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72話 ケジメ

「ローディ! ユーズ!」



 ドアを力強く開けて入ってきたのはヴェルエリーゼだった、フエルも後ろに続く。

 2人は王都中を探し回り、ようやく当たりの場所までたどり着いた。



「!」



 ベッドの上で倒れているのは……ローディだった。

 ヴェルエリーゼは慌ててそれに駆け寄り抱き起こす。



「ローディ!」



「……ん……ヴェ……ル……?」



 ローディは薄目を開け、ぼんやりと意識を覚醒させた。

 ヴェルは心配そうに彼女を見る。



「大丈夫か? ローディ」



「ヴェル……ごめんなさい……私……」



 ローディがヴェルエリーゼの手を取って言った、しかしヴェルエリーゼは握り返しながら首を横に振る。



「いいんだ。何があったか詳しくは分からないが……元のローディに戻ってくれたんだな」



「……」



 既に口調も雰囲気も元のローディに戻っていることをヴェルエリーゼは感じていた。

 フエルも魔力の感知の結果、闇の魔力が弱まっていることに気づく。



「私……ずっとヴェルが羨ましかったんです。いつも自分のやりたいことに向かって進める……そんなあなたが羨ましかった」



「でも私は臆病で……自分のやりたいことを口に出せませんでした。でも、今回だけは我慢できなかった……他の何も考えないで……」



 ユーズに迫った彼女の姿、あれは偽らざるローディの本音であり真実の1つでもある。

 しかし最後に彼女はそれよりも、別の大切な物を選んだのだ。



「ヴェル……ごめんなさい……」



 親友が大事に思っている(ユーズ)を奪おうとした、ローディはそれを申し訳なく思い謝罪の言葉を口にした。

 ローディにとって、ヴェルとの友情はユーズのことと同じように大事だと気づいた。



「いや、私の方こそすまなかった。ローディ……」



 ヴェルエリーゼも親友だったローディのことを顧みず、ユーズとのことで彼女を傷つけていたと反省する。



「私は……ユーズのことを譲るつもりはない。だが…………ローディとなら、競っても……いい」



「!」



 ある種のライバル宣言、あのヴェルがこんなことを言うなんて……とローディは驚いた。

 それと同時に親友の優しさを感じ、嬉しかった。



「ヴェル……ありがとうございます」



「あぁ……もう一度言っておくが、負けないからな」



 2人は互いに笑顔を見せて和解した。

 そのやり取りを見ていたフエルは安心で胸をなで下ろす。



(ホッ……良かったぁ。これで一件落着だよね)






________







「……来たか。待ちくたびれたよ」



 屋上に佇む黒い影、亡霊はそこにいた。

 そして相対する男は真っ直ぐにそれを見据えている。



「レラジェ……!」



「待った待った。そんなに怒りをバチバチされちゃあ、風情がないよねぇ。それに君の知りたいことだって分からないよ?」



 レラジェは両手を挙げてやれやれと首を振る、どうやら何かを話したいようだ。



「お前……ローディに何をした、答えろ」



「だよね、それは君の気になってることだろうから」



 屋上の塀に座り込むレラジェは質問に答えるべく口を開いた。



「と言ってもまぁ、僕はそんなに特別なことをしたわけじゃない。元々アレは彼女の持っていた資質さ」



「君も聞いたことくらいあるだろう? かつて大戦で敗れた魔族の一部は人間と交わることで種を存続させようとした……と」



 かつての人魔大戦、確かにその話は学園の授業で耳にしたことがある。

 そして魔族は闇の魔法を得意とする種族、レラジェの元々の資質という発言、ローディが見せたあの姿……まさか。



「気づいたみたいだね。そう、彼女は魔族の血を引く末裔。内に秘めたまま、使いあぐねていた魔族―サキュバスの力を僕がちょっと表に引き出してやっただけさ」



「……」



「彼女は資質があったよ。あの金ばっかり欲しがるカジノの守銭奴や才能も無いのに力ばっかり欲しがるバンダナの馬鹿より遥かに上さ、動機もかわいいもんだよねぇ。まぁ僕の言うことは全然聞かなかったけどね」



 カジノの守銭奴やバンダナの馬鹿?

 マックス・レイヴルズのことをレラジェが誑かしたのは何となくだが気づいていた、だがまさかシルバ・ザンクアリまで奴の仕業だというのか?



「お前……何人の人間を不幸にしてきたんだ」



「不幸? それは見解の相違だな。僕は少なくとも彼らの願い……いや、欲望を叶えてやってきた。どんな形であれ叶えられてきたそれを破壊したのは紛れもない君だよ、ユーズ」



「彼女のことだってそうだ。君たち海に行ったろう? あの時に彼女は強い欲望を発していた、そのままじゃ決して叶えられない願いをね」



「僕はそれに気づき、彼女を導いてやったんだ。彼女が君を手に入れるための準備さ。見た目をチャチャっと変えて、後は魔族の血を覚醒させるだけ。簡潔かつ無害なもんだろう? 少なくとも彼女の嫌がることは何1つ強要しちゃいない」



 レラジェはそう言い放つ、まるで自分は良いことをしていたかのように……。



「詭弁を弄するな。お前は人のためになるようなことなんて一切していない。聞いてれば分かるんだよ、お前が人間を見下してることくらい……!」



「ほぅ……」



「お前はただ自分の気まぐれでやってるだけだ。願いを叶える? 調子の良いことを吐かすなよ、下衆野郎!」



 ユーズは声を荒げた、彼がそこまで怒りを覚えるのは珍しいことだった。

 こいつだけはこの場で倒さなければならない、そんな覚悟が心に湧く。



「クク……ハハハ! 流石だね、僕のペースには乗ってこないか。君の言う通り、こんなのはただの暇潰し……と言いたいとこだけど」



「僕が喰うに値する、そんな魂を見つけるって目的もあったのさ。ようやく見つけたよ」



 喰うに値する魂?

 こいつは一体何を……。



「君の魂を貰うよユーズ。さて、どれほど力のある魂なのかな? 楽しみだ……!」



「俺はここでケジメをつける。お前との因縁も、自分の過ちともだ」



『"領域"発動、冥暗結界』



 レラジェは右手を掲げると闇が辺りを覆い尽くし、黒いヴェールのような空間に閉ざされた。

 恐らくアリウスの使っていた光の結界と対を成す闇の結界だろう。



「これで周りを気にせずにやれる、さぁ始めようか」



 そう言うといきなり戦闘は幕を開けた。

 レラジェの斬撃が襲いかかる、ユーズは咄嗟に剣を構えて防御姿勢を取った。



「なるほど、やるね。僕の攻撃は見切り済みってわけか」



「お陰様でな……!」



 既にレラジェのメインとなる攻撃手段は把握している、それは手から伸びる見えない魔力の刀。



「それなら僕ももう少し、本気を出してみようかな」



「何?」



 レラジェは一旦ユーズから距離を取り、右手に魔力を集中させ、それまで手刀の形にまとめていた指を開いた。



幻想剣(メタブレイド)



(手刀の形を崩した……魔法を解除したのか? いや、まさか……)



 レラジェが強化(ライズ)を使って一気に距離を詰めてくる。

 右手を思い切り振り下ろしてきた。



 ガキンと金属同士がかち合う音が鳴り、ユーズの剣は幻想剣(メタブレイド)を防ぐ。



(やはり……!)



「よく分かったねぇ」



 レラジェは魔法を解除したのではなく、5本の指それぞれから魔力の刀を生成していたのだ。

 故に今のレラジェは5つの斬撃を操ることができる。



「!」



 隙間を縫うように、親指から見えない刀が伸びてユーズの身体を掠める。



「長さだって残りの魔力に応じて自由自在、見えない刃と戦うってのはこういうことだよ」



「黙れ!」



「さぁ、今宵は存分に()り合おうか。尤も君は既に随分と嬲られたようだけどね」






________







 一方でヴェルたちはローディの体力を回復させると、ユーズを探そうとしていた。



「ローディ、ユーズはどこにいるんだ?」



「恐らく上です、でも……」



「上? 何か強い闇の魔力を感じるけど、ユーズ君の魔力は感じられないね」



 フエルの感知は闇の結界に遮られてユーズのことを探し当てられずにいた。



「多分レラジェの仕業です。そうなるともう戦っている可能性が……」



「分かった。屋上に行くぞフエル!」



 ヴェルが促すとフエルは首を縦に振る。



「待ってください……私も行きます」



「ローディ? でも身体が……」



「大丈夫です。それよりも私の始めたことですから……どんな形であれ見届けたいんです……」



 ローディの意思を組んだ2人は彼女を連れ、闇と狂気の渦巻く屋上へと向かっていった。

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