけでは測りきれない可能性、何かが起こるとな」
「……」
―選手控え室
「一対一とはな。望むところだぞ我が好敵手」
「まだ何もハルクと当たると決まったわけじゃないだろ」
「何を言ってる! こうなったら決勝で会おう、というやつだ。俺と戦うまで負けるなよ!」
学年ごとに分けられた選手控え室。
この場には俺とヴェル、アリウス、ハルクにシオンがいる。
「ユーズは誰にも負けはしない、だろう?」
俺とハルクの会話に入ってくるヴェル、嬉しいことを言ってくれるがプレッシャーも中々だ。
「……あぁ、そうだな。俺は負けない」
「フン。休み期間中にパワーアップした俺の力を存分に見せてやるからな」
そう言いながらも俺はハルクと腕を組んで健闘を誓い合う。
「私こそ、誰にも負けるつもりはないからな」
ヴェルもここまで来たからには全力で勝つ気だと宣言する。
だがやる気に溢れているのは彼らだけではない。
「俺が勝つ」
そう言い放つのはアリウスだった。
顔は真剣そのものだが、制服のボタンをわざわざ外して、妹―アメリアの顔が描かれたアンダーシャツを見せつけてくる。
「俺は妹のために戦っている。この想いの分、お前たちよりも上だ」
しかし実際、アリウスの妹を想う気持ちは本物だ。
何よりも彼の実力は俺が一番よく知っている。
間違いなく、この中で当たれば最も苦戦するだろう相手であることは言える。
「……シオンも何か言っとかないのか?」
俺はふと部屋の離れたところにいる彼女に話を振った。
普段は喋る彼女にしては何も話さないということに違和感を覚えたからだ。
「……別に。でも1つだけ言うなら、私は馴れ合いなんてしないわよ。誰が勝とうが負けようが恨みっこなし」
相変わらず素直じゃない……と思ったが、同時に彼女の纏う雰囲気がいつもと違うことも何となく察知できた。
彼女はこの聖列選争に何をかけているのだろう。
そうしている内に案内役が部屋に来て説明を始めた。
この第三の試験に限り、試合に参加していない選手は観客となることができる。
俺たちは再び歓声包む競技場へと戻って来た。
最後の試験というだけあって、熱量は最高潮だ。
「では第三の試験、第一試合を始めます! 天空の鷲獅子1年―ユーズ対烈火の覇竜1年―シオン・エルメージュ!!!」
最初の試合、俺はシオンと相対することになった。
学園に入って以来、彼女との交流はありこそすれ、今まで戦ったことはない。
しかしその実力の高さはよく知っている。
「手加減はしないわよ。この戦い」
「もちろん、俺もそのつもりだよ」




