81話 生まれながらの才覚
「いやぁ、何とかなったな」
「先輩のお陰ですよ」
無事に俺たちはコカトリスの卵を入手した。
後は出口となっている転移魔法陣の場所まで行くだけだ。
「!」
出口に向かって歩く途中、ディーン先輩は突然身体を硬直させた。
そして俺も何かの気配を感ずる。
「ユーズ、気づいてるか?」
「えぇ」
恐らく近づいてくるのは選手の1人、だが肌で感じるのはそれがかなりのやり手だということ。
何故魔法が制限されているこの環境下で、これだけ強力な気配を発しているのか。
それだけで異様だ。
「……先に行け。後で追いつくからよ」
「先輩……」
ディーン先輩の提案に俺は直ぐに頷くことは出来なかった。
先輩が1人で敵う相手なのか、ハッキリ言えば疑問符のつく者がこちらに来ている。
「ハハハ、こんな時くらいカッコつけさせてくれよ。大丈夫だって」
「……」
「安心しろ。俺はキャプテンだぜ?」
ディーン先輩は右手でサムズアップを掲げる。
いつもグラジェクトで頼りになるキャプテンとしての矜持、ユーズは気づけば先輩の言葉を受け入れるように首を縦に振っていた。
「よし、行きやがったな」
走っていくユーズを目にしてディーンは安心したように佇む。
しかし近づく影を見るとその身を構えた。
「やっぱお前か。烈火の覇竜2年、ファルク・ドレッドロード」
そこに立っていたのは青緑色の眼をたたえた黒髪の小柄な男。
彼が今大会最有力者の1人、ファルク・ドレッドロードだ。
「来いよ」
「良いの? 僕と戦ったら無事じゃ済まないよ。黙ってそれを渡せば見逃してあげるけど」
人畜無害そうな見た目のファルク、だがその雰囲気と発言はさながら敵を狩る時のハンター。
そして彼の持つ異様な雰囲気の正体が姿を現した。
「……!! やっぱし噂通りの力だな。さしずめこの霧もお前にゃ関係ないんだろ?」
ディーンは気圧されながらも、ユーズに掛けた言葉を思い出し己を奮い立たせる。
キャプテンの意地―彼は向かっていった。
歓声包む競技場、既に第一の試験をクリアーした選手たちは何人もここへ戻ってきていた。
「ユーズ!」
「ヴェル! 良かった」
俺が戻ると既に見知った顔は何人も。
ヴェルやアリウス、ハルクにシオンもいる。
そうして待っている間にも人は増えていくが、その中にディーン先輩は居ない。
「さぁ続々と選手たちが戻ってまいりました! 11人の枠は残り1人です!」
転移魔法陣が光る、そこに姿を見せたのは……。
「最後に戻ってきたのは……ファルク・ドレッドロード選手! 全く慌てていません! これが強者の余裕というものなのでしょうか」
黒髪の少年は涼しげに入ってきた。
その身体には傷1つ付いていない。
「ここで緊急の報告です! 天空の鷲獅子のディーン・ガジェット選手が現在重体で運び込まれました!」
「!」
先輩はボロボロの状態で脱落、転移させられてきたらしい。
タイミングとしては恐らくこのファルクが最後に先輩と戦った相手だろう。
俺の眼は半ば自然とファルクへ向かっていた。
そしてそれにはファルクも気づいたようで―
「ん? 何か用? あぁ、そういえば君ってあの身の程知らずの熱血雑魚と仲が良かったんだっけ。一緒に行動してたもんね」
「……何だと?」
ディーン先輩を侮蔑するファルク。
俺の内心には激しく怒りが燃え上がる。
「さぁ第一の試験を突破した選手も出揃いました! 次の試験内容を説明します!」
司会者の宣言で半ば強制的に試験へと意識を引き戻される。
「皆さん入手したコカトリスの卵を開けてください!」
そこで俺たちが手にしたコカトリスの卵は本物でないことに気づいた。
魔力を流し込むと開くよう仕掛けが施してある。
「鍵、か」
中に入っていたのは金色の小さな鍵。
これが次なる試験の文字通りキーアイテムという訳か。
「第二の試験を突破できるのは最大8人です! 場所は第二演習場、今皆さんが手に持っている鍵が突破の重要なアイテムとなります!」
「そしてお気づきかもしれませんが、鍵は2種類あり、早く金と銀の2つを揃えた選手がクリアーです!」
確かに周りを見ると銀色の鍵を持っている選手も多い。
「鍵は演習場内に置かれた宝箱の中に入っていますが、同じ色の鍵を複数入手してもクリアーになりません!」
「クリアーする方法は2つ、宝箱から別の色の鍵を探し当てるか……他の選手から奪い取るか! さぁ始まりです!」
第一の試験と同様、俺たちは転移魔法陣を通ってあの地下迷宮へとやって来た。
またしてもランダムな配置、周りには誰もいない。
「やっぱり今大会はファルクで決まりだぜ」
「見たよなアレ……」
第二の試験が始まったというのに、競技場の観客たちはざわめき立っていた。
彼らはファルクとディーンが戦っていた光景を観戦していたが、そのあまりの一方的な蹂躙に誰もが圧倒されていた。
「ファルクって一体何者なの?」
観客席にいたフエルは隣にいるローディに問いかける。
「ファルク・ドレッドロード……私も詳しいことは知りませんが、先程の戦いで見せたのは召喚獣でしょう」
「召喚獣!? ってことは……召喚士の家系なんだ」
フエルが驚くのも無理はない。
召喚獣を操ることができる"召喚士"とは、王国の中でも極一部の家系にのみ受け継がれる才能であり肩書であるからだ。
すなわち王国のエリート中のエリートである。
「えぇ。しかしあれは……」
ローディには1つの疑問があった。
本来ならば召喚獣を喚び出すには多量の魔力を消費して召喚魔法陣を描かなければならない。
具現化が制限されたあの環境下でそんなことは出来ない芸当である。
「彼はその中でも更に希少なのさ」
「あ、アルゼラ先生!?」
2人の近くに、いつの間にかアルゼラ先生が座っていた。
まるで音もなく瞬間移動したかのよう。
「希少……というのは?」
「生まれながらにして一族の召喚獣に愛されている……とでも言うのかな」
ローディの問いに答えるアルゼラ。
しかし聡明な彼女からすれば納得のいく回答ではない。
「ハッキリ言って詳しいことは分からない。ただ彼の意志に応じて、いや彼が反応しなくとも、契約している召喚獣が自動で彼を守る。それがファルクの強さなんだ。召喚獣に愛されている……としか言いようが無いだろう?」
アルゼラは苦笑する。
しかしそんな特異な才能は他に聞いたことがない、彼が説明できないのも無理はないのだ。
「間違いなく数十年に一度の逸材……天才だよ」
第二演習場―地下迷宮内―
「ふぅ〜ん。偶然かな、でも君は金の鍵なんだね。置いていってよそれ」
「断る、って言ったら?」
ユーズは1人の選手と相対していた。
その選手はあの、ファルク・ドレッドロード。
「…………は?」
ユーズの答えに怒りを露わにするファルク。
一気にその場の雰囲気が変わる。
「さっきのやつもそうだけど、ホワイトクラスって身の程知らずが多いのかな」
「どっちが身の程知らずか……確かめてみましょうか、先輩?」
ファルクがユーズと戦おうとする光景が映し出され、歓喜に湧く競技場。
天才貴族が場違いの平民を叩きのめす姿を多くの観客が期待していた。
だがアルゼラは腕を組んで、相対する2人を見つめていた。
(……さて、ファルクは強敵だよユーズ。でも彼に勝てれば……君はもっと上に行ける)




