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75話 聖列選争

 俺の身体はすっかり良くなり、屋敷に戻っても問題ないまでに回復した。

 心なしか、傷の治りは早かったように感じる。



(さて今日から学園生活再開か)



 結局レラジェについての謎は多く、分からないことばかりだったが、今一番気になることがあった。



(コレ、一体何なんだ……?)



 着替え中に左胸を鏡で見る。

 黒い紋様は、まるで雪の結晶の形に見ているが、1つ1つの突起が剣のような形になっている。



(間違いなくあいつの仕業だった)



 レラジェとの戦いで気を失う際、あの不気味な黒眼の女にやられた覚えがある。

 黒く鋭い爪に突き刺され、気づくとこの紋様が左胸にあったのだ。

 特に触っても何もあることもなく、痛むことも別にない、一体何なのだろう……?



「ユーズ、そろそろ支度は出来たか?」



「ん、あぁ。今行くよ」



 とりあえずはまぁ、あまり気にしないことにしよう。

 誰か人に見られたら面倒だが……。



 その後、俺にとって少し緊張の走る時があった。



「やぁローディ、おはよう」



 ヴェルが挨拶をする相手、あの一件以来ローディと会うのは初めてのことだった。



「おはようございますヴェル」



 ローディはヴェルに挨拶を返すと、こちらを一瞥してから言った。



「ユーズも……おはようございます」



「おはようローディ」



 ややぎこちないやり取り、何か話すことはないものか。



「あ、その……見た目、戻したんだね」



「えっ? えぇ、やっぱり私にはアレは似合わないと思って……」



 ローディの見た目は休み明けの派手な格好から、すっかり元の状態に戻っていた。

 やはり俺としてはこっちの方が違和感が無いものの……。



「いや、前も似合ってたよ。けど今の方がもっと良い」



「! もう、ユーズはサラリと口説き文句を言うのを止めた方が良いです」



「え?」



 ローディはちらりと視線を誘導する、彼女の誘導に従って見ると、隣のヴェルが頬を膨らませたようにして不機嫌な様子だ。



「でも嬉しいです。ありがとう、ユーズ」



「……私にはそういう台詞を中々言ってくれない癖に」



 心配はあったが、俺たちは元の仲に戻れたような気がした。

 本当に良かった。







 学園の教室に着くと、何かざわついていた。



「何だ? 皆慌てたように……」



「ヨーゼル校長が全生徒の前で話があるんだってさ」



 フエルが内容を教えてくれる。

 今日は特別なイベントがあるなど聞いてないが、一体どうしたというのだろう。



 そこでは入学式の時と同じ広大な会場で、その時よりさらに多い数百人の生徒たちが集っている。

 ざわざわと喧騒は絶えず、皆が一体どういう用事で集められたのだろうと疑問を感じていた。



 やがて生徒たちが集まり終えると、前方の壇上にヨーゼル校長が上がる。

 校長の表情は至極真剣で、これから話される内容の重要性を示唆していた。



「ゴホン。我が学び舎に集う才能溢れる若き諸君たちに、今日は重要なことを伝えねばならぬ。何せ国王陛下から直々に賜ったことじゃからのう」



 国王陛下から賜ったという話を聞き、学生たちがざわめき始める。

 無理もないだろう。



「静粛に! いや、諸君らを脅かそうという話ではない。それに見ようによっては非常に盛り上がることでもある」



 妙に持って回った言い方のヨーゼル校長、普段はそれほど長話を好まないので珍しいことだった。



「これより1ヶ月の後、あるイベントを開催することとなった。故にこの期間はグラジェクトのクラス対抗試合もしばし休戦じゃ、先生方もその行事のために全力を尽くすこととなろう。その分、諸君らにとっても大いなる喜びとなり―貴重な体験となるじゃろう」



 生徒たちも固唾を呑んで校長の話を聞く。

 一体どんな重大発表なのか、首を長くして待っているのだ。



「今より宣言する。今年、我が校では聖列選争(プロエリウム)を行う」



「う、嘘だろ!?」



「何かの冗談じゃないのか?」



 緊張感に包まれていた会場は一層のざわめきを強くする、皆は困惑しあるいは高揚しているようだった。

 聖列選争(プロエリウム)、何か歴史学で聞いたことがあるような……何だったか。



「静粛に静粛に。……とはいえ皆の騒ぐことも分かる。聖列選争(プロエリウム)は実に60年の間、開催されておらんからのう。故に知らぬ者もおれば知っている者もおろう。知っている諸君にとっては退屈かもしれぬが、簡単に説明をしよう」



「ワシら人間は神の祝福の中に生きておる。じゃが、才能に満つる学生たちの中で、特にその祝福を強く受けた者―それを決める場が聖列選争(プロエリウム)なのじゃ。今より600年の昔、ディアルト・ネフェシュの元で学園が始まった頃より、聖列選争(プロエリウム)はあった」



聖列選争(プロエリウム)は3種の競技を元に争い、優勝者を決める。優勝者は王国における最も優秀な学生とされ、騎士としての究極的な名誉―聖選士(ヴィクトル)の称号を授かるのじゃ。そして聖選士(ヴィクトル)は弱き者を守り強き者を正しく導く、まさにディアルト・ネフェシュの理念を遂行する騎士の歩みを期待される存在となる」



 そこまで由緒正しき行事だったとは。

 周りを眺めると、どうやらヴェルとローディは知っているようだったが、フエルを始めとした多くの学生は興奮するように顔を輝かせていた。



「しかし徐々にその競技内容はエスカレートしてゆき、危険性をどんどんと増していった。無論、栄誉を受けるに相応しき質の競技は求められるじゃろう。しかし栄誉のために多数の死者まで出す、その危険性が指摘されて60年前の開催を最後に聖列選争(プロエリウム)は中止されたのじゃ」



「……じゃが今回、国王陛下直々の願いを受け、ワシら教師陣による絶対に死者を出さぬという覚悟の元で再開することを決定した。1ヶ月の準備を終えた後に競技を始めようと思う」



「出場の選考は今より2週間以内、希望者のみが競技に参加することとなる。出場にあたっての条件は金の星褒章(スターバッジ)3つに相当する数を得ていること、これのみじゃ。優勝者には先ほども述べたように聖選士(ヴィクトル)の称号、また1千万の賞金が与えられることになっておる」



 金の星褒章(スターバッジ)3つ分となると……俺の手持ちは金4つに銀と銅が1つずつ、出場の条件は満たしてある。

 ヴェルが金3つに銀1つであるから彼女も同様に出場できる、学外任務のお陰だ。



「この時期に金の星褒章(スターバッジ)3つ分というのはかなり厳しい条件じゃろうと思われる、しかし競技内容の難易度を鑑みれば適切な条件なのじゃ。もしも今、出場資格を満たしておる生徒たちは熱意を持って出場を考えてみてほしい。今日の話は以上じゃ」



 熱狂的な場の雰囲気、だがヨーゼル校長が言うように金の星褒章(スターバッジ)3つ分を既に所持している学生はそう多くない筈だ。

 自ずと出場者は決まってくる。



 恐らくヴェルは出場すると言うだろう。

 しかし俺は……どうする?







「いやぁ、凄かったね。僕ビックリだよ!」



 話を聞き終えて教室に帰る途中、フエルが言う。



「60年ぶりの栄誉だよ!? しかもその時に優勝を決めたのはヨーゼル校長本人なんだ。ってことは今回で優勝したらヨーゼル校長と同じように……!」



「ヴェルはどうするんです?」



「私は……やってみようと思う。監督生になることも目指してはいるが、今回の聖列選争(プロエリウム)に優勝すればそれ以上の価値だ。きっと父上も母上も喜んでくれる」



 やはりヴェルは出るつもりらしい。

 もしも優勝できれば1年生にして最も優秀な学生という栄誉を得られると考えれば、出ない話は無いのかもしれない。



「ユーズはどうする?」



 ヴェルに問われる、だが俺は……いや……。



「……俺も頑張ってみるよ。それに君の行くところなら、俺も行かなくちゃ」



「そうこなくてはな! 頑張ろうユーズ!」



 そう、彼女の側で彼女を守らなければ―

 騎士とは大切なものを守るもの、俺は今度こそ皆を守ると決めた。

 本作品を見てくださりありがとうございます。


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